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1時間もかからず荷物をまとめた。自分の着替えとわずかなお金。母の形見の銀のイヤリング。父の形見の木の細工が細かい煙草入れ。あとはさっきもらった鞄に入っていた数日分の食料。
私はそれらを持って、すぐに家をでた。それなりに多い荷物を抱える私を村人たちが遠巻きに見ている。
「おい!お前出てくのかよ!」
後ろから、よくからかいに来ていた男の子が声をあげた。
私は振り替えることなく歩き続ける。それが私にできる『しかえし』だ。
「早く……いけ……出ていけ!!」
この声は家の近くの料理屋のおばさん。
「この疫病神!」
罵声を浴びせるこのおじさんは、この村に来たころ初めて声をかけてくれた優しい人。
どうしてそんなことをいうの?
私が悪かったの?
出かかった言葉を飲み込んで、私は足早に村を去った。
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「母ちゃん、何であいつ出ていったの?」
夕食のミルク煮を食べながらガイは聞いた。
「この村にはあんなどこの馬の骨かもわからない娘を育てていけるほど蓄えがないからだよ。 村長がそう決めたんだろうさ」
「えっでも……」
「いいから、さっさと食べちゃいな」
「う、うん」
そう言われてミルク煮をかっこむが、いまいち納得が出来なかった。だってここ何年もうちの村は豊作続きで、備蓄も大人が倉庫に運んでいるのを見るから少なからずあるはずだ。
俺たちがあいつをからかったり、石を投げたりしていたのはアイツがよそ者で、親がいなかったのもある。でもそれだけじゃなく、同じ年頃の女の子がアイツしかおらず、どう接していいか分からなかったのもあるのだ。
「…………みんな怖かったんだよ」
「え?」
「あの子が悪いんじゃない。でもあの子の両親の死に方は普通じゃなかった…………こんな小さな村は疫病でも流行ったら……分かるだろう?」
そう言われれば頷くしかない。
「それでも自分で生きていけるぐらいまで育ててやったんだ。私たちのことを恨みやしないだろうさ」
父ちゃんが帰って来るからこの話はおしまいだよ、と母ちゃんはミルク煮を食べ始める。
それでも、どうしても納得がいかなかった。
少し前近くの山で仲間と遊んでいた時に、俺だけはぐれて泣いていたのをアイツが手を引いて連れ帰ってくれた。それを忘れられないからかもしれない。
山の中でアイツは歌っていた。低い声だった。それでいて優しく穏やかな、春の風のような…………
俺は話せなくても歌は歌えるんだと変に感心したのを覚えている。