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第09話 進行、そして脱出

 全ての戦闘が終わったあと、エーファはふわりと浮遊魔術を完璧に行使しながらアイゼルの目の前に降りてきた。


 「アイゼル君、行こう!」

 「行こうって、どこに……」

 「エーファがこの姿を保てる間に崖を降りるのだ!」


 リーナの声がしたのは、エーファの胸元に飾られている緑色の宝石からだった。


 「は? リーナ? なんで?」

 「何でって言われてもこうなるのだから、仕方ないのだ。エーファはまだ未熟だから月光がないと変身出来ないのだ。速く崖を降りるのだ」


 宝石が喋るという奇怪な現象にアイゼルは脳が理解を拒んだ。


 まあ、リーナがそう言うなら、それでいいや。


 「お、おう……」

 「アイゼル君、手を出して」

 

 エーファに言われるままにアイゼルはエーファの差し出された手を握ると、エーファはそのまま浮かび上がった。


 「うわっ、結構浮くんだな……」


 自分の身体にかかる重力がなくなるのかと思ったら、重力が無くなるのはエーファだけらしく、アイゼルはただ浮遊するエーファによって持ち上げられているという状況だった。

 

 ……これ肩抜けない? 大丈夫?


 「しっかり捕まっていてね。落ちちゃうと多分、私でも拾えないから」

 「うい」

 

 

 アイゼルが理解が追い付かず、生半可な返事を返すと、エーファはかなりの速度で斜めに降下した。


 結構速くね?


 エーファの手前、悲鳴を上げられないのでアイゼルは必死になって落下の恐怖を噛み殺していると、やがて崖からかなり離れてアイゼルとエーファは森の中に着地した。


 「そうか。エーファが今回103位も序列がおちたのは」


 だが落ちている間に一つ、合点がいった。


 「うん。今回の試験は曇り空で変身出来なかったの。だから、117位まで落ちちゃった」


 そういってキラキラと笑うエーファを見ていると、確かに彼女が元14位というのも頷ける。何しろ、あれだけ複数の魔術を影貌シャドー相手に、攻撃魔術師と遜色ないレベルで行使しているのだから。


 っていうか、魔術少女そのすがただと普通に喋れるんだな。

 

 『お前だって剣を抜けば人格が変わるだろう』

 

 ……うるせー。


 グラゼビュートの突っ込みに、アイゼルはそう返した。




 とにかく、森は進められるときに進まないと一年たっても帰れないので、その日は月明かりに身を任せ、二人は夜間行軍を行った。とにかく全速力で西に向かうのだ。夜は飛行型の魔物が出てこないことが二人にとっては大きな幸運だった。


 エーファが空から、アイゼルが知覚魔法によって、森の魔物の位置を正確に把握しながら、時には迂回し、時にはエーファが焼き尽くし、そのまま二人は一気に森を駆け抜けた。


 森と港の境目にある山をエーファに担いでもらって登頂すると、遥か遠くに港と、微かな人工物が見えたが、そこで二人の体力は打ち止めとなり、木の上で野宿となった。


 疲れていたのか、すぐにアイゼルは眠りについた。目を開けると、空は曇り正確な時間帯は分からないが、アイゼルの勘によるとおおよそ夕方と言ったところだった。エーファはアイゼルが起きるよりも先に起きていたらしく、アイゼルが木から飛び降りるとリーナと集めた木の実を手渡してきた。


 「きっ、昨日の、アレ……。誰にも、言わない、で」

 「エーファが言うなって言うなら言わないよ」

 「言ったら殺すのだ! あははっ!!」

 「物騒だなぁ」


 腹ごしらえが終わった二人はすぐさま下山にかかった。だが、実際には到着地点ゴールが見えている今の状況はかなり危険だ。焦りは体力のロスや、小さなミスにつながる。


 そうして、知らず知らずのうちに命の危機に陥るような致命的ミスを犯してしまうのだ。

 そのため、二人は念入りに時間をかけ二日をかけて、森の中を突破して港へとやってきた。


 「……お前ら、王立魔術師学校アカデミーの生徒だな?」


 森の中を歩いていると、目の前から現れた冒険者にそう言われた。アイゼルがそうだ、と返すと男たちはついてこい、と返してアイゼル達を港にある冒険者ギルドへと連れてきた。


 「やあやあ、お疲れ様」

 「……っ!」


 そこにいたのは、やはりというか『賢者』であった。


 「よく、この狭間の森を抜けたな。おめでとう」

 「……ありがとうございます」


 椅子にふんぞり返るようにして座った『賢者』に、アイゼルとリーナは縮こまってしまう。


 「万が一のためにずっと監視していたんだが、どうやらその必要はなかったみてえだな」

 「え、そうだったんですか?」

 「おう。学長のやつには、強くしてくれとは言われたが死なせてもいいとは言われて無いからな」

 

 えぇ……。

 この四日間、結構危ない場面がいくつもあった。例えば、アイゼルがグラゼビュートと出会うための時もそうだが、山を下ってからも魔物の危機は死ぬほどあったのだ。


 「坊主、お前は『知覚魔法』の使い方を分かったみてえだし、嬢ちゃんの方は……まあ、これからだな」

 「……は、い」


 エーファが肺の奥から零れたような小さい声で返事をした。


 「まあ、劇的に強くなるにはこういった環境に一年はいないと効果ねえからな。だが、心変わりはあっただろ?」

 「はい」


 賢者の言葉にアイゼルが頷く。確かに、心は変わった。命の危険が常にあるという状況で、なんの心境の変化もないほどアイゼルは抜けた人間ではない。それは、エーファも同じだ。


 「さて、お前らも知っての通りこの狭間の森はシャルモ島という島にあるわけだが、ここから王都まで船と馬車で三週間かかる」


 賢者がそういうと、賢者の後ろから三つの球が現れた。


 「俺の魔術なら、一瞬だ」


 その瞬間、腰につけていた剣が激しく震えた。


 どうした、グラゼビュート……。


 アイゼルはそう問いかけたが、グラゼビュートの返答を聞くよりも先にアイゼルとエーファはこの森に来た時のように意識を失うと、賢者の転移魔術によって王立魔術師学校アカデミーまで戻されたのだった。



 ふと、拍手の音で目を開けるとアイゼルとエーファの周りには学長と、ローゼ。そして、その二人を取り囲むようにして複数の教師たちが二人を拍手で迎えていた。



 ……これはどういう状況なの……………?

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