第4-21話 六年後
「ちょっと、姉さん。もう時間だよ!」
そう言われて、私が鏡から視線を外すと時計を見た。
うわぁお。完全に遅刻ギリギリ。
「やばっ!!」
「だから昨日、準備しなさいって言ったでしょ!」
「ごめん、お母さん!」
「もうダリアちゃんはもう準備終わってるのに」
「わあああ、待ってよおおお!!」
「うん……。それは、待つけど……」
私は慌てて髪を結い終わると、急いで鞄を持った。
「行ってらっしゃい。姉さん」
「んあ……。姉ちゃんもう出るの? そっか……。今日は入学式か」
「行ってくる! ごめん、ダリアちゃん!!」
そして私は、二人の弟に見送られて家を出た。
「ごめんね。まさかこんなに時間がかかるだなんて」
「ううん……。それは別に良いけど……」
朝、白い制服に身を包んで走る学生の姿は王都ではどうしても目立ってしまう。
「おお、ダリアちゃんにロゼちゃんか。大きくなったな!」
「おじさん。おはよー!」
「その制服、そっか。今日か」
「うん。遅刻しそうだからもう行くね!」
いつも話しかけてくれる八百屋のおじさんと少しだけ話をして、先をいそぐ。普通に遅刻しそうでやばみ。
「それにしても……」
走っていると、ダリアちゃんがぽつりと呟いた。
「綺麗になったね。ここは」
「……そうだね」
今から六年前。王国は信じられないほどの大災害に襲われた。私は今もその景色は忘れない。あの、血のように紅く染まった空と、そこから落ちてくる化け物たちを。
そして、あの時は一人だった弟と一緒に騎士団の父親の帰りをただひたすらに祈っていたことを。
「もう、6年も経つんだね」
父親は災害が始まってから半年ほどたってようやく返ってきた。二人の姉弟を連れて。それから、私には家族が二人増えた。
そして、連れてこられた新しい家族と私が向かっているのは。
「セーフッ! 間に合った!!」
既に誰もいない校庭を駆け抜けて、教室に向かう。新入生は、あらかじめ教室に集合してから入学式へと向かうからだ。
「また、後で……」
「うん、またあとでね!」
気の弱いダリアちゃんだけど、契約している悪魔は『傲慢の悪魔』。攻撃魔術に特化した『Ⅰ組』配属だ。
うぅ……。大丈夫かなぁ。心配だなぁ……。
そういう私は『Ⅲ組』に配属。一番、契約者の多い『嫉妬の悪魔』と契約してるからね。あの王家直属魔術師部隊一番隊『流星』の隊長と同じ悪魔だから、契約できた時は嬉しかった。
「セーフ!? アウト!?」
間に合ったと思ってゆっくり校舎の中を歩いていると、鐘が鳴り始めたので慌てて教室に飛び込んだ。
「さて、どっちでしょう。ロゼさん」
「えっ、私の名前を……。というか、誰ですか?」
中に入ると三十代くらいの優しそうな男の先生が立っていた。
「私がこのクラスの担当する。ノーマン・グレイスですよ。気軽にノーマンと呼んでください」
「の、ノーマン先生ってあのノーマン先生!?」
「さて、どのノーマンでしょう?」
そういう先生の顔は笑顔。
「け、『賢者』様に剣術を教えたノーマン先生ですよね!!?」
「ああ、そんなこともありましたね」
他にもノーマン・グレイスといえば、山を斬ったとか海を裂いたとか色んな伝説が残っている人だ。すっごい……。流石は王立魔術師学校……。
「では、遅刻する前に式場に向かいましょうか」
「は、はい!」
式場まではノーマン先生が先導してくれた。その途中で、何人かに遅刻のことをからかわれたけど、そのおかげで数人の友達ができた。
「席は自由です。適当に座ってください」
ノーマン先生はそれだけ言うと、端にある教員席にに向かった。
初めて入る式場の中は、今まで見てきたどんな建物よりも広くて、じろじろ見まわしてたら友達から「やめておいたほうがいいよ」と言われたので恥ずかしくなってうつむいてしまった。
でも、式が始まるまで暇なので他のクラスが入ってくるのを見ていた。
『Ⅲ組』が一番早くて、その次に来たのが『Ⅰ組』。ダリアちゃんを探していると、すごい強そうな女の子たちに囲まれて恥ずかしそうに喋ってた。凄い! もう友達が出来たんだね!!
次に入ってきたのが『Ⅴ組』。治癒魔術を専門にする、人を癒す魔術師たちの顔はやっぱりどこか優しそう。気品ある座り方で、どんどん椅子に座っていく。
その次に来たのは『Ⅱ組』。『憤怒の悪魔』と契約した魔術師たちが入るクラスは、身体強化を得意とするクラス。うわっ、だいぶオラついてる……。『Ⅱ組』じゃなくて良かったぁ……。
それに続くようにして入ってきたのは……。
えっ、何その恰好。三角頭巾っていうのかな……? それを頭にかぶって、全身を覆うローブの集団。
あれほんとに王立魔術師学校の新入生?
「ね、ねえあれって……」
「『Ⅳ組』の新入生らしいよ? 何でもあの恰好で来るのが伝統なんですって」
「へぇ……」
友達はお兄ちゃんが王立魔術師学校の生徒らしくて、いろいろ教えてくれた。
そして、最後に入ってきたのはたった五人の少女たち。生まれながらに才能を持ってる『魔法使い』たちだ。
そして彼らが席についたところで、
王立魔術師学校の入学式が始まった。
あと少しだけ、彼らの物語にお付き合いください!