1
「やーい!にんじん頭!」
「こいつ12歳にもなるのに喋れないんだろ?」
「しかもみなしごだろ?!」
自分より年下の男の子たちが石を投げながらからかい口調でそんな事を言う。
仕方ないじゃないか。両親ともこの村にやって来て数年で病に倒れ、母は7年前、父は5年前に亡くなった。
母は元々体が弱かったが、父はがっちりした体格のい人だった。だからはじめは優しかった村の人たちも、私たち家族が病気を持って来たんじゃないかと邪険に扱うようになった。
そして現在、生き残った私に子供は石を投げ、大人はヒソヒソと囁きあうようになった。
「エラ、ちょっと来なさい」
昔のことをぼんやり思い出していたら村長に呼び止められた。私は頷いて、村長の後ろをついていく。この人は1人になった私を気にかけてくれる唯一の大人だった。この人に呼ばれなければ自分の名前なんてとっくに忘れていただろう。
村はずれにまで行くと、小さな鞄を渡された。
「……この村から出ていってくれ」
絞り出すような声だった。
「もう庇いきれない。限界なんだ……まだ幼いお前には悪いと思っているが……」
裏切られたという気持ちは不思議となかった。心のどこかでいつかそう言われる気がしていたのかもしれない。
私はふーっと長く息を吐くと、今までの感謝を込めて頭を深く下げた。私は五体満足だし、若いから街行けば働けるだろう。そう思いながら家に向かって歩いた。
滲む視界を無視して。