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第3-15話 犠牲、そして事実

「ふうん? 『契約者』に『序列一位』。んで、なるほど『知覚魔法』もいるのか」


 そう言って賢者は地面に落ちてきた。


「で、『アルゲニブ』を倒したのは誰だ?」

「僕たちだよ」

「ほう。やるな」


 賢者はそう言って拍手。そこに小馬鹿にしている様子はない。心の底からの感嘆のように思われる。だというのに。


 だというのに、どうしてここまでこの男を信じられないのだ。


「強くなったな。二人とも」


 そう言って賢者はアイゼルとエーファの頭をなでる。


「いやあ、学長に言われた時は『またか』と思ったが、中々逸材が光るじゃないか」

「賢者殿」


 一人でしゃべり続ける賢者にソフィアが割り込んだ。


「ん? どうした」

「賢者殿はこの魔物の名前を知っているように思われました。これが何なのか、説明してください」

「む。確かにそうだな。説明不足だったな。コイツの名前は『アルゲニブ』。俺たちはこいつを三等星と呼んでいる。まあ上から三番目くらいの序列だから三等星だな。正二位アルファ・セカンドみたいなもんだ」

「なるほど。では、この『翡翠』色の魔物はどこから来たのですか? 私はそれなりに魔物ことについて知識があるはずですか、該当するものがありません」


 そう言ってソフィアが言うと、賢者はまっすぐ空を指した。


「宇宙だよ。こいつ等は『星界』から来てんのさ」

「何の、ためにですか」

「この星を奪うため」


 そういって賢者は笑った。ただの笑顔ならそれで流せるだろう。だが、賢者が笑った瞬間にその場にいた全てのものが理解したのだ。これが真実だと。その荒唐無稽な言葉を事実として受け入れてしまったのだ。


「賢者殿は知っていたんですか? この『星界』から来る魔物のことを」

「勿論。そのために王立魔術師学校アカデミーを作ったんだから」

王立魔術師学校アカデミーだけか……?」


 その瞬間、アイゼルが斬り込んだ。そこしかないと思ったのだ。


「ふうん? 何が言いたい?」


 ニヤニヤと笑いながら、賢者はアイゼルに先を続けさせた。


「孤児たちを使った実験。王立魔術研究所ラボラトリーで行っている非人道的な実験は、お前がしているものだろう」

「へぇ。そこまで気が付いてるのかよ」

「何で可笑しいッ!」


 どこまで笑い続ける賢者に、アイゼルは激昂。


「いや、なに。何でそこまで怒ってるのかと思ってな」

「何だと……?」

「アイゼル、お前さ。お前の知らない100人とお前の知らない1人。助けるならどっちを取る?」


 賢者の言葉が一瞬理解出来なかったが、アイゼルはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「…………100人」

「だろうな。ここで1人を選ぶのは捻くれ者か破壊願望を持ってる奴だけだ。俺たちみたいに、何かを()()()とする人間が選ぶべき選択肢じゃない」

「何が言いたいんだ」

「まあ、つまりはそう言うことだよ。理解しな」


 そう言って賢者はまっすぐ進む。


「孤児を使ったのは、被害を被る人間を出来るだけ少なくするためだ」


 賢者の先にいた騎士団員たちがぱっと割れる。その歩みを邪魔しないように。


「子供を使ったのは適応性が高いため。出来るだけ生き残れるようにだ」


 賢者は『アルゲニブ』の死体に触れた。


「俺はこの星を守るためなら悪魔にだって魂を売る。悪魔にだってなってやるさ」


 そう言って嗤った。瞬間、『アルゲニブ』の死体が燃え上がる。グラゼビュートの言う通り、流星が煌めくように燃え尽きた。


「アイゼル。お前の覚悟は立派だよ。だが、それは何も知らない子供が掲げる理想だ。俺たちは天秤の上で選ばなければならない。最も多くの命を救うために犠牲を捧げなければいけない」

「それは…………」


 賢者の言う通りだ。何一つ間違っていない。

 アイゼルは知っている。己が理想を掲げるには弱すぎると。それでは誰も守れないと。


「お言葉ですが賢者殿。アイゼルが掲げる理想は確かに理想論ではあるように思えますが人として当然のことでは?」

「当り前のことができりゃ苦労しねえよ」


 ソフィアの助太刀も一蹴。


「いいよ。ソフィア」

「むっ、でも……」

「良いんだ。賢者の言う通りだよ。僕が弱いのも。理想論を掲げるてるのも」

「物分かりが良い子供は嫌いじゃない。それにお前の理想が悪いって言ってるわけじゃねえんだ。理想を掲げるには、お前が弱いだけだ」

「分かってます」

「だから、理想を掲げるなら強くなれ」


 賢者がそう言う。


「それしかねえよ」


 そう言って、その右手にメイシュを転送させた。


「何っ……」


 咄嗟のことに反応出来なかった。


『構えろ。アイゼルッ!』

「逃げ出しやがって、悪い子だ」

「放してっ!」


 瞬間、助けに動いたソフィアに莫大な魔力が浴びせられた。魔術陣も何も通していない。純粋なエネルギー。だが、数が増えれば増えるほどそのエネルギーはただのエネルギーではなくなる。


 たとえソフィアと言えども、その一瞬で確かに気圧された。


「俺がこの星を守るために一体どれだけの犠牲を払ってきたと思ってるんだ? それを一気にふいにするようなことしやがって」

「……メイちゃんを離してくれ」

「メイちゃん? 何だお前。偽名使ってんのか」


 賢者がそういって首を傾げる。


「んで持って何も気が付かないアイゼル。お前もお前でどうかしているぞ」


 事の発端である賢者はまるで他人事のようにそう言う。


「コイツの本当の名前はな」

「やめてっ!」


 メイシュの叫びも虚しく賢者はさらに続けた。


「こいつの名前はメリー。お前と同郷の少女だよ」


 刹那、アイゼルは動いた。

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