第4-1話 遊撃、そして救出
新章スタートです!!!
状況を整理しよう。アイゼルが寝ていたこの七日間の間で、王国はひどく変貌した。
まず一つ。『星界からの侵略者』たちの侵攻が本格化。一日に何度もこの世界へと降り立ってくる。それに対応するために、王家直属魔術師部隊と騎士団たちは王国全部をカバーするために奔走している。無論、それだけでは人が足りないために、王立魔術師学校の生徒も駆り出されている。
そして二つ。『星界からの侵略者』たちは強い。とても強い。それこそ、王立魔術師学校の十番以内が三人で組んでようやく倒せるか倒せないかと言ったところである。すなわち、現時点でアイゼルは十番以内のほとんどより強いということになり、なんなら首席も狙えるということが分かったのだが現状、序列はほとんど意味をなしていないのでこの戦争が終わったらアイゼルは王立魔術師学校に申請しようと思っている次第である。
最後に三つ目。王国の保有する『正一位』、七つの大罪を冠する五つの悪魔が実体化。最重要拠点となる王都の護衛に当たっているらしい。その姿も、声も普通の王国民には届けられることは無いが、王都内に降り立った『星界からの侵略者』は彼らがすぐさま排除するのだという。
つまり、アイゼルが診療所で行った戦闘行為は無駄だったということになるのだが、彼はそのことを考えないようにしていた。というか、考える間もなく部隊に入れられたのである。
「次に向かうのが僕の入る部隊ですか」
「そうそう。結構重要な部隊だから、しっかり気合入れてね」
そう言ってローゼに案内されたのは、第壱遊撃部隊と呼ばれる部隊であった。
「遊撃部隊……。騎士団とかの援護をするんですか?」
「ご名答。騎士団にいるのは民間人から召し上げられた体力自慢たちだけど、そのほとんどは碌な魔術を使えないのは知っているでしょう?」
「はい。それは」
魔術が使える人間は王立魔術師学校に入って、その後は王家直属魔術師部隊を目指すのが普通であるが、入れなかった場合のみ騎士団に編入する。
しかし、その後は騎士団ではなく別の魔術師専用部隊に入るのが定例なのだ。それは騎士団内からの反発もあるし、やはり王立魔術師学校卒業生側からの反発もあるためである。
「だからこその遊撃部隊なの。『侵略者』たちの中には物理攻撃が一切通用しない相手もいるからね」
「へえ。そんな相手が」
「そう。だから貴方みたいに両方使える人は良いけど騎士団にはちょっと厳しいの」
「なるほど。そういうことですか」
「というわけで、貴方の新しい仲間たちよ」
そう言って第壱遊撃部隊専用の部屋へと案内されたアイゼルを待ち受けていたのは果たして飛び込みのハグであった。
「おはよう! あーくん。もう二度と目が覚めないのかと思って心配で心配で」
「苦しい、ソフィア! 喉、喉! 頸動脈を絞めてるゥ!!!」
「むっ! これはすまん。つい癖で」
うっかり相手を殺しちゃう系女子のソフィア・メイソンがいた。有象無象を倒しすぎてつい顔見知りにもチョークスリーパーをかけてくるあたり中々である。
「あ、アイゼル君。良かった……。元気になったんだね」
「身体の方はもう良いのだ?」
「エーファにリーナもいるのかよ……」
見慣れた顔がそこにいて、少しだけ安堵。
「え、じゃあ後一人は……?」
部屋の奥からしている気配を察してアイゼルがそこに目をやると、ロッカーの中に身体を隠そうとして失敗している少女が一人。
「メイちゃん……。いや、メリーか」
「無理無理無理! 今更どんな顔して会えばいいの!!」
そう言って顔を隠そうとする彼女にアイゼルは微笑む。
元気そうで何よりだ。っていうか……。
「何で新しい仲間って言ったんですか、先生」
「少し驚かせようと思って」
「もー」
「じゃ、私はこれから仕事があるから」
「「「お疲れ様です」」」
