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ボコり1回目

 ギルドまでやってきた。


 大勢の冒険者たちが行き交うなか、俺は辺りを見回してロゲブの姿を探す。


「お、いた」


 向こうの壁際に、性格の悪さが顔に滲み出たような男が突っ立っていた。


 近づいて声をかける。


「……よぉ、ロゲブ」


 ヤツはこちらを見ず、なかなか返事もしない。


 これも最近ではいつものことで、どうやら俺のことをこうやって三下扱いして相対的に自分を大物に見せようとしているらしい。


 まったくロゲブらしく、イヤな態度である。


 苛ついてきた俺は、強めに言葉を放つ。


「おい、ロゲブ!

 こっち向け!」


「……ん?

 ああ、いたのかアレク。

 雑魚すぎて視界に入らんかったわ。

 ははは。

 悪い悪い」


 こ、こいつ……ッ。


 俺は一瞬ロゲブの胸ぐらを締め上げてやろうかと思ったが、すんでのところで何とか我慢した。


 努めて冷静な口調で、話をする。


「……ロゲブ。

 お前、いい加減にしろよ。

 それがパーティーを組んでる相手に対する態度か?」


「はぁ?

 つかアレクの分際でなにキレてんだよ。

 剣技の何たるかも分かってない雑魚冒険者のくせに。

 いいか?

 ボクはアクター天騎士勲章を目指しているほどの天才剣士だぞ?

 そのボクとパーティーを組めるんだから、お前は感謝だけしてればいいんだよ」


 また始まった。


 アクター天騎士勲章とは当代一の剣の使い手に国から授与される勲章で、実績重視のナキオ鉄騎士勲章と双璧をなす大勲章だ。


 どうやったらロゲブ程度の剣の腕でアクター天騎士勲章が狙えるのかはさっぱりわからんが、こいつは事あるごとに口癖のようにいつか授与されてみせると言っている。


 ため息しかでない。


 まったく、身の程知らずという言葉がこうまで似合うやつも珍しい。


 俺は頭が痛くなるのを耐えながら、話を続ける。


「とにかく態度を改めろ。

 さもなければ俺は、今日限りでパーティーを抜けるぞ」


「なにそれ脅してるつもり?

 ……いやでも、確かにアレクに抜けられるのは困るな」


 ――お?


 いま珍しくロゲブが殊勝なことを言った。


 反省したのだろうか。


 俺は話の続きを促す。


 するとロゲブはいつもの嫌らしい顔で、にやけながら言い放った。


「ぷっ、だ、だってさぁ。

 アレクくらい剣技がなってないやつがパーティーにいた方が、ボクの剣の冴えが際立つじゃん。

 あはは!

 だからお前に抜けられたら困るんだって」


 ロゲブはケラケラ笑いながら俺を小馬鹿にしてくる。


 こいつが反省したかもとか少しでも考えた俺がバカだった。


 俺は拳をギュッと握りしめ、怒りを堪えながら聞いてみる。


「……な、なぁロゲブ。

 俺たち幼馴染だし、いつかまた前みたいにそこそこ仲良くやれるようになるんだよな?

 俺はそう思って、いままで我慢してきた」


「仲良く?

 なんでボクがアレクなんかと仲良くしなきゃなんないわけ?

 調子に乗んなよお前」


 ロゲブは心底俺を見下している。


 そのことがはっきり伝わってきた。


 俺は我慢の限界がそこまで来ていることに気付きながら、最後の確認をする。


「……なぁ。

 お前が俺とパーティー組んでる理由ってなんだ?」


「だから言ってんじゃん!

 お前の剣技が下手だからだって。

 引き立て役ってやつ?

 あはははは!」


 ◇


 ブチンと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。


 ……もういいわ。


 こいつ殴っちまおう。


 固めた右拳を振り上げる。


 俺は左足を力強く踏み出し、ロゲブの顔面目指して思い切りパンチを繰り出した。


 拳がやつの鼻面をとらえる。


 骨の砕ける感触が、拳から伝わってきた。


「――ホゲギァ⁉︎」


 ロゲブが変な悲鳴を上げる。


 かと思うとキリ揉み状に吹っ飛んでいき、ギルド建屋の太い柱にぶつかって跳ね返る。


 それから何度も床をバウンドしてゴロゴロ転がってようやく止まった。


「……あ、あれ?」


 俺は自分の繰り出したパンチの威力に驚いた。


 え?


 いまロゲブのやつ、凄い飛距離を吹っ飛んだぞ?


 い、今の、俺が殴ったせいか?


 ロゲブはパンチ1発で失神し、這いつくばりながらピクピクしている。


 俺はその無様な姿と自分の拳を交互に眺めながら、困惑した。

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