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ほぼ丸1日歩いた。大きな街までは大人の足で丸3日かかると、前に誰かが言っていた。ならば私の足なら倍はかかるだろう。
塩辛いばかりの干し肉食を噛み千切ると、焚き火に薪をたす。村の周りには獣や魔物はほとんど出なかったが、ここはどうだろうか。小さな胸に、一気に不安が押し寄せた。
「死ぬのはいいけど、痛いのは嫌だな……」
ポツリと声が出てしまった。村から出て気がゆるんでいたのだろう。
村の人は私が話せないと思っていたはずだ。あの村では私はほとんど話さなかった。話すときは両親の耳元で小さく。両親は私に何度もそう約束させた。両親が亡くなってからは村の外で小さく歌う時もあったが、それも稀なことだった。
なんでも私の声には不思議な力があるらしい。
私はその力のことをよく知らないし、実感もない。知っているのは、その力が原因で幼いころ住んでいた街を出たということだけだ。
考えても仕方がないか…………
水で口を少し湿らすと、横になって目を閉じた。
翌朝私は黒パンを頬張ると、また歩き締めた。
両親の持ち物の中に入っていた地図では、半日歩いた辺りに森があり、それを抜ければすぐに街につくということだった。
1人で街でやっていけるだろうか……
そんな不安も頭をよぎる。あと2月ほどで13歳になるが、たしか女子の成人は15歳、男子が17歳だった。成人していない私はまともな仕事につけるのだろうか。
色々と考えながら歩いていると、森が見えてきた。緑色の濃い木々が生い茂っているのがよくみえる。
この時私は知らなかった。私の力が障気を払い、しばらくの間、寄せ付けないことを。そしてこの森が瘴気が濃い森として有名で、周りからは『恐ろしの森』と呼ばれていることを。