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第3-17話 実力、そして猛者たち

 展開された拘束魔術は封印魔術。空間そのものを切り取って、その場の状況をそのまま固定する魔術だ。五人の魔術師によって練られたその魔術に対してアイゼルは魔劍をまっすぐ構えて対峙。


 刹那表示されるのは、知覚魔法による表示アシスト


【発動まで:07秒】


 カウントダウンに合わせてアイゼルは再び権能解放。『因果貪食グラゼビュート』によってその場に生み出されるのは、アイゼルが回避したという結果。王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードの隊長たちが発動した魔術は何もない虚空を静止した。


「全部見えてんだよッ!!」


 アイゼルが吐きだすと、賢者に向かって突き進む。だが、突進するアイゼルの前に現れたのはケルビム。


「悪いね。そういう訳にもいかなくてさ」


 彼の手が掲げられる。魔劍で伸して進もうとしたが、劍がケルビムの身体に触れた瞬間にアイゼルの身体が宙を舞った。


「……はっ!?」


 力学を無視したあり得ない挙動に思わずアイゼルも唸る。アイゼルは視界に収まる満天の星に歯噛みすると、全身の肉体を振り絞って体の向きを切り替える。


「遅いよ」


 ケルビムの声が頭上から響いた。それは、まるでアイゼルが空中で身体の向きを切り替えることを知っていたかのようで。


「……ッ!」


 ケルビムはアイゼルに向かって掌底。その瞬間、ケルビムの右手に光るのは『魔術陣』。衝撃インパルの属性を付与された一撃によってアイゼルの身体が重力以上の力を持って地面に叩きつけられる。


「……ちくしょう!!」


 地面に落ちたアイゼルはクレーターの中ですばやく身体を起こすと、頭上の敵を見据えた。しかし、そこにケルビムはおらず。


「だから、反応が遅いんだって」


 飛んできたのは回し蹴り。アイゼルの側頭部を狙ったその一撃はアイゼルに防げるような物ではなく、


「それ以上の攻撃は少し許せないな」


 アイゼルと、ケルビムの間に割り込んできた少女によって防がれた。


「おっと、君は?」

「ソフィア・メイソン」

「序列一位か」


 そのやり取りで、互いに十分。


「あーくんは先に行け」

「……ありがとう」


 ソフィアはいつも、アイゼルを助けてくれる。そのことに感謝の念を抱きながら、がら空きになった賢者に向かって突き進む。他の隊長格たちがそれに気が付いて動き始めるが、ワンテンポ遅い。


 知覚魔法によれば、それはメリーによる幻覚のおかげ。彼女は賢者に捕まりながらもアイゼルの補佐をしてくれていたのだ。


「ここで、絶対に頭を斬るッ!!」


 魔法をどこで生み出しているのか。答えは簡単。脳である。故に魔術師たちは首を刎ねない。首を斬り落としたくらいでは残る頭脳でいかような魔術も使えるからだ。


 彼らが狙うのは敵の頭脳。そこを一撃で破壊することによって一切の抵抗なくして殺しきる。故に、アイゼルは向かったが。


「そんなに俺と遊びたいなら、遊んでやるぜ?」


 賢者の一言が、最後に聞こえた言葉だった。刹那、スローモーションになったアイゼルの視界に広がるのは七つの珠。賢者の持っている魔導具。『七冠』の全ての珠がアイゼルの身体の周りをまわっていた。


「何をッ!!」


 瞬間、アイゼルを襲ったのはあり得ない浮遊感と気圧の変化。爆発しそうになる肺を身体強化魔法が防ぐ。酸素が足りなくなり、一瞬視界がブラックアウトしかけるが、王立魔術師学校アカデミーで鍛えられた彼の肉体はその程度で意識を失わない。


 眼下に広がるのはうっすらと光を帯びてキラキラと太陽の光を反射して光る星。


「……これは!?」

【緊急事態】

【現在高度:80120m】


 アイゼルは重力に引かれて落ちていく自らの身体を器用にひねって後ろをみると、そこにあったのはまるで手を伸ばせば届いてしまいそうになるほどに近い月。


「ここは……」

『……大気圏だ』


 グラゼビュートが絞り出すように吐き出した。


「じゃあ、この下にあるのは……」

『お前の、母星だ』

「……ッ!!」


 やばい。

 やばいやばいやばい!!!


 このままだと死ぬッ!!!


「どっ、どうにか出来ないのかよ!!?」

『……すまん、俺では無理だ』


 エーファなら浮かべば終わる。ソフィアならもっと賢く斬りぬける。

 だが、アイゼルはどうだ?


 何かを見ることしか出来ない【知覚魔法】の持ち主にこの状況を覆せるか?


 答えは、ノーだ。


「権能解放……」


 『因果貪食グラゼビュート』によって強制的に着地したという結果だけを生み出そうとアイゼルが力む。だが、


『辞めておけ』


 それが発動するまえにグラゼビュートが静止した。数値が【25.8%】あたりで変動を辞める。


「どうしてッ!!!」


 少ない酸素を必死にかき集めながらアイゼルが問う。


『因果貪食は千分の一、万分の一で()()()()()()()()()()()()をこの世に顕現する御業。あり得ない未来は絶対に召喚出来ないのだ』

「……それって」

『この高度から無力なお前が助かる確率はゼロだ。無駄に侵食率を上げるな』

「ふざけんなよ!! 何もせずに死ねってか!」

『すまない。俺がもう少し強ければ』

「僕は絶対にあきらめないぞ……」


 アイゼルは両手をひろげて全身に空気抵抗を受けるような形を取ると出来るだけ減速。既にアイゼルの身体は終端速度に達している。これ以上加速することは無いだろう。


 アイゼルは制服を使ってパラシュートのような形をとって着地しようとしたが、空気抵抗にアイゼルの両手が持たず、制服だけが宙に取り残されてアイゼルから離れていく。


「クソっ!!」


 死ぬのか。こんな簡単な方法で。


 賢者が行ったのはアイゼルを上空に放り投げただけ。たったそれだけで、他の一切の抵抗を許さずにアイゼルは死ぬ。そんな馬鹿な事が、


「こんな馬鹿なことがあるかよッ!!」


 アイゼルの叫びは風を切る音で何者にも届かず消えて行く。



 そして、地面が見えてきた。


 思わず、アイゼルの両目に澎湃と涙が溢れてきた。


 ……勝てない。絶対に、勝てない。


 泣きながら落ちる地面の先にいたのは、満面の笑みを浮かべる賢者。再びアイゼルの身体を七つの珠が覆うと、再び視界が暗転。


「さて、どうだった?」

「……ッ!!」


 目を開けると、そこには先ほどまでと全く同じ場所に立たされたアイゼル。賢者以外は何が起きたのか分からず、ただアイゼルを見つめている。


「馬鹿に、しやがってッ!」

「怒るのは勝手だが、お前が弱いのが悪いんだぜ」


 賢者はそう言うと、メリーを掴んで浮かび上がった。


「あとはお前らが遊んでやれ」


 残る五人の隊長にそう言うと、賢者は王城を視界に入れて消えた。

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