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ボコり2回目

 騒ぎに気付いた冒険者たちが騒然とし始めた。


 そのなかには迷惑そうな視線を送ってくる者もいれば、手を叩いて愉快そうに笑いながら囃し立ててくる輩もいる。


 俺が床に這いつくばって小刻みに痙攣するロゲブを眺めながらやっちまったかなーとか考えていると、すぐさま受付嬢がすっ飛んできた。


 ギルド受付嬢のマァサさんだ。


「ちょ、ちょっとこの騒ぎは何ですか⁉︎

 ……え? え、え?

 も、もしかして、これをやったのはアレクくんなんですか?」


 この状況では言い逃れは効くまい。


 観念して頷くとマァサさんは端正な眉をしかめた。


「こ、こらぁ!

 ギルド内での争いごとは御法度ですよ!」


「……う。

 ご、ごめんなさい。

 でも聞いてくれよ、マァサさん!

 なにも俺だってわざわざ問題を起こしたかった訳じゃなくてだなぁ」


 やっぱり考え直して言い訳をしてみるも、マァサさんはぷんぷんと怒ったままだ。


 彼女みたいな年上美人にこんな顔をされると、ちょっと反抗できなくなる。


 俺は観念してギブアップとばかりに両手を上げてみせた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 長い長いお説教ののち、俺はようやく解放された。


 もう日も傾き始めている。


 今回の件で俺はギルドからペナルティを科され、これから向こう10回は討伐クエストの受注が禁止されてしまった。


 となるとしばらくは薬草採取くらいしか受けられないし、商売上がったりだ。


「……はぁ。

 まったく、ろくなもんじゃないな……」


 ロゲブのやつに関わったばかりにこの有様である。


 アイツは疫病神かなんかだろうか。


 俺はぶつくさと不満を口にしつつ、肩を落としながら我が家への帰路を歩いていく。


 その途中で、ひとの往来が多い大通りから外れて薄暗い路地に入った。


 すると――


 ◇


 物陰から誰かが飛び出してきた。


「死ねぇ!」


 暗がりから突如として現れたその人影は、鞘から剣を抜き放ち、袈裟懸けに斬りかかってくる。


 俺はギリギリのタイミングで剣を躱してから距離を取り、腰に()いた剣を抜いた。


 相手を確認する。


「――ッ⁉︎

 お、お前……」


 そいつの鬼の形相には嫌というほど見覚えがあった。


 ロゲブだ。


 さっきぶちのめしたばかりのロゲブが、暴漢となって闇討ちを仕掛けてきたのだ。


 折れた鼻はもう綺麗に治っている。


 こいつの家は街でも有数の資産家だから、きっと高級回復剤(ポーション)でも使って治したんだろう。


「ロゲブ!

 俺を殺すつもりか!」


「うるさい、うるさい、うるさい!

 お前なんか死んでも構わないだろうが!

 この雑魚め……。

 さっきは不意打ちでボクを倒したからって、図に乗るんじゃないぞ!

 不意打ちなんて卑怯もののやることだ。

 アレク!

 お前は卑怯ものだ!」


「はぁ⁉︎

 というかいまお前も俺に不意打ちを仕掛けてきただろうが!」


「ボクはいいんだよ、ボクは!」


 自分のことは棚に上げてひとを責めるような輩に、ろくなのはいない。


 目の前で殺気をこめて俺を睨んでいるこのロゲブなんかが、その良い例だ。


 こいつは正にろくでなしである。


「いいか?

 ちゃんとした剣技の競い合いなら、このボクがお前なんかに負けるはずがないんだ!

 いま目にもの見せてやる!」


 ロゲブが正眼に構えた剣を振りかぶり、大上段から斬り下ろしてきた。


 その剣筋は基本に忠実なだけで非常に読みやすく、剣速も止まって見えるようにノロマだ。


 って、あれ?


 いくらなんでも遅すぎないか?


 まるでスローモーションである。


 違和感を覚えるも、とにかく今はもう一度コイツをぶちのめす方が先だ。


「……いいぜ。

 そこまで言うならやってやろうじゃねーか!」


 俺だってこのクソ野郎には、散々ムカつかされてきたんだ。


 前までは何とか仲良くしようと堪えていたが、こうして決定的に険悪になったからにはもういい。


 開き直って何度だってボコってやらぁ!


 俺は退屈なロゲブの剣を自らの剣で迎撃する。


 柄を強く握りしめ、地面を掬い上げるように下から上へと乱暴にふるって、ヤツの剣を空に向けて打ち上げてやった。


 キィィンと金属がぶつかり合う硬質な音が響く。


 隙だらけになったロゲブが、驚愕に目を見開いた。


「げぇ⁉︎

 ボクの流麗な剣捌きが、アレクごときに見切られたぁ⁉︎」


「ぎゃあぎゃあ喚くな!

 これでも喰らえ、おらぁ!」


 俺は拳を固め、本日2度目となる鉄拳をロゲブの顔面にお見舞いしてやる。


「――ギュピフッ⁉︎」


 グシャッと鼻が潰れる音がしたのと同時に、ロゲブの身体が猛烈な勢いでぶっ飛んでいく。


 路地の奥まで水平に吹き飛んだロゲブは、そこにあった壁に身体をめり込ませ、ピクピクと痙攣して動かなくなった。

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