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ボコり3回目

 その日の俺は、都市郊外の森で薬草採取クエストに励んでいた。


 思わず不満を漏らす。


「あー、めんどくさいなぁ。

 もっとスカッとするクエストが受けたいわ」


 こんなものはまだ装備も整っていない駆け出し冒険者が受けるようなクエストで、俺みたいなB級冒険者がやるようなものではない。


 実際さしてお金にもならない。


 だがこれは何日か前にギルドでロゲブのヤツをボコったことで科されてしまったペナルティなんだから、やらない訳にもいかないのだ。


 俺はぶつくさ言いながらも、サボらずに薬草を(むし)っていく。


 やがてギルドから貸与された採取カゴいっぱいの薬草が集まった。


 ◇


「よし!

 これで今日の分のノルマはクリアだな。

 よいしょっと……」


 カゴを背負子(しょいこ)に結んで背負う。


 そして一歩踏み出したところで、異変が俺を襲った。


 四方八方からいきなり電撃が飛んできたのだ。


「な、なんだぁ⁉︎」


 俺は慌てて避けようとした。


 しかし立体状に広範囲の空間を、隙間なく埋めながら飛び交う電気をすべて回避するのは難しい。


 いくつかの電撃が直撃してしまった。


「ぐ、ぐわぁ……!」


 思わず悲鳴をあげる。


 だがその瞬間、俺は気付いてしまった。


 ……あれ?


 この電撃、いくら当たっても全然ダメージないぞ?


 痛くもなければ痺れもしない。


 なんだこれ。


 ただの見掛け倒しか?


 俺が不思議な現象に首を捻っていると、少し離れた場所にそびえ立つ大きな樹の裏から鬱陶しい笑い声が聞こえていた。


「あはっ、あはははははは!

 掛かったなアレクぅ。

 このウスノロぉ。

 それはこのボクが苦労して手に入れた対A級大型魔獣用の捕獲罠だ!」


 現れたのはロゲブだった。


 いつも通り腐った性根を顔に滲ませたヤツが高笑いしながら近づいてくる。


 その手には煌びやかな装飾が施された美しい剣が握られていた。


「どうだ、痛いだろう!

 身体が痺れて思うように動けないだろう!

 まったく、いい様だなっ。

 はははははははは!」


 ロゲブのやつは心底おかしそうに笑っている。


 けどなに言ってんだこいつ。


 魔獣捕獲罠?


 見掛け倒しのこれが?


 俺はスタスタと歩いて、電撃の飛び交う空間から普通に抜け出した。


 ロゲブが驚愕する。


「――ッ⁉︎

 な、なにぃ⁉︎

 どうして動けるんだ!」


「はぁ?

 訳わかんねぇこと言ってんじゃねーよ!

 このクソ野郎……。

 お前は絶対許さんからな!」


 俺は怒っていた。


 なぜなら先ほど浴びた雷撃の雨は俺自身にはなんにもダメージを与えてこなかったのだが、俺が苦労して集めた薬草をまるごと焼き払ってしまっていたからだ。


 これではまた一から採取し直しである。


「なぁ、ロゲブ。

 お前、ホントなんなんだ……。

 そんなに俺のことが嫌いなのかよ?」


 嫌気がさす。


 焼け落ちた大量の薬草を眺めていると、またふつふつと怒りがこみ上げてきた。


 そんな俺の気も知らずにロゲブは言い放つ。


「ああ大嫌いだね!

 お前なんか嫌いに決まってんだろ!

 剣技もろくに知らない分際でこのボクより先にランクアップしやがって。

 雑魚が調子に乗るな。

 散々世話してやった恩も忘れて!」


「は、はぁ⁉︎

 一体いつ俺がお前に世話してもらってたよ?」


 ないない。


 マジでないから。


 こいつは記憶障害でも患ってるんだろうか。


 パーティーを組んでの討伐クエストでもこいつはほぼお荷物で、ぶっちゃけ俺がひとりで奮闘していた記憶しかない。


 つまり世話していたのはむしろ俺の方なのだ。


 なのにロゲブは唾を飛ばしながら、俺を罵倒してくる。


「わかってんだろうな!

 この前ボクがやられたのだって、あのとき使っていた剣がなまくらだっただけだからな!

 けど今度はそうはいかない。

 見ろよこの剣を!

 素材にミスリルをふんだんに使った逸品だ。

 アレクみたいな貧乏人には手の届かない代物だぞ。

 今度こそこいつでお前を滅多斬りにしてやる!」


 ロゲブが構えをとり、斬り掛かってきた。


 その剣筋は相変わらず読みやすく、ノロマで退屈だ。


 こいつはこの程度で剣技に絶対の自信を持っているのだから、滑稽としか言いようがない。


 俺はひらりと攻撃を躱す。


 そして背後にまわり、ロゲブの首を後ろから絞めあげた。


「――ぐえっ!

 避けるな、ごの゛卑怯者ぉ゛……!」


「いやいや避けるに決まってんだろ!

 頭大丈夫かお前?」


「う゛、う゛る、さい゛!

 離せぇ゛」


 まったく話が通じない。


 俺はしばらく首を絞めて十分に苦しませてから、お望み通りロゲブを解放してやった。


 やつはゴホゴホと咳き込んだあと、鬼みたいな形相になって俺を睨んだかと思うと、懲りもせずにまた斬り掛かってきた。


 俺は拳をギュッと握りしめる。


 そのまま向かってきたロゲブに思い切り腹パンを叩き込んだ。


「――グァヒョォ⁉︎」


 ロゲブが奇妙な声を漏らした。


 くの字に身体を曲げて、吐瀉物を吐き散らかす。


 俺はすかさずバックステップして汚物をかわし、拳を握り直して、今度は地を這うような強烈なアッパーカットをぶち込んでやった。


「――ギョピィヤ⁉︎」


 やつのあごがグシャリと潰れる。


 太陽に届くかと思うほど天高く舞い上がったロゲブは、頭から落下したかと思うと今日もまたピクピク痙攣して動かなくなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロゲブは本当に記憶障害でもあるのでしょうね。じゃないと三回も襲いませんよね( ´△`) 残念すぎる子です。いつかわかり合える日が……来ないでしょうね(´▽`*) 次回も楽しみにしてます(´▽…
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