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第3-18話 妨害、そして不可知

「はぁ~。相も変わらずあの人は適当だなぁ」


 ケルビムはいつもそうしているかのように、手慣れた様子でため息をついた。


「遊べと言われても、どこまでやったものか……。困るよねえ、君たちも」


 ケルビムは一切の傷を負った様子も、息を上げた様子も見せずに淡々とアイゼルに向かって口を開く。だが、そのケルビムの前にいるソフィアは肩で息をしながら全身を土だらけにして身体を震わせていた。


「今期の序列一位だっけ。うん、磨けば光るんじゃないかな。よくわかんないけど」


 ケルビムはひどく無関心にそう言って、息を吐きだした。


「遊ぶって言ったって、ほどほどに転がせってことでしょ」


 そう言ってケルビムの後ろから現れたのは、桜色の髪を後ろできつく縛ったひどく目の座った女性。王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザード、二番隊『桜花シェラス』隊長。エルザ・ジェラス。


「違いますよ。ほどほどに後悔をさせれば良いんですよ」


 さらにその後ろから出てくるのは隊長の中でも最年少の少年。三番隊『橘花マンダリア』の隊長。ケース・ラドラッタ。最も非合法な活動を行っている部隊と言われている部隊だ。何をしているのか、誰がいるのかは一切が不明。故に、底が見えない。


「皆さん。そう暴れないでくださいね。修復が大変ですから」


 そう言いながら微笑むシスターは、四番隊『月光ルナ』隊長。シース・ラブメント。王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザード内唯一の治癒師部隊であり、もっとも人体の構造を熟知した人間が集まる部隊である。


「否ァ……。賢者様は遊べつったんだぜぇ。そりゃ、俺たちが自由にして良いってことなんだよなァ!」


 そう言って黒頭巾を被り続ける男こそ、王立魔術師学校アカデミーが誇る異業の集団。Ⅳ組の卒業生にして、もっとも人の心理を見続けた男。五番隊『秋水オルネル』隊長。シゲルザ。


「せっかく俺たち五人が集まったんだ。それなりにしようよ」


 ポツリとケルビムが呟く。その圧に他の隊長格が一瞬だけだが、気圧された。


「……ん。そうね」

「まあ、ケルビムさんが言うなら」

「私としてはそうしてもらえると助かります~」

「…………」


 アイゼルとソフィアはそれだけで隊長たちの力関係を理解するに至った。


 ケルビムが一歩だけ、アイゼル達に近寄る。


「君は、『狭間の森』で揉まれたんだってね」


 ケルビムがそう言う。アイゼルは何も言えずに魔劍を構えたまま目の前の怪人を見据えた。


「その程度で揉まれるなんて、君はなんて甘い世界で生きてきたんだ。羨ましいよ」

「……ッ! 馬鹿にしやがって!!」


 アイゼルは激昂するが、それで挑んだとしても勝てないことなど百も承知。一息だけ深呼吸して、怒りを抑え込むと知覚魔法に表示アシストされている剣筋を見極める。


「あーくん、行けるか」

「ああ、やるぞ」


 ようやく呼吸が整ってきたソフィアによってかけられた声に反応する。それは、二人の特訓で身に着けた二人だけが知っているアイゼルの新技。


「『阻害魔法インピメイト』」


 息を吐きながら、アイゼルは周囲に己の魔力をばらまいた。それは、周囲に干渉する魔術、魔法の一切を妨害する魔法。例えるなら、爆弾の導線で燃えている炎を別の導線に移すような技術と言うべきだろうか。


 アイゼルの知覚魔法によって見極めた相手の魔術に最も適した波長の魔力を周囲にばらまくことによって、攻撃・防御・範囲・心理魔術の一切を無効化する。


「……ふうん?」


 それは王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードの隊長たちでも例外ではない。開幕早々に攻撃魔術を発動しようとした三番隊隊長の攻撃はアイゼルの魔力に触れて流される。


「ふっ!」

 

 そこに飛び込むのは身体強化魔術によって身体を強化したソフィア。体内魔術はアイゼルの阻害魔法の妨害を受けない。そのため、これは相手の攻撃手段を一瞬だけ奪う奇襲用。しかし、それは今回大きく効果を上げた。


「……っ」


 三番隊隊長のケースと言えどもその身体は少年そのもの。故にリーチが長いソフィアの攻撃を受けると、防戦一方になる。その隙にソフィアは連打。ケースのガードを強制的にはがすと、そのまま地面に叩きつけた。


「……ぅ」


 わずかに声を漏らしてケースが地面に伏せる。それを見たソフィアが一息をつく。その隙を見つけた二番隊隊長のエルザが飛び込んでくる。だが、それを後ろから見ていたアイゼルの方が先に攻撃を仕掛けた。


「何!?」

「魔術が使えないと困るだろう?」


 そう言ってアイゼルは魔劍の柄を使って頸動脈を抑えて、エルザの意識を落としにかかるが、エルザは身体強化を一切施していないその細腕でアイゼルの腕を剥がして鳩尾に一撃だけを入れると、離脱した。


「魔術が使えないといっても、体術はそのままなのだな」

「……ふっ」


 エルザの言葉にアイゼルは息を吐きだしながら、目だけで答えた。魔術を使えないという状況も王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードの隊長たちにすれば初見殺しにしかならないだろう。


 それは既にエルザが対応し始めているということも決定的に明らかだ。


「身体強化魔術が使えるなら、これも出来るのか」


 ケルビムがそう言って手を掲げた。ケルビムの視線はまっすぐソフィアを捉えており、


「危ないッ!!」


 知覚魔法によって表示された()()()を見てしまった彼に出来る唯一のことで。


 ソフィアの身体をはねのけた瞬間に、ケルビムの右手の景色が歪み、そして、


「……ッッツツヅ!!!」


 不可視の腕によって、アイゼルの右腕が真ん中からへし折れた。

ブクマありがとうございます!!

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