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恐ろしの森の聖女  作者: 江
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6

どうにもおかしい。この森には私しかいないはずなのに、人間の匂いがする。


また迷い人か?


何度か瘴気を感じられない人間が、迷い混んで来るときがあった。今回もそうだろと思った。見つけたら追い立てて、森から出してやればいい。ここは私だけの森だ。


人間は拓けた森の真ん中にいた。声がした。何かよく分からない言葉で歌っているようだ。この歌を聴くと何故か体がぞわぞわする。


『何者だ』


私が声をかけると、呆けたように私を見た。その人間はとても小さかった。人間は声も出さずじっと私を見返した。


『そこの者、何者だと聞いている』


人間がキョロキョロと辺りを見回している。どうやら私の声だと気づいていないようだ。


『いい加減、無視するのはやめろ。答えぬなら喰ってしまうぞ』


しびれを切らして口を大きく開けてみる。そこでやっと私が声の主だと気づいたようだ。


「わ、私はエラ。12歳……」


弱々しい声で人間は言った。


『12?まだ子供ではないか。このような所になぜ来た?』


自らが発した言葉だったのにどこか違和感がある。ここ何年も感じていなかった、何か大切なことを忘れているような、言い知れぬ不安。


「大きい街に行きたくて、ここを抜けようとした。でも食べ物がたくさんあったから、何年かなら住めるかと思って……」


『馬鹿かお前は。このような土地で人が生きれるはずなかろう。見ろ、そこの泉を』


この森のことは誰よりも知っている。泉は瘴気で穢れ、水はこの森から少し進んだ大きな川までいかなければ飲めない。人間も水がなければ生きていけないだろう。


『? なんだこれは? ここは昨日まで瘴気が混ざったどろどろしたものが湧いていたはずだ。お前何をした!?』


驚いた。泉から湧く水は綺麗そのもの。瘴気を全く感じなかった。


「何もしていない……私が来た時からこうだった」


人間は嘘をついているようには見えなかった。そして口をついて出た、自分の言葉に驚く。


『まさかお前……アレを喰ったのか?』

 

「アレ?」


『アレを知らんのか?』


アレとはなんだ。私も知らないはずだ。しかし私の口からは更に訳のわからない言葉が出てくる。


『……もしや渡り人の伝説も知らぬのか?』


「なに……それ?」


『……知らぬなら良い』


私も訳がわからない。私の思っている言葉ではないものが口から出ていく。私はおかしくなってしまったのだろうか。


『ここだけ瘴気がない。お前が何かしたのか?』


周りを調べれば瘴気は完全になくなっていた。


「………………しょうきって……なに?」


人間の子供はまっすぐ私を見上げそう問うた。


『ふははははっ、お前っ知らずに祓っていたのか?』


そうか。この人間も瘴気を見ることも感じることもできないのか。それなのに祓う力だけは並外れているよだ。面白い。


『力はあるのに知識はないのか……それならば私が教えてやろう。丁度いい暇潰しだ』


この人間に純粋に興味がわいた。気に入らなければ食うなり追い出すなり簡単なことだ。


「……ありがとう?……えっと……名前は?」


まったくこの人間は間が抜けているというか……そんなものどうでもよいだろう。


『……名などない、好きに呼べ』


「…………じゃ、じゃあ毛並みが銀色で目が金色だから、エステル」


『エステル』の意味を私は何故か知っていた。その意味は『星』。そしてとある占術では『希望』を意味することを。




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