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第4-10話 零等星、そして変態

 騎士と、目と指の塊が確実に死んでいることをアイゼルは確かめると、ポーチに入っている支援信号を打ち上げた。


 これは戦闘終了時に上げる信号弾で、遊撃部隊だけではどうしようもない状況になってしまった場合に上げる信号弾である。


「足の治療は、少し遅れると思います。我慢してください」


 アイゼルがベリウスにそう言うと、彼はこくりと頷いた。


「……すまない。騎士団われわれが不甲斐ないばかりに」

「いえ。『アルゲニブ』50体は騎士団だけでなく王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードにだって重たい案件でしょう。ひがむ必要はありませんよ」


 『ポルックス』を倒したことによって、夜空が端のほうから崩れ去った。天高く浮かぶ太陽が二人と、壊れてしまった街を優しく照らした。


「しかし、君は倒したじゃないか」

「僕は……少し、変わってますから」


 どう答えるべきか悩んだアイゼルの答えは、きっとベリウスの望むそれではなかった。しかし、ベリウスはそれ以上アイゼルに尋ねるのは辞めたほうが良いと思った。


 見た感じは王立魔術師学校アカデミーの学生である。人に言えぬことの一つや二つを持っていて当然だろう。


「君は血だらけだが、平気なのか?」


 その結果、ベリウスの口をついて出てきたのはアイゼルへの心配であった。


「はい。少しに見えるかもしれませんが、戦闘継続に支障はないですよ」


 アイゼルとしてはまた『星界からの侵略者』たちが来ても大丈夫であると、安心するために言ったのだが、


「そ、そうか……」


 ベリウスにはドン引きされてしまった。


「それにしても、どうしてそんなに血だらけに?」

「話すと長くなるんですけど……」

「支援隊が到着するまでまだあるだろう」

「実はここに来るときにですね?」


 アイゼルは瓦礫に腰を下ろすと、暇つぶしがてら語り始めた。


 零等星と出会った後に、何があったのかを……。



「おおっと、ここは俺たちに任せてもらおうか」


 血だらけになったアイゼルと、余裕を見せる『スピカ』の間に入ったのは四人の男女だった。白いマントに、星の徽章は辺境任務に就いている者の印。しかし、彼らの服装は辺境騎士の物とは到底思えない。


 そこにいたのは四人の三角頭巾。

 すっぽりと全身を包んだ恰好は、異常者以外に好んで着る者はいないだろう。何しろ、事実彼らは異常者なのだから。


「いやぁ、アイゼル。何か楽しそうなことをしてると思ったら」

「喋る『侵略者』か」

「凄い強そうね」

「階級は?」


 好き勝手に言いあう彼らに辟易しつつ、それでもどこか安堵を覚えながらアイゼルは答えた。


「零だ」

「最上級か」


 そう言って、頭巾の下で身体を震わせる彼ら。


 それは、恐怖の震えではない。

 それは、武者の震えではない。


 ただ、嬉しさのあまり震えているのである。


『ど、どうしてこいつ等がここに!?』


 若干のトラウマを持っているグラゼビュートが白頭巾たちを見ながらアイゼルに尋ねた。


(多分、辺境任務だと思うよ。いかにⅣ組と言っても辺境任務が免除されるわけじゃないし)

『な、なんというタイミングで……』


 アイゼルが何故ここにいるのか。どうして零等星がそこいるのかなどとは微塵も考えないⅣ組(奇人)の彼らは今にも飛びかからんとするのを必死にこらえて、目の前の『侵略者』に尋ねた。


「あんた、名前は」

「名前? 『スピカ』だ」


 三対の翼を退屈げに広げると、ひどく飽き飽きした顔で目の前の四人を見た。


「名前を聞いてどうするんだ? そんな下らないことをする隙があるのなら、襲い掛かってくれば良かったのだ。これでもかなり愉しみにしていたんだぞ? 君たちがどうやって襲い掛かってくるのを」

「あっ、あんまりそう言うことを言うと……」


 目の前にいる白三角頭巾たちが何もしないものだから、『スピカ』も少しだけ苛々を隠さずに吐き捨てるようにして言った。無論、アイゼルはそんなことを言うとろくなことにならないということを重々承知しているし、何ならこれから起こるであろうことを見越して、『スピカ』に若干の憐憫を覚えていたのだ。


「なぁ、もう一個聞かせてくれよ。アンタら、どうやって生まれて来てんだ?」

「……退屈しのぎだ。良いよ。教えてあげる。造物主が作るのさ」

「造物主。造物主ねぇ……」


 少しだけ身体の大きい白頭巾が繰り返す。

 その間に『スピカ』の周囲を囲むようにして、四人が広がっていった。


「遅い包囲だ。今ので君たちは三回は死んでいるよ」

「何で、造物主ってのはなんぞを作っちまうんだろうなァ!!」


 『スピカ』の耳に届いたのは耳元から囁く様な、そして蕩けるような声。しかし、視界には四人とも『スピカ』から五メルは離れた場所でジリジリと距離を見計らっている。


「……!?」


 訳も分からず手品の種を探すが、その目に捉えることが出来ない。出来るはずもない。何故なら彼らは王立魔術師学校アカデミーが誇る、


「この瞬間を楽しみにしてたんだぜぇ!?」

「宇宙人の精神って人間とおんなじなのかな!? かな!!?」

「ハァ、ハァ、一か月ぶりの覗き見だァ……。そそるなぁ……」

「おいおいおい、精神障壁すらないのかよぉ!!!!」

「マ?」「余裕やん」「嘘定期」


 変態なのだから。


「「「マジやんけ!!!!」」」


 そうなると、後は早かった。


「お、おい。何なんだお前たちは! 何なんだ!!!」


 『スピカ』には、何をされたのか終ぞ理解することは出来なかっただろう。ただ、彼が味わったのは、剥き出しになった精神をさらされる根源的な恐怖と、自らの知らない人間たちに出会ったという生物的な恐怖。


『あぁ……。なるほど』


 あまりの気持ちよさにⅣ組メンバーの下半身がうっすらと濡れてきたところにグラゼビュートが口を開いた。


『『星界からの侵略者』たちに、精神は無かったから精神攻撃に対する抵抗が全くないのか……』


「「「「ンギモッチィィィィイイイイイイイイイッ!!」」」」



 草原に響き渡る嬌声にアイゼルは、『スピカ』に対する哀れみしか浮かばなかった。


「何でこんなのに本気だしてたんだろ」

「前の暗殺者の方が五倍は楽しめたわ」

「面白くないわね。もっと本気だせないの?」

「あほくさ」


 勝手に覗いておいてこの有様である。


 一方の『スピカ』は、頭を草原にこすりながら「生まれてきてごめんなさい……。生まれてきてごめんなさい……」と謝罪を続けていた。





「とまあ、こんな事がありまして」

「……王立魔術師学校アカデミーって恐ろしいところだな」


 それに関しては否定が出来ないのが辛いところである。

いつも誤字報告ありがとうございます。

頭が上がりません。

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