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第3-23話 大罪、そして激突

悲嘆の悪魔(ヒュリオン)だと?」


 虚栄の悪魔(ヴァニトリア)がそう呟く。


「悲嘆?」「聞いたこと無いねー」

「そんな悪魔っていたかな?」


 強欲の悪魔(マヴァリオズ)たちも突然のことに戸惑いを隠せない。だが、その中で唯一、貪食の悪魔(グラゼビュート)だけがその現状を理解していた。


「そうか。アイゼル、お前は()()()か」

「ああ。これで、もう誰かを失わなくて済む」

「そうだな。お前のその権能ならばそれが出来るだろう」


 深い蒼を超え、黒にも匹敵するような空の元、二人は目を合わせて笑いあった。


「そうか、アイゼル。お前が、お前こそが」


 かつての賢者(ヴァニトリア)はひどく喜びを露わにしながらそう言って自らの身体を震わせた。


「お前こそが最後の大罪(ラストワン)かッ!」

「まさか、その名を再び冠するなんて思ってもいなかったよ」


 悲嘆の悪魔(ヒュリオン)の言葉はその肯定を意味していた。その瞬間、宇宙の果てより太陽がその姿を見せた。それは、長かった夜の終わりをつげ新しい朝が始まったことを知らす詩。


「もう終わりにしよう。これ以上戦っても意味のない事だ」

「ああ。アイゼルの言う通りだ」

「だから今の僕は悲嘆の悪魔(ヒュリオン)だって」

「おっと、そうだったな。悪い」


 そう言って笑う貪食の悪魔(グラゼビュート)は手元に一つ黒剣を生み出すと、アイゼルに投げて渡した。


「これは?」

「魔劍だ。そのほうがお前も扱いなれてるだろう?」

「なるほど。ありがとう」

「これくらいは出来るようになって置いて損はないぞ」

「どうだろう。もしかしたら要らないかも知れない」

「言うではないか」


 貪食の悪魔(グラゼビュート)が犬歯をむき出しにして笑った。悲嘆の悪魔(ヒュリオン)の権能は相手が強くなればなるほど、その分だけ優位に立てる能力だ。しかし、その能力はどちらかと言えば防御より。攻撃手段として持っておいて損はないだろう。


「むー」「むかつくぅ!」

「新米悪魔の癖に!」「ここは」

「先輩」「悪魔として」

「がつんと」

「「「「おしおきだー!!!」」」」


 七色の少女たちがそう言うと、彼女たちの目の前に生み出されたのは七つの属性を持った弾。それぞれ『致死フェイル』『呪骸ロゴス』『断絶カルティア』『圧壊プレル』『分離セルパト』『魅了パフュム』『破滅エンディア』。


 ()()()()と呼ばれる通常の属性の上位属性に当たるそれは、通常の魔術師であるならば使うことはおろか、それを知覚することすら難しいと言われる。


 その効果は様々であるが、此度強欲の悪魔(マヴァリオズ)が使った属性はどれもこれもが、即死の属性。掠って死ぬなど当然で、いくつかの属性は範囲内に入っただけですらその命を奪い取る。


 だからこそ、


「『悲哀虚妄ヒュリオン』」


 だからこそ、アイゼルは権能を解放した。悲嘆の悪魔(ヒュリオン)の権能である『悲哀虚妄ヒュリオン』は端的に言い表すならば事象の否定である。『正一位オリジンズ』である彼によって否定された事象はこの世界に存在することは許されない。


 故に、此度否定された七つの属性弾はその全てが最初からこの世に存在しなかったためにそのまま消滅した。


「えぇー!」「そんなのありぃ!?」「ずるだよずる!」

「良いなぁ!」「その能力!!」「欲しいなぁ」

「欲しいなぁ!!」


 彼女たちの欲望に応えるかのように『此先強奪マヴァリオズ』が発動。その権能は、己が望む未来を掴むだけではない。強欲の名を冠している以上、その名の通りの能力で発動する。


 すなわち、彼女たちの権能は他者の能力、あるいは権能を奪い取ることが出来るのだ。


 しかし、それは相手が普通の相手であった場合の話。今回ばかりは相手が悪い。強欲の悪魔(マヴァリオズ)よりも先に貪食の悪魔(グラゼビュート)が能力を使って、強欲の悪魔(マヴァリオズ)の欲望を喰い荒らすと、その権能を消し去った。


「むぅー!」「いじわる!!」

貪食の悪魔(グラゼビュート)の!」

「いじわる!!」

「やかましい」


 たった一言で彼女たちを黙らせると、貪食の悪魔(グラゼビュート)は剣を振るった。


 星すら砕く一撃は真横に流れると、一か所に固まっている強欲の悪魔(マヴァリオズ)めがけて飛んでいく。流石の『正一位オリジンズ』と言えども星と同等の耐久力があるわけではない。


 故に彼女たちは慌ててその場からばらけた。その刹那動くのはアイゼル改め悲嘆の悪魔(ヒュリオン)強欲の悪魔(マヴァリオズ)は七体合わせて他の大罪の悪魔と同等の力を持っている。すなわち、一体一体は七分の一の強さということだ。


 それなら、悪魔に成りたてのアイゼルと言えども撃破できるというもの。彼は魔劍を構え、音速を超える速さで飛び込んだ。


「なにするの!」


 それに気が付いた黄色の少女が声を上げる。だが、その動きはひどく遅い。アイゼルはそのまま胴体を分割するようにまっすぐ断ち切る。次いでそのまま方向転換。向かう先にいるのは紫の少女。


 アイゼルは上から下へとまっすぐ魔劍を振り下ろすと、少女の身体を縦に割る。そして、そのまま三連続の攻撃に移ろうとした瞬間に白銀の剣によって防がれた。


「おっと。これ以上はやらせねぇよ?」


 虚栄の悪魔(ヴァニトリア)はそう言って笑うと、己の権能を解放。再生能力が強化された黄と紫の少女がすぐに復活。アイゼルの攻撃が無に帰す。


 そして厄介なところが虚栄の悪魔(ヴァニトリア)の権能は他者の能力を強化するというところ。それは1を100にすることであって0を1にすることではない。そうであるがゆえに、『悲哀虚妄ヒュリオン』は大きな効果を発揮できない。


「これ以上、戦っても仕方ねえよ」


 虚栄の悪魔(ヴァニトリア)はそう言うと、巨大な魔法陣を宙に描いた。


「もう、終わらせよう」

「ああ、同感だ」


 貪食の悪魔(グラゼビュート)がそう返すと、彼も巨大な魔法陣を宙に描く。それは、世界を終わらせる一撃。


 互いの全力でもって、この戦いの決着をつける。


 それはある意味でこの二人に最もふさわしい終わりであるだろう。故にアイゼル(ヒュリオン)は、知覚魔法を発動させると、貪食の悪魔(グラゼビュート)の魔法陣に介入。その密度を高めていく。


 太陽はどんどんとその高度を上げ、明け方も既に終わろうとしていた。


 その中で四人。己の全力を出し切るための魔法陣は地上ですらもはっきりと見えたという。


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