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第4-11話 希望、そして嘗胆

「ということがあったんだ」


 全ての事象が片付いた後、アイゼルたち第壱遊撃部隊ノヴァはいつもの拠点に集まるとそれぞれの戦闘報告を行っていた。


「零等星……。厄介な敵だな」


 特に皆が注目したのが『スピカ』との戦闘だった。アイゼルの切り札たる権能解放が使えなかったというのもあるが、それにしたとしても強くなったはずのアイゼルを簡単に圧倒してしまうほどの力を持っているのだ。


「精神干渉系の魔術が使えないと歯が立たないんだよ」

「逆に言えば精神干渉系が有ればいいってことだよね!」


 色欲の悪魔(ラクシュメダイ)をわずかに埋め込まれているメリーはそう言って笑う。


 まあ確かに君は精神干渉系を使えるから良いだろうけどさ……。


「ああ、それと少し気になることがあってさ」


 言い忘れていたとばかりにアイゼルは『星界からの侵略者』たちが潜り抜けてきたゲートの奥に他の生命体が見えたという話を他の三人にした。


「どういうことだろうな、それは……」

「『星界からの侵略者』たちは侵略兵器なのかな?」

「どういうことだ?」

「あれは兵器で別世界から送り込まれてるけど、実際に攻めようとしている人たちは別の世界で『星界からの侵略者』たちを作ってるのかも!」

「……なるほど」

「攻め時……。かも……」

「とはいっても300メルも上がれないしなぁ」


 アイゼルの言葉に四人が頭を抱えた。エーファの魔法なら、300メルまで上昇することは苦ではないだろう。しかし、夜になると同時に変身しなければいけない彼女では、如何せん門が閉じてしまう。


「そういうことなら俺に任せてもらおう」


 その言葉に弾かれて四人が戦闘態勢。空間転移によって部屋のど真ん中に現れた『賢者』に全員の刃が向けられる。


「おっと、怖い怖い」


 だが、それを笑っていなすと、賢者は『七冠』を納めて空いている椅子に勝手に座った。


「久しぶりだな」

「……あぁ」


 アイゼルの言葉に怒気がこもる。メリーは未だ賢者に良い感情を持っていない。パッとアイゼルの背に隠れた。


「何の用だ」


 自らもすぐに魔術が使える態勢を維持したまま、ソフィアが賢者に問う。彼はそれにすぐには答えずニヤニヤと笑いながら言った。


「茶は出て来ねえのか?」

「そんな気の利いたものなんてお前にはいらないだろ」

「おっと、久しぶりに先輩が会いに来てやったんだぜ?」

「……今まで、何してたんだ」


 アイゼルの言葉に賢者は肩をすくめた。


「どうして、今まで零等星が出てこなかったと思う?」

「零等星が向こうの切り札だったからじゃないのか?」

「切り札だ。それは間違ってねえ。だけどな、あいつらは攻め時を見誤るほど馬鹿じゃない。王国には腐るほどの零等星が放り込まれていたんだよ」

「……じゃあ」

「俺が全て倒した」

「…………」


 その言葉にアイゼルは己の無力さを噛みしめる。権能解放に頼りきっていた自分とそうではない賢者との差を思い知らされた気分だ。


「まったく、不甲斐ない後輩を持つと先輩も大変なんだぜ?」

「……そうだな」

「おっと、そんな悲しい顔すんなよ。いじり甲斐も無くなる」

「それで何しにきたんだ。よもや遊びに来たわけでもあるまい」


 どれだけ待っても賢者が本題に入らないので、ソフィアが切り出した。


「ああ、そうだ。遊びに来たわけじゃない」


 賢者は『七冠』を自らの周りに浮かばせると、微笑んだ。


「俺が空へと運んでやろう」

「……それは」


 確かに賢者の魔法ならば、アイゼル達を300メル以上の高さにまで持って行くことなど造作もないことだろう。だが、


「一体何を企んでいる?」


 そう、ソフィアが言った。アイゼルとしても、賢者の抱えている一物に思考のリソースをさかざるを得ない。賢者こいつが無条件で自分たちに力を貸してくれるなどとは到底思えないからだ。


「企んでるだなんて、つまらないこと聞くなよ」


 賢者はそのまま椅子にふんぞり返ると、偉そうに足を組んだ。


「俺がここまで、なんのために人間性を捨ててきたのか。どうして俺が賢者になったのか。少し考えればおのずと答えは見えてくるだろう?」


 賢者の問いかけにアイゼルは深くうなずいた。その過程、結果がどうあれ賢者は『星界からの侵略者』たちを倒すためだけに全力を注いできた。だから、ゲートをくぐってみようといったアイゼルの言葉に賛成こそすれ反対することは無いのだろう。


「俺がお前たちを導くまで、俺はここら辺に居ることにするよ。良いだろ? アイゼル」

「……あぁ」

「あーくん!」「アイゼル君!?」


 アイゼルの首肯にソフィアとエーファが怒るようにしてアイゼルを咎めた。だが、アイゼルには賢者がこれから何かをしてくるようには思えなかったし、少なくとも『星界からの侵略者』たちに関しては本気であるだろうとの確信があった。


「ただ、メリーに近づくのだけはやめて貰う」

「分かった。分かった」


 賢者はそう言うと、『七冠』を自身の周囲にめぐらして転移を始める。


「頃合いが来たらまた来る。それまでに準備をしておけ」


 それだけ言い残して、賢者は消えた。


「……ふぅ」


 張り詰められていた緊張の糸がほどけ、思わずため息をついてしまう。


「急なやつだな……」


 アイゼルの言葉に、三人は首を縦にふって返答した。

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