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第3-26話 目覚め、そして夜明け

 終わりというのは突然で、始まりというのもまた突然だ。







『もう頃合いだろう。そろそろ、目を醒ませ』


 腹の底にまで響き渡る重たい声。いつもアイゼルを支えてくれた悪魔の声にアイゼルの思考はゆっくりと浮上を始めた。


(僕は……どうなった……)

『悪魔化した際の肉体組織が現実世界に定着するためにお前の意識を奪っていたのだろう。悪魔化したなら普通のことだ』

(そう……か)

『ああ。二回目からは無いから安心しろ』

(それで、ここは……?)


 グラゼビュートの声を聴きながら目を醒ましたアイゼルがいたのはベッドの上。開けられた窓からは穏やかな風が吹き、昼下がりの太陽の光が暖かく差し込んでいた。ベッドの周りにある道具や、花瓶などから自分が診療所にいるということが分かった。


(僕は、どれだけ寝ていたんだ?)

『七日だ』

(そんなに……)


 アイゼルは上体を起こすと、ゆっくりと足を下ろすと七日もの間使わなかった足の筋肉が悲鳴を上げだした。人の身体は使わなければすぐに劣化する。それを噛みしめながら立ち上がった。


(何か、変わったことはあったか?)

『ふうむ。変わったことか』


 穏やかな午後の昼下がり、アイゼルは窓の外を見ると修復作業中の王城といつもと変わらない王都の姿が眼下に広がっていた。どうやら、アイゼルがいる診療所は王家直属に運営している診療所であるらしかった。


 ここはひどく高いが、ちゃんとした治療をしてくれることで有名なところだ。サフィラが入れてくれたのだろう。後で感謝の言葉を告げに行こう。


『そうだな。変わったことか。まず、一体どこから話すべきか……』


 アイゼルは鈍った身体を動かしやすい様にストレッチをして身体を慣らす。よし。これで大丈夫だ。

 

 明日からは王立魔術師学校アカデミーに復帰しなければならないし、また辺境任務に飛ばされても大丈夫なように身体を用意しておかないと。


 そんなことを考えていると、グラゼビュートの言葉にアイゼルは耳を疑った。


『とりあえず王立魔術師学校アカデミーは、三日前より一切の授業を取りやめた』

「はっ!?」


 驚き過ぎて実際に声を出してしまった。


(何で? だって王立魔術師学校アカデミーでしょ?)

『……外に出れば分かる』

 

 アイゼルは首を傾げながら、部屋の外へと出た。扉を開けた瞬間、臭ってきたのはひどく濃い血の匂い。それと、響き渡るうめき声。


(……何が)


 起きている現状が理解出来ずに、診療所内を歩くとベッドだけではなく廊下にまで布が敷かれ包帯でぐるぐる巻きにされた重病人患者が横たわっていた。


「ああ、お目覚めになったんですね」


 アイゼルが唖然としながら歩いていると、ひどく疲れた顔をした看護師から声をかけられた。


「はい。しかし、これは一体どういう状況ですか……?」

「……攻めてきているんですよ」

「何がですか?」


 アイゼルの問いかけに看護師が答えようとして、ふと診療所の奥から高い声が飛んできた。


「重病5名軽傷16名引き受け!」


 その言葉に、目の色を変えた看護師はアイゼルを置いて声の聞こえてきた方向に走って立ち去った。


『ついに、来たのだ』


 返答を貰えなかったアイゼルがしょげていると、グラゼビュートが教えてくれた。


『星界からの侵略者たちが』


 その言葉に引き寄せられたかのように、日の光が陰った。それに気が付いた患者たちがしだいに悲鳴を上げ始める。


「やめてくれっ!」

「助けてくれ!!」

「嫌だ……嫌だ……」


 ガタガタと診療所が震えはじめたかのように、恐怖によって診療所が満たされていく。ひたりひたりと満ちるような恐怖ではなく、爆発的に空間を埋める恐怖。


 何に恐れているのか。何が恐れる理由になるのか分からないアイゼルはただ、首を傾げるだけだが、窓から差し込む光が無くなり真っ暗になると、流石に異変に気が付き窓の外から天を仰いだ。


 そこに広がるのは夜空。


 先ほどまでの昼下がりの穏やかな太陽は隠され空一杯に広がる無数の星々がアイゼルを歓迎していた。


『侵略者たちの出現サインだ』

「これが……」

『構えろ。落ちてくるぞ』


 その時、夜空から一つの塊が空間を歪めながら落ちてくると途中でそれがはじけると共に、中から現れたのは一体の狼。だが、その体毛は全て人間の指で作られており、本来の顔がある場所には所せましと無数の眼球が張りつけられ、対峙したアイゼルを見つめた。


「何だ。こいつ……」

『連中の常套手段だ。人間の生理的嫌悪感に付け込み、なるべく攻撃されないようにする』

「強いか?」

『見たところ、二等星『デネボラ』。昔のおまえならいざ知らず……』


 アイゼルは知覚魔法を発動。両目に広がる世界の情報が、次に狼がどう動くかの予想を全て知らせてくれる。それの一つ、デネボラの進路上に置いた魔劍の刃に飛び込んできたデネボラは、断ち切られる寸前に急停止。


 刹那、アイゼルは踊るようにして地面を蹴ると空中で回転を加えながら地面に向かって落下する。勢いと重力に乗ったその攻撃は、死角のないデネボラにとっても避けようのない攻撃。


『今のお前には敵にもならん』


 その言葉と共に、蠢く無数の指々を断ち切って、アイゼルは翡翠の血をあたりにまき散らした。


『まさか再び始まるとはな』


 アイゼルがデネボラを倒したことによって空が再び元の明るさに戻っていく。


『700年前の失敗。次こそは、成し遂げてやるッ!』

Go for the Next Stage!!!

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