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第4-9話 圧倒、そして騎士

「遅れてしまい申し訳ありません」


 グラゼビュートの身体強化魔法を使い、今まさに死にかけている騎士団の中に飛び込んだ時は、アイゼルも一か八かの賭けに出たわけだが、結果として助かっているので万々歳だろう。


「状況説明を」


 アイゼルの言葉に、瓦礫に埋まっているベリウスはすぐに回答した。


「騎士団は壊滅。街もこのありさまだ。あと、その巨人が50ほど出現。王都に向かっている」

「ああ、それは大丈夫です。全部倒しました」


 何ということも無く、ただ答えるアイゼルにベリウスは驚愕のあまり目を丸くした。


「倒……した?」

「はい。ですので、安心してください」


 アイゼルは『アルゲニブ』の鉈を真上に弾いた。


 己の身体よりもはるかに矮小な存在が、自らの怪力を弾いたということに『アルゲニブ』はわずかの驚愕を見せ、そして文字通り潰してやろうと鉈を両腕で抱えた瞬間、その両腕が消失した。


 真っ先に攻撃手段を潰したアイゼルは斬りぬけたまま、自らの腕を探し続ける『アルゲニブ』の首を刎ね飛ばした。


「……ッ!!」


 ベリウスはその圧倒的な強さに息をのむ。そして、それと同時にふつふつと怒りとやりきれなさに襲われた。


 もっと早く来てくれれば、この街が壊滅することは無かった。

 もっと早く来てくれれば、騎士団が崩壊することは無かったのだ。


 もちろん、ベリウスとて血だらけで現れた少年がどこかで遊んでいたとは思わない。それに50を超えた『アルゲニブ』を倒してきたと言っているのだから、それだけに時間がかかったと考えるのが当然だ。


 だけれども、そう望んでしまうのだ。


「……大丈夫ですか?」


 ぐっと歯噛みして、こらえているベリウスにアイゼルが声をかけてきた。


「……ああ。大丈夫だ」


 ベリウスは己が埋もれた瓦礫を一つ一つ丁寧にどける。その中から血だらけになった足が出てきた。現時点で、歩くことは出来ないが救援班が来るだろう。そうなれば、すぐにでも治療してもらおう。


「……空が」


 ポツリとアイゼルが呟いた。全ての『星界からの侵略者』たちを倒したはずなのに、夜が明けないのだ。


『アイゼル。構えろ』


 グラゼビュートはその中で、誰よりも先に気配を察知。短くアイゼルに通達。

 アイゼルが空を見上げると、そこには夜空と共に空間を捻じ曲げゲートを潜り抜けて出てくる『星界からの侵略者』がそこに居た。


 いたのだが、アイゼルの【知覚魔法】がそのゲートの奥にいる謎の生命体を見つけたのだ。


(何かいるぞ)

『……ああ、微かにだが俺にも見えた』


 そして、それはアイゼルの目の前に一等星が落ちてくると同時に閉まった門によって見えなくなってしまった。


(……転移魔法ってのは、両方向から行き来が可能だよな)

『あぁ……。一応な』

(なら、今度はこっちから攻めれば良いんじゃないの?)

『あの高さまで一気に上がることが出来るならそれも良いとは思うが……』


 知覚魔法が先ほどの転移魔法が発動された位置を計算。350メルと表示される。


(……考え物だな。これは帰ってからみんなに相談しよう)

「危ないッ!」


 そうやって考え事をしているアイゼルを襲ったのは一等星の攻撃。それは一見すると、巨大な騎士であった。二メルはある巨大な両手剣を片手で悠々と持ち、左手に構えているのは大きな盾。それには対魔術刻印が所狭しと書き込まれている。


 全身を甲冑で包んだ一等星はアイゼルに向かってその剣を斬り上げた。


 無論、その程度の攻撃は【知覚魔法】の攻撃予測線に表示済みである。魔劍をぶつけ合わせて威力を相殺すると、アイゼルは一等星の懐に飛び込んだ。幸運なことにこの一等星は、アイゼルが()()()()()()形をしているためか頭痛が起きない。


 それを好機チャンスと見た彼は懐に飛び込むと同時に顎を掌底で打ち上げる。グン、と勢いよく晒した喉元にアイゼルは逡巡なく魔劍をねじ込んだ。


「ハァッ!」


 そして、そのまま体内の奥にまで劍を深々と差し込むと騎士の身体を貫通した。そして、まだかすかに動く腕でアイゼルを襲おうとする騎士の頸を跳ねた。翡翠の血をまき散らして燃え盛る地面に騎士の頭が転がる。


「こんなもんか」

『弱かったな。等級的には二等星あたりだろうか?』


 グラゼビュートもそう言って死体を眺める。


「おっ、おい」


 アイゼルはポーチから取り出した包帯でベリウスの足を止血をしに向かったところ、それを静止する声。


「……後ろ」


 まっすぐベリウスが指すのは、先ほど首を刎ねたはずの『星界からの侵略者』。


「……ッ! 動くのか!!」


 刎ねたはずの頭部から生えているのは無数の指。それらは器用にもぞもぞと動き回りながら転がると、甲冑を弾いて外に身体が出てきた。


「……うっ」


 そこから出てきたのは三つの眼球と、その周りにはこびる吐き気を催すほどの人間の指。

 一方の胴体はというと、首の代わりにと脊椎部分から翡翠の腕が生えていた。それが一メルもあるものだから、アイゼルは頭痛と同時に生理的な嫌悪感を覚えざるを得ない。


(……頭痛だ)

『……一等星か』


 元あった首を補うようにして生えてきた長い腕が落ちた両手剣を掴み上げる。頭部を突き破って出てきた指と目の集合体はもぞりと動いて元の身体の右肩あたりで腰を落ち着けた。


 一等星『ポルックス』。この『星界からの侵略者』の名である。


(一気に片を付ける)


 アイゼルは頭痛が激しくならぬようにと踏み込んだ瞬間に、自身の周りに表示アシストされた攻撃予測範囲に目を丸くした。直径一メルほどの大きさの円がいくつも足元に表示されたのだ。


「……くっ」


 何をしてくるのか分からなくても、攻撃は攻撃だ。アイゼルは地面を蹴って宙に浮いた瞬間に、『ポルックス』の三つの眼球が輝いた。刹那、そこから飛び出すのは無数の氷柱つらら。それは地面から天へと伸びる様に尖ると、瓦礫を砕いて炎をまき散らす。


『属性魔法かっ!』


 驚いたようにグラゼビュートが叫んだ。


(何だそれ)

『契約魔法よりも、もっと原初的な魔法だ』


 アイゼルは氷柱を交わしながら『ポルックス』へと近づいていく。


『炎、水、氷、雷、風、などの古い概念の魔法なのだ。今はとうに廃れ、扱える魔法使いはいない』

(強いのか?)


 アイゼルの言葉にグラゼビュートは笑った。


『強かったら、廃れぬ』

(……確かに)


 アイゼルは攻撃予測範囲を綺麗に交わして、着地を刈り取りに来た両手剣を踏んだ。『ポルックス』はその剣を引き戻そうとしたが、それに食いつくようにして飛び込んできたアイゼルを倒す手段を持ち合わせておらず。


 アイゼルの一撃によって、ちゃんとした死を迎えたのだった。

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