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第3-16話 殺意、そして賢者

 抜刀して、振りぬいた。ただまっすぐに、ひたすらに速く。


 しかし、その剣は何にも触れずにすり抜けた。


「……ッ!?」


 アイゼルの顔が驚愕に染まる。目の前にあったのは誰もいない光景。後ろを振り向くと、そこに賢者とメリーがいた。


「……何を」


 何が起きたのかを理解出来なかった。


 ……気が付けば、賢者を通り抜けていた。


 そう言うしか他にない状況がアイゼルを襲う。


「俺を倒そうとするなら、もう少し強くなれよォ」


 賢者はそういって嗤う。その周りを『七冠』がぐるぐると回る。アイゼルを馬鹿にするように、アイゼルの無力を哂うように。


「……殺してやる」


 ぞくり、とアイゼルの全身の毛が逆立った。アイゼルの殺害欲求は萌芽を見せ、そしてそれをグラゼビュートが刈り取った。


 アイゼルの全身が爆発的に膨張すると、それを縛り付ける様にして全身の大きさが元に戻る。グラゼビュートの身体強化魔法が発動。アイゼルの身体能力が跳ね上がる。


「身体をいくら強化したって無駄だっての」


 賢者はそう紡ぐ。そんなこと、言われなくてもアイゼルは知っている。

 

 故にこれは賢者に対してではなく、【知覚魔法】が知らせた新たな敵の襲来に対して。賢者の味方に対して構えているのだ。


「遅くなりました」


 次の瞬間、何もない所から五人の男女が現れる。夜の闇の中、月明かりをその身にまとい、しかし身体からあふれる魔力がわずかに世界を歪めてしまう。その強者の姿をみて騎士団から声が上がった。


「おせえぞ、お前ら」

「申し訳ありません」


 賢者にもっとも近い位置にいる男がそう返した。

 この国に生まれて、彼らのことを知らない人間は一人もいないだろう。何しろ彼らは英雄であり、彼らは国の憧れだ。


 王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザード

 その隊長たちが、五人。この場に集結していた。


「ところでこれは一体どういう状況ですか?」

「面白い状況」

「もっと詳しくお願いします」

「俺の実験に気が付いたやつがいるのさ」

「なるほど、それで」


 賢者と会話するその青年こそ。王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザード、一番隊『流星スターダスト』隊長。ケルビム・ファレノだ。

 

 次期賢者との呼び声も高く、最強に最も近い男と称される者である。


「なら、賢者様一人でどうにかできますよね? 俺たちは帰ります」

「何だよ、連れねえな」

「だって残業代でないじゃないですか」

「お前らめちゃくちゃ給料もらってんだろ」


 二人の視界に既にアイゼルは入っていない。彼らの中では既にアイゼルは彼らには勝てないことになっており、またそれは事実であるが故に、


「権能解放ッ!!」


 アイゼルは『因果貪食グラゼビュート』を発動。かの賢者を殺さんと飛びかかる。『因果貪食グラゼビュート』の前ではいかなる防御も無効。


 この魔法は、結果を生み出す魔法。そのため、対抗するには因果を操作するしかない。


 だから、


「……へぇ?」


 アイゼルは次こそ、確かな手ごたえを感じることが出来た。メリーの身体には一切の傷をつけず、されど賢者の身体は上半身と下半身に両断される。


「やるじゃねえか、お前」


 しかし、賢者はその状態で笑いながら静止。『最強(化け物)』は止まらない。その程度で倒れぬ者など腐るほどいるからだ。


 賢者が手を叩くと、両断されたはずの身体が元に戻る。最初から何もなかったかのように、すっかり綺麗になる。


「ひどく、懐かしい魔法だ」

「…………」

「そうか、そうだな。出ていたのか。お前は」


 賢者の言葉はどうにもアイゼルに向けられているものではない。もっと奥、それはアイゼルとの契約者に向けられているようで。


「んで、帰ってもいいですか」


 どこか抜けた返事を返しているのはケルビム。彼は賢者が両断されたということに対して眉一つ動かさずにいた。


「良いわけあるか。『正一位オリジンズ』が絡むかも知れないんだぞ」


 賢者のその言葉に彼はため息をつく。


「勘弁してくださいよ。またただ働きだ」


 だが、彼以外の隊長たちはすぐに動き始めていた。賢者を両断したアイゼルから一定の距離を保ち、ぐるりと囲む。その距離はアイゼルの間合いの一歩外。たった一度の攻撃でアイゼルの間合いを読み取ったのだ。


『アイゼル。良く聞け』

(……何だ)


 周囲から一切の視線を外さずに語り掛けてきた声にアイゼルが返す。


『あの男、孤児を集めていると言ったが恐らくは違う』

(……どういうことだ?)

『何、俺は少しだけお前よりもあの男を知っているのだ』

(……それで?)

『あの男は、孤児を集めているのではなく、作っている。己の実験に相応しい子供を餞別している』


 その言葉にアイゼルは心臓が爆ぜた。


(……証拠はあるのか)

『いや、勘だ』

(なら)

『だが、お前だって薄々気が付いているんだろう? あの男がどういう男なのか』

(……あぁ)


 アイゼルも、その可能性は予想していたのだ。いや、むしろこれまでの賢者の振舞いをみてその考えに至るのは当然であると言えた。


「まあ、そういうことだから」


 ふと、外から聞こえる声。アイゼルの目の前にはケルビム。


「封じられてくれ」


 その瞬間に、拘束魔術が発動した。

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