第4-22話 入学式
入学式の始めは学長の挨拶からだった。
別に普通。王国の『魔術師』として誇りある学びがどうのこうの……。
退屈だったし、何より眠たかったから寝ようと思ってたんだけど、うつらうつらしてたら学長の話が終わってた。
「続いて新入生挨拶」
司会の人がそう言った時に、『Ⅵ組』から一人の女の子が立ち上がった。
「……綺麗な髪」
壇上に上がったのは、金の髪に銀の瞳の女の子。すっごい美人。
「初めまして。シェリー・メイソンです。この度は……」
め、メイソン!?
メイソンってあのメイソン家!!? じゃあ、『流星』の隊長さんの妹なのかな……?
でも隊長さんは黒髪に黒目だし……。……貴族だから、腹違いとかなのかな。
「ねえねえ、新入生代表って首席合格の人がするらしいよ」
「え、そうなの? じゃあ、あの人が首席なんだね」
隣に座ってた物知りな友達がそう教えてくれた。
確かに、メイソン家なら首席でもおかしくないよねぇ……。
っていうか、私この学校で成績最下位かも知れない……。
やだなぁ。この後の成績開示が怖すぎる……。
そんなことを考えていたら、新入生代表の挨拶はいつの間にか終わっていた。
「この後はどうするの?」
「もう終わるんじゃない?」
入学式のプログラムも何も貰っていないので、この後の動きが分からない。けど、例年通りならこれで終わりのはずなんだけど……。
時々、王様がゲストとしてくることがあるらしいけど来賓席を見たところ、サフィラ女王は来てないみたいだし、今年は何も無くて終わりかな。
「では、最後に『賢者』様からのお言葉です」
ぱっと、その言葉に式場にいた人間の背筋が正された。
もちろん、私もそう。賢者は王国最強の魔術師に送られる称号のこと。
国の憧れなのだ。
「どうも。ご紹介に与りました。当代『賢者』です」
そう言って壇上に上がったのは、銀髪に金の瞳の男の人だった。
その背中には黒い剣。
知っている。ここにいる全員がそれが誰かを知っている。
「あんまり、そう呼ばれるのは好きじゃないのでアイゼルと呼んでください」
拡声魔術を使っているからすごく大きな声が式場に広がる。
「皆さんも知っている通り、僕はここの卒業生です」
その言葉にみんなが頷いた。
当代賢者は卒業と同時に今の地位を譲り渡されたっていうのはとっても有名な話だ。
「まあ、僕はそこまで優秀な生徒じゃなかったので先生たちを困らせてました。ですよね?」
そう言って賢者様が先生たちを見ると、そこにいた人たちがうんうんと頷いていた。
……えっ、そうなの!? てっきり、学生時代からとっても成績優秀な人なんだと思ってた。
「いやあ、三期連続で序列最下位で、あやうく退学になるところだったんですよ」
その言葉にみんなが笑った。
「でも、僕は今ここにいる。それは偶然だったかも知れません。運の要素が無いとは言えません。ですけど、僕が今日この場にいる新入生の人に伝えたいのはやる前から諦めないことです。自分には出来ないと言って諦めないことです」
私はそれに惹きつけられるようにして賢者様を見た。
「皆さんはやがて実戦に出るような時が来ます。その時、出来る出来ないを問われることはありません。やらなければ死ぬだけです。だから、学生の時から、学び舎にいる時から諦める癖をつけないでください」
それはきっと、過去の自分に向けていってるんだろう。
私は思わずそんなことを思ってしまった。
「では皆さんの学生生活が良きものでありますように」
『賢者』様はそう言って一礼すると、檀上から降りていった。私はその姿を追うようにしてじっと見ていた。
入学式が終わるったら、教室に帰ることになったんだけど私はこっそり列から離れて馬車に乗ろうとする賢者様のところに走って向かった。
「あ、あの!」
そう言って馬車に乗ろうとする賢者様を呼び止めた。止まってくれるかどうかは分からなかったけど、賢者様はすぐに私の方を向いてくれた。
「君は……新入生?」
「はい。あの、ずっとお礼が言いたかったんです」
「礼? どこかで会っていたからな?」
「いえ、父の礼です。私の父を助けていただき、ありがとうございました!」
「君のお父さんの名前は?」
「父の名前はベリウスです」
名前を聞いた賢者様は、合点がいった表情をした。
「ああ、君はベリウスさんの娘か。昔少しだけ話を聞いたことがあるよ。……っていうか、そうか、もうこんなに大きくなるのか……」
少し歳を取ったことを悲しそうにする賢者様。
「アイゼルさーん!」
すると、後ろから凄い勢いで女の子が走ってきた。誰!?
そのまま女の子は勢いを緩めずに『賢者』様にダイブ。けど、『賢者』様はそれを予想でもしていたのか、抱きかかえてスマートに地面に降ろした。
「シェリー。あんまり人前でこういうことをしないよ」
その子は新入生代表で挨拶をした人だった。
「うん、でも私首席だよ?」
「成績良かったら何でもしていいって訳じゃないからね……」
「それでこの人は?」
シェリーさんに指でさされて、思わず背筋が伸びる。
「遊撃部隊の時に助けた人の娘さん」
「なるほど」
「仲良くするんだよ」
「はーい。初めまして。私はシェリー」
シェリーさんが手を差し出してくる。
「わ、私はロゼです!」
す、すごい。貴族の人と手を繋いでる……。
そして、一方の賢者様はというとその姿を見て涙ぐんでいた。
「ソフィアが見たら泣くなぁ。これは」
「そいやお姉ちゃんは?」
「任務」
「ああ、通りで」
そ、ソフィアってあの『流星』の隊長さんだよね!
凄い会話だ……。
「僕はもう行くから。ロゼさん、シェリーをよろしくね」
「はい! ありがとうございました!!」
「元気が良くて何よりだよ」
そう言って賢者様は馬車に乗っていってしまった。
……さっき知り合ったばかりの首席の子と二人きりにして。