4
この森はすごい森だった!
木の実はなり放題、食べられる山菜や秋にしかみない茸、果物もたくさん実っていた。それなのに鳥や小動物のいる気配がまるでない。
しばらくここで暮らせるかも……
鞄いっぱいに果物と木の実を詰めて、森の奥に進んだ。道なき道を草を分けて進む。服からはみ出た肌が痒くなる。
それでもかまわず進むと、拓けた場所に出た。ここだけすっぽりと木も草もなく明るい。おまけに小さな泉まであった。
喉がからからだったが、前に山の水を飲んでお腹が痛くなったことを思い出し、鞄の果物をかじった。
甘くて、おいしい! すごくおいしい…………
そういえば果物なんていつぶりだろう。両親が生きていた頃はよく食べていた気がするが、死んでからは記憶にない。あまりのおいしいさに、自分の拳ほどの大きさのものを3つも食べてしまった。
「…………誰もいないよね?」
周りをキョロキョロと確認し、動くものがないことを確認する。久しぶりに美味しいものをお腹いっぱい食べ、自分の気持ちに歯止めがきかなかった。
息を大きく吸い、歌った。はじめは小さな声だったが、それは徐々に大きな声になった。誰もいない解放感がそうさせているのかも知れない。
歌っているのは、母さんが聞かせてくれた異国の歌。母は異国から来たのだと小さいころ聞いた。たしかに母さんの髪も目もこの国の人には珍しい黒色だった。
それは歌の終盤になった時だった。突然頭に響くような声が聞こえた。
『何者だ』
驚いて振り替えれば自分のすぐ後ろに大きな狼がいた。
いつの間にこんなに近くまで!?
声も出せぬまま、私はじっと狼を見返した。自分の3倍以上あるその巨体を。
『そこの者、何者だと聞いている』
また声が頭に響いた。キョロキョロと辺りを見回すが、自分と狼しかいない。
『いい加減、無視するのはやめろ。答えぬなら喰ってしまうぞ』
目の前の狼がその大きな口をあけた。そこでやっとこの声の主が狼だと知る。
「わ、私はエラ。12歳……」
『12?まだ子供ではないか。このような所になぜ来た?』
分かりやすく首をかしげた狼は、そんなに怖くなかった。言葉を理解出来るならすぐに食べられたりはしないだろう。
「大きい街に行きたくて、ここを抜けようとした。でも食べ物がたくさんあったから、何年かなら住めるかと思って……」
『馬鹿かお前は。このような土地で人が生きれるはずなかろう。見ろ、そこの泉を』
泉を見るが特に変わりはない。見た目には綺麗な水が湧いている。
『? なんだこれは? ここは昨日まで瘴気が混ざったどろどろしたものが湧いていたはずだ。お前何をした!?』
「何もしていない……私が来た時からこうだった」
嘘じゃない。歌う前から泉はこんなだった。
そう言うと狼の目が少し細くなった。
『まさかお前……アレを喰ったのか?』