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第4-14話 頂点、そして隠し玉

 黒く染まった視界が、元に戻るのは一瞬であった。アイゼルは地面の上に投げ出されると受け身をとって着地。すぐに周囲の状況確認を務める。


「……ここって」

「あーくんに、エーファ、メリーもいるのか?」

「さっきの、声って……?」

「……くっ」


 そこにいたのはアイゼルだけではなく、この城に侵入した仲間たちだ。そして、アイゼル達がいるのは螺旋階段から橋で伸びた先にあるフロア。柵で出られないようになっているそこから螺旋階段を見下ろすと、地面が見えないほど高い場所だった。


 しかし、反対に上を見るとそこには天井が見える。それはすなわち、


「……ここが天辺……?」


 と、いうことになる。

 アイゼル達の努力を一瞬で笑うように城の頂点に到達させた存在は……。


「……ッ!」


 つらつらと何かを考えるよりも先に、結論がアイゼルの脳に叩き込まれた。


 ……いる。確かにいる。


「そんなことって……」

「……これは」


 その場にいて、その存在感を感じることが出来ぬ者はいないだろう。アイゼル達がいるフロアから伸ばされた橋の先にある一つの大きな扉。


 その奥に()()のだ。間違いなく、『星界からの侵略者』たちを作り出したといえるだけの存在感を放つ者が。


『いでよ』


 再び声が響く。その瞬間に、アイゼル達の直上に直径2メルほどの大きさを持つ翡翠の球が出現。それは割れると同時に中から15メルを超えるほどの大きさを持つ『星界からの侵略者』が現れた。


「こいつは……」


 その姿を見た貪食の悪魔(グラゼビュート)がわずかに声を漏らす。

 それは辛うじて人の形を保った、別の生き物であった。


 頭は無数の鱗で覆われており、昆虫のような複眼で上部は覆われている。口元に生えた無数の触手はそれぞれが意志を持った生き物であるかのように蠢く。背中に生えた翡翠の羽は大きく広がると、ソレはまっすぐアイゼル達を見降ろした。


『さあ、遊べ』


 声はそれだけ言うと、消え去った。


 そして残るのは、圧倒的な威圧感。と、共にアイゼル達を襲った表現のしようがない頭痛。目の前の生き物と思えない生物を見た瞬間に、アイゼルは経験したことのないほどの痛みに襲われた。


 それを例えるなら、頭蓋骨の拡張が最も正しいだろう。

 

 アイゼルが、()()()認識出来る様に脳を拡張しようと頭蓋骨が無理やりひろげられているという表現が一番近しい。あるいは、理解するための何かを無理やり埋めつけられる痛みだろうか。


 

 そして、その痛みに襲われたのはアイゼルだけではなかった。ソフィアも、メリーも、エーファも、そしてリーナですらも頭を抑えてその場にうずくまる。


「……っづぁあぁあああ!!」


 あまりの痛みに発狂しそうになるのだ。


 ぞぞぞと、アイゼルの全身の細胞が目の前の生き物から逃げ出すかのように蠢くのを、激しい頭痛の中で感じ取った。


 ……生命としての格が違う。


 そう思わざるを得ないほどの存在感。威圧感。

 そう考えると正一位オリジンズの悪魔がまるで子供だましのように思えるのだ。こんなものがいるのに、一位を名乗って良いのか。


 そして、それと共に敵がこんなものをまだ隠し持っているという事実をアイゼルは絶望と共に受け入れた。


「ここは、俺が行こう」


 そう言って、貪食の悪魔(グラゼビュート)がソレの視線からみんなを隠すように立ちふさがった。その瞬間、アイゼルの頭痛が和らぐ。どうやら、()()()()と同じくらいに()()()()()()ということが重要の様だ。


「良く聞け。コイツの名前は『ゾス・クルフ』。見ての通り、零等星だ」


 貪食の悪魔(グラゼビュート)の解説に、『ゾス・クルフ』は咆哮で持って返した。


「以前戦った時には高い知能と、尋常ではない力に苦しまされたものだが」


 『ゾス・クルフ』は自らの眷属である無数の触手の塊を生み出して、それを貪食の悪魔(グラゼビュート)の頭上へと落とすがそれは空中に生み出された巨大な口によってかみ砕かれた。


「今のこいつは生まれたての赤子。言ってしまえば」


 『ゾス・クルフ』の姿が一瞬にして地面へと消えて行く。そこにあるのは乱杭歯が生えた大きな口。それはペロリと『ゾス・クルフ』を一口にして飲み込むと、どす黒い下がペロリと唇を舐めた。


「雑魚だ」

『ほう。悪魔リリアの眷属か』


 響き渡る声が、再びアイゼルたちを深海の恐怖へと突き落とす。その声を聴いているだけで、言いようのない不安感。絶望感。劣等感に襲われる。


『ならば、相応の物が必要だな』


 その声と共に生み出されたのは、一見すると巨大な老人のミイラであった。やせ細ったその腕と足がしっかりと地面を踏みしめると、全身に生えた無数の触手と眼球が一斉にアイゼルを見る。


「……僕がやる」


 そう言って、アイゼルは悪魔化。悲嘆の悪魔(ヒュリオン)として、その世界に顕現した。


「出来るか?」


 そう言った貪食の悪魔(グラゼビュート)は単にアイゼルの体調を心配しているように見えて、


「行けるさ」

「そうか。なら、任せる」


 それの名は『ルナ・ナープ』。幻覚・幻術魔法を扱う『星界からの侵略者』であり、勿論『零等星』。


 しかし、今のアイゼルは悲嘆の悪魔(ヒュリオン)として認識できない物をする。よって、『ルナ・ナープ』という存在は理解出来ぬ物ではなく。この世において生命としてすら認識されない物へと切り替わっていく。


悲哀虚妄ヒュリオン


 それは権能の解放であり、またアイゼルが最も気軽に行使できる魔法でもあった。

 『ルナ・ナープ』が使おうとした魔法も魔術も攻撃も、アイゼル……否、世界において否定された物。故に、『ルナ・ナープ』は何もすることなく。世界に何かを残すことなく、生まれた事すら誰にも認識()()()()ままに、この世界から消えて行った。

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