5話 Bランク冒険者
「今日はこのくらいにしておきましょうか」
時間も遅くなってきたし、ここいらが引き際だろう。モニカの意見に賛成だ。
「それにしてもアイトさん、凄く強いんですね。今日倒したモンスターのほとんどを一人で倒してしまうなんて、驚きました」
「いや、別にそんなことないさ。二人のサポートが良かったおかげだよ」
「またまた、謙遜しちゃって。アイトなら、Aランク冒険者も夢じゃないんじゃない?」
ここでは一応謙遜しておいたが、さっきまでは死ぬほどイキリ倒していた。いくら異世界といえど楽勝すぎた。基本的に剣を振り回すだけでどんなモンスターも一撃で倒せた。この状況で調子に乗るなということの方が無理な話だ。雑魚を狩って美少女にちやほやされるなんて、脳汁ドバドバに決まってるだろう。
「ドロップアイテムも沢山拾えたし、結構な値段になるんじゃないかしら。きっとしばらくはクエスト受けずに済むわ」
今回はクエストといってもダンジョン攻略だから、依頼主から報酬を受け取るわけではなく、倒したモンスターがお金を落としたり、ドロップアイテムを換金したりして、お金にするのだ。
まあ良くも悪くも自分の実力次第というわけだ。
「リリー、お願いできる?」
「はい。」
『帰還』
真っ白な光に包まれる。
目を開けるとそこは始まりの地だった。
「あれ? 俺たちダンジョンにいたはずだよな?」
「魔法を使って帰ってきたんです。予め登録しておいた一か所にしかいけませんが、結構便利なんですよ」
リリーは得意げに言った。確かにこれは便利だ。
「さあっ! 早速ギルドに行ってアイテム売りましょう!」
モニカは足をばたつかせながら言う。もう待ちきれないといった様子だ。
「こんにちは!」
モニカは勢いよくギルドの扉を開けた。
だが、なんだかいつもと雰囲気が違う。何かあったんだろうか。
「私、少し聞いてきますね」
リリーが他の冒険者に尋ねた。
「アランさんが来てるんだよ。久しぶりにこの街に帰ってきたんだ」
「アラン? 聞いたことないわね」
「お前たちは新参だから知らないのも無理は無いが、結構名の通った冒険者なんだぜ。この街出身の冒険者で、Bランクまで上り詰めたんだ」
「でも、リリーだって駆け出だけどCランクだよ?」
「一つ違いと言ってもな、CランクとBランクの壁は厚いんだ。Bより上に進めるのはほんの一握りの奴らだけなんだよ」
「ちょっといいかな?」
突然声をかけられた。初めて会う人だ。
サラッとした青い髪に端正な顔立ち。爽やか系イケメンって感じだ。
「アッ、アランさん!? 何の用でしょうか?」
この人がアランか。近くに来ると分かるが、中々鍛えてるな。
「いや、用があるのはジャンさんじゃなくて、そっちの子なんだけど」
アランの指は俺を指していた。
「えっと、俺……ですか?」
「僕は依頼であるモンスターを追ってるんだけど、良かったら協力してくれないかな?」
「あの、何で俺を選んだんですか?」
「それはもちろんあの中で君が一番強いからさ。相当の魔力を発してたけど、その様子だと無自覚なのかな? わかる人はわかってたと思うよ」
なるほど、知らず知らずのうちに力が溢れ出していたというわけか。
「君、ランクはいくつなの?」
「Eランクです。この前冒険者になったばかりなので」
「へえ、なら僕が色々教えてあげるよ。僕の名前はアラン。これからよろしく!」
まだ了承した覚えがないんだが……
「あの、俺パーティー組んでる奴らがいるんですけど」
「ああ、さっきの女の子たちだね。いいよ、人数は多い方が嬉しいからね」
「というわけで、クエストに同行することになったんだが、構わないか?」
「もちろん! 強い人と一緒に戦えるなんてきっといい経験になると思うし」
「私も同意見です」
どうやら二人は乗り気みたいだし、ついていくことにしよう。
「よろしく。僕の名前はアラン。まず、クエストの概要から話そうか。今回の目的はワイバーンの卵を手に入れること。一人で手に入れるのは難しいから、君たちを誘わせてもらったよ。
