ギルド受付嬢
今日も薬草が目一杯詰まったカゴを背負い、ギルドまで戻ってきた。
これでようやくペナルティの薬草採取も終わりだ。
クエストカウンターに赴き買取をお願いすると、いつものギルド受付嬢が応対に来てくれる。
「採取した薬草の買取ですね?
少々お待ち下さい」
受け取った薬草を計量しているこのひとはマァサさん。
冒険者ギルドの看板受付嬢で、歳は19と俺よりふたつばかり年上の美人である。
「……はい。
たしかに薬草の買取、完了しました。
これ、代金の108ベルです。
あとこれで、アレクくんのペナルティーもおしまいですね」
「よし!
これでまた次回からは討伐クエストが受けられるぜ!」
「ふふふ。
お疲れさまです。
もうギルド内で喧嘩しちゃダメですよ?」
マァサさんは人差し指を立てて片目をつむり、微笑みながらメッと注意してくる。
その仕草がなんとも可愛らしい。
俺はドギマギしながら頷く。
「わ、分かってるって。
じゃあもう行くよ」
さて、家に帰ろう。
来た道を引き返すべく、くるりと背中を向けて歩き出したところで、マァサさんに呼び止められた。
「あ、アレクくんちょっと待って」
「ん?
なんっすか?」
「え、えっとね……」
マァサさんはキョロキョロと辺りを窺い、誰も聞き耳を立てていないことを簡単に確認してから俺に耳打ちしてきた。
「……ね、ねぇ。
明日、わたし非番なんですけど、い、一緒にお買い物でもどうですか?」
――ッ⁉︎
瞬間的に背筋がピンと伸びた。
こ、これはまさか……!
デ、デデデ、デートのお誘いじゃないのか⁉︎
マァサさんは頬を赤く染め、上目使いでじっと俺を見つめている。
「……ね?
ど、どうですか?
ほら、アレクくんの冒険服ももう随分くたびれちゃってるじゃないですか。
だからわたし、お給料も出たばかりだし、アレクくんに装備とかプレゼントしてあげちゃおかなって思ってて……。
……だめ……ですか?」
マァサさんは可愛い系の美人だ。
そんな彼女が恥ずかしそうにもじもじする様は、年上とは言えめっちゃ愛らしい。
俺は一も二もなく返事をする。
「わ、わかった!
じゃあ明日!」
マァサさんが、ぱぁっと笑顔になった。
まるで花が咲いたような明るい表情である。
でも俺だって負けないくらいで、内心飛び上がりたいほど嬉しい。
それからふたりで細かな待ち合わせ場所や時間を決めて、俺は浮かれ気分でギルドを後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
アレクが立ち去ったあとのギルドで、マァサが幸せそうにニコニコと微笑んでいる。
その顔はまさに恋する乙女そのものだ。
だが幸せオーラ全開のその姿を物陰からじっと睨んでいる人物がいた。
いわずもがなロゲブである。
巧妙に隠れながらこっそり聞き耳を立てていた彼は、ギリギリと歯軋りしてから呟く。
「くそ、くそ、くそ……っ。
なんでボクじゃなくてアレクなんだ!
許さない……。
絶対に許さない……!」
ロゲブは親指の爪を血が出るくらい噛みながら、呪詛を吐き散らした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日。
一張羅の冒険服に着替えた俺は、デートの準備をしていた。
鏡に映った自分の姿を念入りにチェックする。
「……よ、よし。
別におかしなところはないよな」
しかしまさか、あのマァサさんとデートが出来るなんて。
彼女は美人揃いのギルド受付嬢のなかでも特に人気が高く、ファンだってたくさんいるのだ。
かくいう俺もそのひとりだから、未だに自分の幸運が信じられない。
というかマァサさんは俺のどこを気に入ってくれたんだろうか。
今日のデートで聞いてみてもいいかもしれないな。
そんなことを考えながら、俺は軽い足取りで家を出た。