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第4-13話 上、そして転移

 城の中はひどく静謐に纏われ、それは一種の連帯感を持って空間そのものを埋めるとそこに存在している物から音というものを奪い去ったかのように包んでいた。


 城の中は大きな吹き抜けになっており、アイゼル達のいる一階から頂点までを見通すことが出来た。しかし、やはりというべきか何と言うか、天は高くそびえたちまったくもって上が見えなかった。


「……これ、罠だよな」


 そして、そこから上に上がるための方法は一つ。城を支える支柱のようにまっすぐ天へと伸びている螺旋階段のみ。


「しかし、ここ以外に上に上がる方法は無いしな」

「アイゼルの知覚魔法でも上に居るって出たんでしょ?」

「ああ」


 城に入るときに敵の位置を調べたのだが、城の中にいるのは有象無象の者たちばかりで知覚魔法が敵と判断したものはその頂点にいる何者かだけだった。


「それなら……ここしか……」


 エーファの言葉に、皆が息を吐く。ここしかないと分かってはいるのだが、出来ることなら、こんなに目立つ螺旋階段を使って上に上がりたくないのである。


「仕方ない。一気に行くぞ」


 貪食の悪魔(グラゼビュート)はそう言うと、螺旋階段に足をかけそのまま跳躍。螺旋階段の踊り場から伸ばされた二階へとつながる橋に腕をかけると、身体を持ち上げる反動で三階まで上がり、そのまま柱の後ろに姿を隠した。


「……早いのだ………」

「あーくん、今のは」

「……大丈夫。バレてない」


 そう言ってアイゼルは【知覚魔法】に表示アシストされている索敵地図を見た。この地図に表示ポップアップしている敵がもしアイゼル達に勘づくとその敵の色が切り替わり、すぐにアイゼルたちに教えてくれるのだ。


 敵。

 

 それは、この城のいたるところを蠢いている形容しがたき生き物だ。いや、それを生き物と表現していいのかすらも分からない。


 それを一言で表現するならば、顔。

 人間の肥大化した顔なのだ。


 耳もなく、鼻もなく。あるのは無数の目と至る所にある口。そしてそれから生えた乱杭歯だけだ。

 それらは、地獄を彷徨さまよう亡者のように、城の中を徘徊している。彼らの視界の範囲はアイゼルにはつかめないが、出来るだけ見つからないようにして進むのが吉だろう。


「あーくん。あれを頼む」

「ん……。【啓蒙】」


 アイゼルがソフィアの両目を覗き込みながら魔法を発動。一時的にだが、【知覚魔法】を使える様になったソフィアは敵の視界を表示ポップアップすると、そこに感知されないように四階まで上がった。


「僕たちも続こう」

「……ん」

「分かってるよーっと」


 エーファは無音で変身し終わると、ふわりと浮かぶとそのまま螺旋階段の支柱を上手く使ってどこまでも上に上がっていく。


「アイゼル、私たちも」

「あぁ。速く行こう」


 メリーはそのまま魔術を発動。それは『胎幻楼閣ダル・ダレ』と呼ばれる魔術。

 広義には幻覚魔術として使われるが、此度彼女が使ったのは己の姿を見られてもそれを取るに足らない物だと錯覚させる魔術。


 彼女の力では自分自身にかけるのが限界の魔術だ。


「じゃあ、僕は行くよ」

「バレないようにね」


 既にメリーの認識が難しくなってきたアイゼルはそう言うと、知覚魔法を発動。


 視界に表示ポップアップされる敵の視線を綺麗に避けながらまずは二階、そして三階。ついで四階と、どんどん上に上がっている仲間たちの後ろを追いかける様にして上がっていく。


 十五階にまで到達した時だった。


「……っ!」


 その瞬間、アイゼルの周囲を敵の視線が囲った。知覚魔法が視覚化した赤い線がアイゼルの周りを纏わりつくようにして動き始めたのだ。


(……バレたか?)


 アイゼルは【知覚魔法】に表示されているままの地図を見るが、そこにアイゼル達に気が付いた様子を見せる敵はいない。しかし、アイゼルの周りにいる敵だけが、黄色の注意を表す表示へと切り替わっていた。


(……クソ)


 出来るだけ音を立てないようにしていたつもりだったが、どこかで着地した音を聞いた者がいたのだろう。それでこうして、怪しまれているというわけだ。


(……待つしかないか)


 アイゼルが今いるのは柱の影。視線たちの死角になるような場所だ。このまま物音一つ立てずにやり過ごすことで、何も無かったと思わせるしかない。


 そう思って黙り込んでいたのだが。


(……こっちに来てる!?)


 アイゼルの地図に表示された中で確かに一匹の敵がアイゼルのところに向かってきていた。


(……どうする)


 仲間たちはこの隙にとどんどん上に上がっていく。これは自分一人で解決しろということだろう。まだ肥大化した顔の敵がどれだけ強いのか分からないが、それだけアイゼルに信頼がおかれているということだ。


(……やるしかない)


 アイゼルは深呼吸すると、覚悟を決めた。頭の中で何度も動くを繰り返す。


 ……やるぞ。


 アイゼルは死角になっている壁の裏に敵が入ってきた瞬間に、有無を言わさず魔劍で貫いた。無数の口が何かを叫ぼうとする前に頭を両断、一瞬で絶命させると分割した頭部を壁の後ろから遠くに投げた。


 その瞬間、アイゼルに向けられていた敵の視線が一瞬。ほんの一瞬だけ、斬り飛ばされた頭へと向かう。その隙に壁裏から出ると跳躍。一気に十七階にまで飛び上がった。


「冷や冷やさせるな」


 飛び込んだ先にいた貪食の悪魔(グラゼビュート)がそう言う。


「……何だよ。見てたのか」

「たまたまな」

「過保護な親か」

「……上に行くぞ」


 まだまだ上はある。こんな所で無駄話をしている場合ではないと、戒める様にグラゼビュートが言った瞬間だった。


『はははっ。面白いではないか』


 その声は、とても既視感のある声だった。


『ここに侵入してくる者がいるとはな』


 それは湖のように深く、深く万物を飲み込む声。それはどこから聞こえているのか、アイゼルにはまったくもって掴めなかった。


 天から聞こえているのか、それとも直接頭に響いているのか。壁が喋っているのか、地面から聞こえているのか。それともその全てなのか。


 アイゼルには理解できないままに声を続ける。


『ならば、遊んでやろうではないか』


 そう言って突如現れた転移門ゲートに飲み込まれると、アイゼルの視界は闇に染まった。

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