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第4-3話 見える者、そして見えぬ者

「王城に来いって?」


 アイゼルが第壱遊撃部隊ノヴァとしての活動に慣れ始めていたころ、彼らの拠点に王城からの使者がやってきて、そう言った。


「はい。女王様がお呼びです」

第壱遊撃部隊ノヴァ全員を?」

「ええ、そうです」

「何で」

「それはサフィラ様に聞かれるのがよろしいかと……」


 その言葉に、第壱遊撃部隊ノヴァの全員は顔を見合わせた。


 はっきり言って、第壱遊撃部隊ノヴァは忙しい。何しろ、王国の南側全域の支援を背負っているためである。流石に王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードから支援の要請が来ることは無いが、騎士団や歴の浅い学生からは一日に数度は支援要請が来るのだ。


 しかもそれが昼夜問わずである。


 はっきり言ってアイゼルたちの身体は睡眠不足でボロボロなのだが、だからと言って代役を立てられるほど王国内に人間がいるわけではなく、それに王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードなんかは遊撃部隊以上に動いているので、アイゼルとしても文句を上げる気にはなれないのだ。


「どうする?」

「どうするって言ってもだな……」

「私たちに……拒否権は……ない」

「だよなぁ」

「サフィラならちゃんと考えて誘ってきてるんじゃないかな?」


 メリーの言葉に、使者は深くうなずいた。


「はい。王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザード二番隊『桜花シェラス』の中から、五名を一次的に遊撃部隊に回すように指示が出ております」

「なら、僕らが断る理由はなくなるよ」

「そうだね」

「では、馬車を用意しておりますのでこちらに」


 とても丁寧な対応と共に、アイゼル達は馬車に乗り込むと市壁の外から中へと入る。日数的にはそう遠くはないというのに四人はとても懐かしい気分に浸りながら、王都の中へと入った。


 いつも活気にあふれていた王都の露店も、『侵略者』たちによって行商人の足が遠のいてからはとてもさびれたようにアイゼル達には映った。しかし、商魂たくましい者たちはこんな時勢だからと、いつもより張り切って店を出していた。


 そう言えば、まだ闇市場ブラックマーケットは元気にやっているのだろうか?


 アイゼルが紅竜を落としてからというのも、めっきり客足が遠のいたという話だったが、だからと言って需要が無くなるわけではない。きっと場所を変えて今でも続いているのだろう。


 ふと視線を変えると、傷だらけになった騎士団員たちが男たちに担がれて診療所に運ばれる行軍が行われていた。


「あれは……」

「もう薬も包帯もないらしいから治癒術式で治療しているらしいが……診療所内は常に魔力欠乏に襲われているらしい」

「……厳しいな」


 アイゼルはソフィアの言葉に眉をひそめた。


 治療とは人間本来が任せる治癒力に任せるのが一番であるが、しかし危険な業務についている以上、どうしてもそれだけでは治せないものが出るのが常である。そういった時には、『怠惰の悪魔(ピグフェゴール)』の契約者たちによる、治癒魔術が掛けられる。


 例えばアイゼルとイグザレアの戦いの後、アイゼルは両腕を失った状態だったがそれは治療によって完治した。正確に言えば新しい腕を生やしたのであるが、あの時は三日三晩の間も治癒師がアイゼルに張り付いて治療したのである。


 逆に言えば、四肢欠損くらいの怪我でないと治癒術式はかけないのである。何故ならそれは、怪我人の寿命を削る行為だからだ。


 本来の治癒能力を超えて人の命を救うということにはそれなりの代償が伴う。だから、普通は薬などを使った治癒に任せるのだ。しかし、それが足りないということは人の命をつなぐために治癒術式をかけねばならない。


 そうなると、魔力も喰うし怪我人の寿命を減らしてしまう。だが、死ぬよりは良い。


「今はどこの治癒師も過労死寸前らしいよ」


 メリーの言葉に馬車内が沈黙に包まれた。


 戦っているのは前線組だけでは無い。そのことを思い知らされた気分だ。


 やがて馬車は人気のない王都の中を走り抜け、王城へとたどり着く……予定だった。


「止めろッ!!!」


 アイゼルの叫び声に、御者が慌てて馬を急制動。すぐにはその勢いを殺せず、しかしそう長く時間をかけずに馬車は動きを止めた。


 アイゼルは飛び出すようにして馬車を降りると、その後ろに三人が続いた。


「急にどうしたの!?」


 メリーの言葉にアイゼルは何も返さず、ただ王城を見て沈黙した。残りの三人もアイゼルの視線の先にある建物を見る。しかし、何か変わったものがあるわけではない。いつものように、王城があるだけだ。


「一体、どうしたのだ。あーくん」

「そう、ですよ。教えてください……」

「……分からない、のか?」


 アイゼルは顔を真っ青にして、彼女たちに聞くが第壱遊撃部隊ノヴァの誰もそれを理解出来ずに頭を傾げるだけ。


(……見えるか。グラゼビュート)

『……いや。俺にもお前が何を言っているのか、理解できない』

(そうか。お前もか……)


 アイゼルの絶望じみた言葉に、グラゼビュートは沈黙。


「なあ、ソフィア。今、幻覚解除の魔術はかけれるか?」

「幻覚解除? ああ、それは構わないが」


 そう言うなり、ソフィアはアイゼルに幻覚解除の魔術をかける。しかし、アイゼルの顔に張り付いた蒼白さは消えず。


「なあ、もう一度だけ聞くぞ。誰にも、見えてないんだよな?」

「あ、ああ」

「はい」

「見えてないよ?」

「アイゼル。一体、何が見えているのだ……!」


 その言葉を聞きながら、アイゼルは王城に張り付いている巨大な骸骨を一人見ていた。


「骸骨だ」


 その言葉を、皆黙って聞いていた。


「巨大な骸骨が城に張り付いているんだッ!」

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