「ワイバーンですか? 私たちで倒せるでしょうか……」
「大丈夫。今回の目的はあくまでも卵だからね。もし戦闘になったとしても、僕とアイト君がいればどうにかなるよ」
「大丈夫だって。リリーは心配性だなぁ」
「ワイバーンはここからずっと西にあるフィファーネ渓谷を住処にしてるんだ。ワイバーンが眠っている時間に着きたいから、しっかり準備しておいてね。じゃあ僕はこれで」
アランはそういうと足早に去ってしまった。
「夜中に出発したいとのことでしたので、私たちもこの辺りで解散しましょうか」
「ああ、じゃあまた明日な」
うーん、少し早く目が覚めちゃったな。出発まではあと二時間程、二度寝するには足りないな。
この宿旅費は安いんだけど、トイレが外にあるんだよなぁ。そこだけ不満だ。
ふう。
用も足し終わったことだし、これからどうしようかな。たまには散歩なんかしてみるのもいいかもしれないな。まだこの街をしっかり見て回った事も無かったし、いい機会だ。そうすることにしよう。
この宿は街の中心部から外れたところにある。
こっちの山っぽい方を歩いてみよう。
へえ、山っぽいのは見た目だけで、進んでみると結構整備されてるんだな。
「……イァ」
「メガ……」
何だろう。誰かの声が聞こえてきた。
こんな時間に何をしてるんだろうか。
声のする方に近づいてみる。
だんだんと音が大きくなってきた。爆発音のような音だ。
「メガファイア!」
この声は聞き覚えがあるぞ。この甘く透き通った声は、リリーだ。どこで何をしているんだろうか。
もう少し歩くと、訓練場のようなものが見えてきた。剣や魔法の特訓に使うのだろうか、人型の的が何台かおいてある。
一番奥にリリーの姿が見えた。
「なあ、何やってるんだ?」
「アッ、アイトさん!?」
「ごめん、急に声かけちゃって。驚かせたかな?」
「いえ、大丈夫です。その、魔法の練習をしてまして」
「ああ、見てたぞ。すごい威力だったな」
この前の闘い方を見た限りだと、サポートメインなのかと思っていたが、攻撃魔法も使えるんじゃないか。
「はい、恥ずかしいんですが……モンスターに魔法を打てないんです」
「……どういうこと?」
「えっと、私、こういう的になら、魔法が打てるんですけど、生きてる物に魔法が打てなくって、クエストで依頼されているモンスターは、基本的に他の種族を襲う危険がある危ないモンスターだから、倒さなきゃいけないって分かってるんですけど、それでも怖くって……」
「そうなのか……」
「なあ、俺に魔法教えてくれないか?]
「えっと、いいですけど……」
「まず、自分の魔力を手に集めてください」
「ああ、こうか?」
「はい、そうです。えっと自分の魔力と周りの魔力の違いは分かりますか?」
「なんとなくだが分かるぞ」
「この世界の全てのものに魔力があるんです。自然の中にある魔力の事を魔素と言います。自分の魔力と魔素を混ぜるイメージです」
「なるほど、混ぜるイメージか……駄目だ上手くいかない」
「魔法はイメージが全てなんです。もっと深く、繊細にイメージしてみてください」
深く、繊細に。深く、繊細に。
「こうか!?」
「すごい!! 普通だったらここまで来るのに何か月かかかるんですよ。アイトさんセンスありますね」
「いやあ、そうかなあ」
「はい。それはまだ属性のついてない無属性魔法で『衝撃』といいます。そこから属性をつけるにはもっと段階を踏む必要があるので、また今度にしましょう」
「えっと、こんな感じかな」
「ええ!? すごい!! 初めてでそこまで出来る人は初めて見ました!! アイトさん天才ですよ」
「はは、そうかな」
ほんとは俺じゃなくてリヒトの力なんだけどね
「その、なんていうかな。無理しなくていいと思うぞ?」
「……どういうことですか?」
「無理に攻撃しようとしなくても、リリーができることをやればいいんだ。だから無理しなくていいと思うってことだ」
「……アイトさん」
「ははっ、まあとにかく今日のクエスト頑張ろうな」
「……はいっ!」