颯爽と帰っていくローゼに四人は挨拶を返して、ひとまずアイゼルは全員に向き直った。
「見知った顔があるのは安心できるけど、第壱遊撃部隊ってどんなことやってんの?」
「まあ、アイゼルが説明を受けたことが大体なのだ。もう少ししたら仕事が舞い込むと思うから、少し待っておけば良いのだ」
「そう? ならそうするよ」
アイゼル達がいるのは王都の南側。王都をぐるりと囲むようにしてはやされた市壁の外に、簡易的な拠点が作られていた。
「ほら、来た」
部屋の中にある灯りが紫色に点滅。連絡用の魔導具だ。
「この色だと私一人で十分か。あーくん、仕事を教えてあげるから一緒に行こう」
「むー。ソフィアさん……ずるい!」
「何を言う。仕事だ」
あっさり返すソフィアだが、明らかにその顔は勝ち誇った顔をしている。
「それならよろしく頼むよ」
「ああ。すぐに出よう。我らの仕事を待ってくれている人がいるからな」
「そうだね。その通りだ」
アイゼルはソフィアに連れられるままに、拠点から馬に乗ると、ソフィアから片眼鏡を受け取った。
「何これ」
「あーくんには必要ないかも知れないな。これには地図が表示されて、どこから救難信号が上がったかを知ることが出来るのだ」
「へぇ、便利だな。【知覚せよ】」
アイゼルもやれば出来るのではないかと思い、試しに知覚魔法を展開。すると、辺り一面の地形図が表示され、救難信号が上がったと思わしき所に赤いマークが表示。それだけではなく、最短ルートを教えてくれる半透明の矢印が視界に表示された。
「ああ、出来たわ」
「便利だな……。あーくんの魔法……」
とりあえず、向かわなければ話にならない。アイゼルとソフィアはすぐに馬を走らせて救難へと向かった。
アイゼルの知覚魔法のおかげで二十分くらいでついた救難現場には騎士団たちが無数の蟻たちと戦っていた。
蟻と言ってもその体長は一メートルは超えているだろう。胸から生えている長い六本の脚は全て人間の指で作られており、嘴には人間の手が手招きするかのように笑っていた。
「相変わらず、気持ち悪ィ見た目してるな……」
「あーくん。ここは私がやる」
「そうだね。ソフィアの魔術が最適だ」
『嫉妬の悪魔』に見初められた彼女は、魔術の申し子。
「さぁ、『大回廊』。殲滅までのカウントダウンだ」
『了解、演算終了。残り125秒です。マイマスタ―』
重く響き渡る合成音声を聞いた騎士団たちの士気が一気に跳ね上がった。
「序列一位が来てくれたぞ!」
「後120秒、絶対に持ちこたえろ!!」
「死ぬんじゃねえぞ。野郎ども!!」
蟻たちの攻撃で、身体が欠損している騎士たちは至るところにいた。魔術が使えないから、ただただ劣勢になる中で闘っているのがこの騎士たちだ。
「人ってのは、凄いね」
『何だ。いきなり』
(誰かのために、こうして戦えるんだから)
大回廊が空中に表示している数字は一つ一つ、とても冷酷なまでに減っていく。そして、ソフィアが使った『魔物寄せの魔術』によって、『星界からの侵略者』たちはソフィアめがけて走っていく。
だが、それはソフィアの偽物。そうとは知らない蟻たちはまっすぐソフィアの幻影に噛みつくと、その身体を貪っていく。
『残り十秒』
カウントダウンは減っていき、
『5、4、3』
そして、ゼロになる。
その瞬間、ソフィアを中心として半径三百メートル以内にいた蟻たちが全て圧壊。翡翠色の血液をまき散らしながら、死んでいく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
一瞬で全ての『侵略者』を屠ったソフィアに勝利の歓声が上がる。
「すげえよ! 流石は王立魔術師学校の首席!!」
「助かったよ。アンタ達が来てくれたおかげで、今回は死者が出ずに終わりそうだ」
「それは何よりだ」
ソフィアが騎士団を纏める隊長たちと、話しているその瞬間。
再び空が、夜に包まれた。