1話 ドラゴン⁉
真っ暗で何も見えない。目が覚めるとそこは、辺り一面真っ暗の闇だった。
段々と意識が覚醒してきた。
三吉藍斗、17歳の高校二年生。学校の帰り道に車に轢かれた所までは覚えている。
だが、車に轢かれたはずなのに、身体はちっとも痛まない。
とりあえずは無事なようだ。
服装は高校の制服に革靴と、下校時と同じだが手にもっていたカバンが見当たらない。そのことに気づいた瞬間に、冷や汗がダラダラと流れ出してきた。
カバンの中には、教材、財布、スマホが入っている。
大事な教材は基本的に置き勉だから、失くしてしまってもある程度は問題ないし、財布は安物だし、中身も千円前後しか入ってないから大丈夫だ。
だが、スマホだけはその限りではない。
あのスマホには大事なデータが沢山入ってるんだぞ!! 大切な写真に、20万以上課金したソシャゲだってあったのに!!
「くそがあああああ!!」
叫び声が虚しくこだまする。
終わった。
身体中の力が抜け、膝から崩れ落ちてしまった。
「ぼとっ」
何かが地面に落ちる音がした。
ん? あれは俺のスマホじゃないか!!
なるほど、胸ポケットに入ってたのか。どうりで見つからない訳だ。
スマホを拾い上げ、砂を払う。
よかった。電源も入るし、傷も入ってないぞ。嬉しすぎてちびりそうだぜ。
そうだ、スマホがあったんだからここがどこか調べられるじゃないか。
こんな簡単なことに気づかなかったなんて、俺ってばうっかりしてるなあ。
スマホの電源を入れ、地図アプリを起動する。
「圏外……」
とりあえずここをでなければ。
こういう時は壁に沿って歩くといいって聞いたことある気がする。
あった。ここが壁だな。
壁はゴツゴツとしていて岩のような感触。
さっき地面に倒れこんだ時に気づいたが、地面も砂利と小石が混ざっているような手触りだった。
恐らくこの空間は洞窟だと思われる。
俺は壁を伝って慎重に歩みを進める。
不用意に歩き回って落とし穴に落ちでもしたら、目も当てられない。
2~30分は歩いただろうか、なんと天井から光が漏れているところを発見した!!
この空間を初めて目視したが、高さ3メートル、幅2メートル程の狭い一本道だった。
前方にはまだまだ道が続いていて先が見えない。
さて、これからどうしたものか。
選択肢としては、このまま真っすぐ道を進んでいくか、光が漏れている部屋に無理やり入るかの二択というところか。
どこまで続いているのか分からない真っ暗な道を歩いていくなんてごめんだ。
だが、上によじ登るというのもなかなか難しい。
穴は直径50センチ程で、俺が通れるとは到底思えないし、そもそもあの穴に手が届くかすら怪しい。
「おらっ」
思いっきり跳んでみたが、あと一歩届かない。
身体能力は学年トップなんだけど、それでも及ばないといったところか。
垂直跳びでは届かなかったが、助走ありならどうだ?
「どりゃあっ」
届いた!! 天井は思っていたよりも薄くて、掴む事は容易だったが、よじ登るにはやはり穴が狭い。
こんな時は壊して広げるに限る。
天井を両手でしっかりと掴み、足をブンブンと揺さぶり勢いをつける。
「1、2の……3!!」
足を勢いよく振り上げ、天井を思い切り蹴り上げる。
ゴロゴロ……ズドーン!!!
天井の岩が大きな音を立てて崩れる。
よし、成功だ。
やっぱりこういう時の為に身体は鍛えておくべきだな。
きっかけは中学二年生のときだ。
当時好きだった女の子が筋肉がある人がタイプだって言っているのを聞いてトレーニングを始め、約8か月かけて鋼の肉体を手に入れた。
俺は満を持してその子に告白したんだが、
「確かに筋肉ある人が好きだって言ったけど、三吉君はちょっと違うかな……」
と言われてしまった。
結局世の中顔なんだ。
でも、それに比べて筋肉は絶対に俺を裏切らない。
おっと、嫌なことを思い出しちまった。
天井裏によじ登り、周りを見渡す。
ここも下の洞窟と同じで、一本道になっている。
下と違うところといえば明るいことくらいか。
まあ、明るいといっても手元が見えるくらいの明るさなんだが、それでもさっきと比べたら十分な明るさだ。
10メートル程先に扉を見つけた。
どうやらこの扉から光が漏れていたらしい。
良かった。
ようやくここから出られるぞ。
扉は結構古い物のようで、所々錆び付いている。
扉を押すとギイと音を立てて開く。
「なんだここ……」
扉の向こうには、不思議な景色が広がっていた。
ここはなんだろう。
例えるとするならば神殿といったところだろうか。
ゲームにこんな雰囲気の神殿を見たことがある気がする。
白い大きな柱が何本か立っている。
ここから光が漏れていたはずだが、太陽は見えない。
何というか、この空間自体が光っているという感じがする。
柱の中心に台座のようなものが祀られているのが見えた。
それに近づく為に歩みを進める。
「……鎖?」
台座を近くで見てみると、それは祀られているというよりも、封印されているといった方が近く感じた。
台座の上には、鮮やかな深紅の宝石が入った小瓶が鎖でがんじがらめにされていた。
俺はその宝石の不思議な魅力に囚われてしまい、それを手に取った。
「やっと来やがったか」
突然ドス利いた声で話しかけられた。
声のする方に視線を向けると、そいつは立っていた。
宝石のように白く光る鱗と翼。
燃えるように赤い深紅の瞳。
刃よりも鋭い牙。
そこに立っていたのはまさしくドラゴンだった。
「我の名は聖龍リヒト!! 我が貴様をここに呼んだ!!」
初投稿です。
頑張って楽しく書いていきたいです。