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第4-12話 侵入、そして切り札

 こちら側から攻めいる時はアイゼルが想像していたよりも数倍早く訪れた。それは、賢者が訪れてから三日後。唐突に王都の天が夜へと切り替わったのだ。


「……ッ! でかいぞ!!」


 最も早くそれに気が付いたアイゼルが大声で第壱遊撃部隊ノヴァの仲間たちに伝える。それに続いて空を見上げた彼女たちは王都そのものを覆ってしまいそうなほどの巨大なにただ、息をのむばかり。


『……本命のお出ましか!』


 グラゼビュートの言葉にアイゼルも首肯を返す。空が夜に滲んでいく中で、第壱遊撃部隊ノヴァの後ろに転移してくるものが一人。


「いくぞ」


 その中の誰よりも、最も鋭い目でもって賢者が言った。


「あぁ。勿論だ」

「なら、お前ら固まれ。絶対にばらけるなよ」


 賢者の言葉に素早く集合する四人。各々が手を取り合って重ね合わせる。


「お前らが帰ってこなかったら、死んだとみなす。ま、覚悟を決めていってこい」


 賢者はそう言うと、アイゼルたちに返答を許さず空へと弾いた。アイゼルたちの踏む地面が弾けると空へと向かって一直線に上がっていく。だが、不思議と空気の抵抗は感じない。


「賢者のやつ、防護壁なんて張ってるのか」


 ソフィアは苦々しげにそう言った。殺されかけた相手に命を守られるというのは、あまり気分の良い物ではないだろう。


「みんな、あれ……」


 エーファが指さしたのは今まさに王都へと落ちてこようとしている巨大な『星界からの侵略者』だった。


「そんな……」


 大きさは……図り切れない。500メルにも600メルにも見える。巨大な蛇だ。だが、その鱗の一枚一枚に人間のあざ笑うような顔が浮かびあがっており、口には牙の代わりに人間の身体が踊っている。


「うっ……」


 メリーがその醜悪さに口を抑えた。アイゼルもそれにつられて思わず顔を顰めてしまう。問答無用の『零等星』。恐らく、向こう側の切り札だろう。


 それは阿鼻叫喚に包まれる王都市民の上へと降り注ぐと、王都に張り巡らされた防護壁の上に落下。そのまま防護壁の上をすべる様にして市壁の外へと落ちていく。


「大丈夫だ。『正一位オリジンズ』を信じよう」

「あぁ……」


 ソフィアが皆を元気づけるために言った言葉はしかし、それを聞いた者たちに新たな絶望を植え付けた。すなわち、本当に『正一位オリジンズ』でも勝てるのだろうかと。


 けれど、その問いが解決する事は無く、アイゼル達は蛇が通ってきたゲートへと飛び込んだ。


「……どうなるかな」


 その中は、例えるならば夜空のトンネルだった。

 漆黒の闇の中に、無数の星々が輝いており、それらは空虚な明るさと傲慢なまでの存在を放ち四人を歓迎していた。


「案外、拍子抜けするほど制圧が簡単だったりして!」

「それだと……良いけど」

「みんな、明るくなってきた。戦闘体勢に入れ」


 見るとトンネルの出口が明るくなっていた。こういう場合は往々にして、出口と相場が決まっている。


「出るぞッ!」


 ソフィアの言葉と共に、飛び出したアイゼルは【知覚魔法】を発動。出た先は別世界。しかし、アイゼル達の世界へと侵攻をかけているのだから、それなりの数の敵がいると考えておいても不足はないだろう。


【No,enemy】


 だが、【知覚魔法】が返してきたのは拍子抜けするような返答だった。


「……どういうことだ?」


 それを伝えたソフィアたちも首を傾げる。とりあえず、現状を確認せねばとアイゼルは周囲を見渡した。


 それはとても大きな空間だった。


 知覚魔法の表示アシストによると、900メル×900メルの大きさを持つ大きな転移場。真下には複雑に絡み合った魔法陣が石の上に直接掘られていた。


 空はまるで雪の空のように灰に染まり、転移場の隣は頂点が見えないほどの大きな城が立っていた。


「……あれは」

「これが……敵の、拠点?」

「まさか」

「でもここ以外に、何も、無いよ……?」


 メリーの言葉に周囲を見渡す四人と一匹。そして、その世界の真実に気が付いた時に皆が閉口した。


「ここは……死んだ世界、なのだ」


 リーナの言葉に、それが疑いようのない事実としてアイゼルたちは理解した。


 城を起点として、その周りに転移場を含めたいくつかの庭がある。それで、終わりなのだ。その世界において、それ以外の全ては雪に覆われ一切の生命を許さない監獄と化していた。


 生命がない分、アイゼルの知覚魔法も範囲レンジは広くなる。アイゼルは城を除外して、その星に存在するはずの生命を辿った。遠く、遠く、どこまでも遠く範囲を広げて。


 そして、


「……いない」

「えっ?」

「いないんだ……。この城以外に、この星に生命は無い」

「そんなことって……」


 アイゼルが告げた事実は、彼女たちにとって到底理解できるような内容ではなかった。だが、悪魔は違う。


『はっ。探す手間が省けたではないか』

(……それって)

『城以外に生命がない? こんな都合の良い事があるか。だとしたら『星界からの侵略者』はその城以外のどこから来ているというんだ』

(それは……そうだけども)

『行くぞ。アイゼル』


 ふと、それだけ言うと貪食の悪魔(グラゼビュート)が顕現した。


「は!?」


 貪食の悪魔(グラゼビュート)の意図がつかめず首を傾げるアイゼル。


「もう、出し惜しみしている場合じゃないだろう」

「まあ、そうだけどさ……」


 アイゼルは突如顕現した『正一位オリジンズ』に困惑していたが、それよりももっと困惑しているのは三人の少女たち。


「お前たちも一体何を呆けている。さっさと行くぞ」

「あ、あぁ」

「この人……アイゼル君の剣の人……」

「ぐ、貪食の悪魔(グラゼビュート)……」


 リーナはまだ言ってもいない、貪食の悪魔(グラゼビュート)の名前を言うと、そのままエーファの影に隠れてしまった。


「……リーナ?」


 アイゼルが声をかけても何も言わず、ただリーナはエーファに隠れたまま何も言わずに静まり込んでしまう。


「おい、アイゼル。お前の魔法でどこが入り口なのかを探せ」

「あ、あぁ……」


 貪食の悪魔(グラゼビュート)の指示に従って、アイゼル達の人知れない侵攻が始まったのだった。

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