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街でデート

 家を出た俺は、朝の喧騒にまぎれて大通りを歩く。


 少し歩くと街路樹からキラキラと木漏れ日が差し込んできた。


 今日は天気も良くて絶好のデート日和。


 いやが上にもテンションは高まっていく。


 この通りをもう少し先に行った辺りに噴水広場があって、そこが今日のデートの待ち合わせ場所だ。


 ◇


 広場に到着すると、マァサさんは先に来て俺を待ってくれていた。


 近寄る俺に気付いて彼女が顔をあげる。


「よ、よぉマァサさん。

 おはよう。

 悪い、待ったかな?」


「ア、アレクくん、おはようございます。

 待ってないですよ。

 わ、わたしもついさっき来たところですから」


 自分でも初々しく思える挨拶を交わしてから、俺はマァサさんをマジマジと眺める。


 今日の彼女は私服姿だった。


 襟や裾がフリルで飾られた、若草色の可愛らしいワンピースである。


 俺はあまり服には詳しくないのだが、それでもこの服がマァサさんにとてもよく似合っていることはわかる。


 というか普段マァサさんとはギルドでしか接しないから、こういう格好はとても新鮮に思えるのだ。


 いやまぁ、いつもの受付嬢の制服も好きだし似合ってるんだけど。


 俺は思い切って服を褒めてみることにした。


「あ、あのさ。

 その服、めっちゃ似合ってるな。

 すげー可愛い」


「――ッ⁉︎

 か、かわ……⁉︎

 え、ええええええ?」


 マァサさんは驚いたかと思うと、すぐに顔を赤くして俯いた。


 その仕草がなんとも可愛らしい。


「あ、ありがとうございます。

 ぅぅぅ……。

 こ、こういうの、照れちゃいますね」


「わかる。

 なんか俺もちょっと緊張してるかも。

 心臓とか、さっきからバクバクいってるし」


「ほ、ほんとですか?」


 マァサさんがおずおずと腕を伸ばしてきたかと思うと、手のひらをぴとっと俺の胸においた。


 そしてもう片方の手を自分の心臓にあてて、俺たちの鼓動を比べ始める。


「ふ、ふわぁ。

 ほんとですね。

 どくん、どくんって、アレクくんの心臓も凄い音です。

 はぁ……。

 緊張してたの、わたしだけじゃなかったんですね。

 なんかホッとしたかも」


 マァサさんが、はにかみながら微笑んだ。


 その素敵な笑顔に、俺の心臓はますますうるさく脈打った。


 ◇


 落ち着いてから改めて切り出す。


「ところでさ。

 今日のデートなんだけど、マァサさんの買い物に付き合えばいいんだっけ?」


「あ、それなんですけどね。

 アレクくんに冒険服をプレゼントしようと思ってます」


「……はぇ?

 お、俺の買い物なのか?

 それにプレゼントって、いやいや、そんなの悪いよ。

 冒険服って結構いい値段するんだぜ?」


 俺が反射的に遠慮すると、マァサさんがくいっとあごを上げて得意げな顔をした。


「ふふーん。

 お金なら大丈夫です!

 先日お給金もらったばかりですし、これでもわたし受付嬢のなかじゃ結構稼いでるほうなんですよー?」


 ほほう、そうなのか。


 俺もギルド嬢の報酬額がどういう基準で決まるのかは知らないが、そういうこともあるのだろう。


 彼女はギルドの看板受付嬢なんだし。


「それにわたしずっと気になってたんですよぉ。

 だってアレクくんってば、いつも同じ服着てるじゃないですか。

 せっかくカッコいいのに、身嗜(みだしな)みもきちんとしないともったいないですよ。

 だから、……ね?

 今日はお姉さんに任せてください!」


 マァサさんが控えめに膨らんだ胸をドンと叩く。


 ここまで言われたら仕方がない。


 今度改めて礼はするとして、せっかくの厚意なんだし甘えておくことにしよう。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 日が高くのぼった。


 あれから俺たちはいくつかの店をハシゴして、あれこれと冒険服を見て回った。


 どうもマァサさんはショッピングがお好きらしく、色んな服を俺に試着させてはあーでもないこーでもないと首を捻ったり、この服はアレクくんに凄く似合いますよ、とか嬉しそうに買い物を楽しんでいた。


 そうして彼女から選りすぐりの一着をプレゼントしてもらって、いまはもうお昼だ。


 とか考えていたら、隣からぐるぐるーとお腹のなる音が聞こえてきた。


 マァサさんがバッとお腹を押さえる。


「――ッ⁉︎

 はわわわわっ。

 ア、アレクくん!

 い、いまの聞こえましたか?」


 マァサさんはぎゅっ目を瞑って、恥ずかしそうにしている。


 やはりいまのは彼女のお腹の虫か。


 ばっちり聞こえていたが、ここはシラを切っておこう。


「……ん?

 なんのことだ?

 それより、なぁマァサさん。

 俺、歩き回って腹が減って来たんだけど、そろそろ昼飯にしないか?」


 赤い顔のマァサさんがこくこくと頷く。


「オッケーだな。

 じゃあなに食べようか?」


「えっと……。

 わたしはそこのお店のテイクアウトがいいです。

 あそこで売ってる『ホーンラビットのシチュー』とか、『ホロホロ鳥の岩塩焼き』とか、すごく人気で美味しいらしいんですよ。

 食べてみたかったんですよね」


「よし、わかった。

 じゃあひとっ走り買ってくるから、マァサさんは今朝待ち合わせた噴水広場で待っててくれ。

 あ、昼飯くらいは俺に奢らせてくれよな」


「うふふ。

 じゃあお言葉に甘えておきます」


 ◇


 俺はマァサさんと一旦別れて店に向かう。


「おわー。

 結構並んでるなぁ」


 仕方がない。


 お腹をすかせた彼女に早く昼ごはんを持っていってあげたいところだが、並ぶしかあるまい。


 半刻程度行列に並んで、ようやくお目当ての料理をゲットする。


 そうして待ち合わせの広場に戻ってから、俺はキョロキョロとあたりを見回してマァサさんを探した。


 だがどこにも彼女の姿は見当たらない。


「……あれ?

 どこ行ったんだ?」


 しばらく探してまわる。


 けれどもやはり、待ち合わせたはずの噴水広場にはマァサさんはいなかった。

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