第3-14話 協力、そして討伐
『奴の恐ろしいのは、その純粋な力だ』
アイゼルは『アルゲニブ』から放たれる魔術弾を躱しながら、グラゼビュートの忠告を聞いていた。
『体長8メルの巨体から繰り広げられる一撃はそれだけで脅威足りえる』
『アルゲニブ』の右手には巨大な鉈。それを振り上げて、そしてまっすぐ地面に振り下ろした。
ドォォオンッ!!!
まるで砲台に耳をつけていた時のような錯覚を覚えるような轟音。ぐらぐらと地面が揺れてまっすぐ立つことも困難な一撃。
「何……あれは……」
「『星界からの侵略者』っていうらしい……。僕も詳しいことは分からない」
「『星界からの侵略者』……?」
サフィラが首を傾げる。そして、アイゼルはようやく王城から飛び出すとそこにいた騎士団にサフィラを預けた。
「行ってくる」
「行くってどこに」
「あれを倒しにだよ」
「どうして……?」
「僕が王立魔術師学校の学生だからかな」
王立魔術師学校は、王立故に王国に忠誠を誓う。故に、その象徴たる城が破壊されるような状況ある時、静観することなど出来ないのだ。
「騎士団も向かいます!」
「それより先にサフィラの保護を」
「ええ、分かっていますとも」
アイゼルは魔劍を掴む。刹那、アイゼルの肉体が二回りほど大きくなると、一瞬で凝縮。身体強化魔法が発動した状態でアイゼルは地を蹴った。刹那、アイゼルは砲弾のようにその場から跳ね上がると、一瞬にして『アルゲニブ』が暴れている中庭に降り立った。
「足を攻撃しろ! 動き回らせるな」
指揮官の言葉と共に騎士団員たちが『アルゲニブ』の足元に張り付いてアキレス腱を斬りつけている。さらに砲撃。王城周辺に設置された砲台が大きな音を立て『アルゲニブ』に向かって放たれる。
「王家直属魔術師部隊は何してるんだ……?」
こういう時こそ、まさに助けに来るべきような彼らだろうに。
『来ない者を頼るな。我々は出来ることを淡々とこなすだけだ』
「分かってるよ」
アイゼルはそう言うと抜剣。
「さぁて、どこまでやれるかな」
剣を抜いたまま疾走。砲弾が直撃し、上体を崩した『アルゲニブ』は、自らの甲冑を外そうとする騎士団員たちに狙いを定めた。崩れた上体からは信じられないほどのばねを見せて、その巨大な鉈で地面にいた騎士団員たちを斬った。
いや、違う。斬ったのではない。押し潰したのだ。
「ひでぇことしやがる」
地面から上がる土煙の中をアイゼルは駆け抜ける。『アルゲニブ』の視界に映るのはもうもうとした土煙のみ。故に、この中に隠れる様にして放たれる一撃は、
「ふっ!」
息を吐きながら、甲冑ごとアキレス腱を斬る。魔劍は甲冑をまるで水でも断つかのようにスムーズに断ち切った。右足の腱を斬られたことで動けなくなった『アルゲニブ』は地に足をつく。
『コイツが恐ろしいのはその巨体もそうだが、魔術の展開速度も恐ろしい』
グラゼビュートがそう言った瞬間、目の前に広がるのは100を超える魔術陣。一般的な魔術師で同時展開できる魔術陣の数は5。周りから化け物と言われているソフィアが30。その三倍。
「はぁ!?」
その理不尽さに思わず叫ぶ。その魔術陣が一つ残らずアイゼルに向けられた。知覚魔法が一つ一つの発動時間を計算。一瞬の内に導出。
【00:00:05:36】
魔術陣は寸分の狂いもなく同時に発動するらしい。知覚魔法に表示される時間は確実に減っていく。
『アルゲニブ』は甲冑の深奥からアイゼルを見て、嗤った。
そうか……。お前には、見えているのか。
ならば見せてやろう。アイゼルは魔劍を構える。
「権能解放」
アイゼルの持っている人並み外れた莫大な魔力が渦巻く。全ての魔弾が斉射。だが、そこにアイゼルはいない。何故なら、
「『因果貪食』」
【17.5%】
右目に表示される侵食率がわずかに上昇する。刹那、何もない虚空に現れるのはアイゼル。自らの攻撃が当たらなかったことに首を傾げる『アルゲニブ』。だが、次の瞬間に自らの右腕が地面に落ちたのは理解したようで。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッツツツツ!!!!!」
その全身を使って吠えた。だが、その隙を逃す騎士団ではない。アイゼルが切り開いた突破口を、さらにこじ開ける。
砲撃の音がさらに激しく鳴り響く。爆炎が『アルゲニブ』の視界を埋め尽くし、その動きを封じた。刹那、
「『燃えなさい』」
凛と響くは月の声。『アルゲニブ』の右足が一瞬にして赤熱化すると同時に爆発。片足が吹き飛んだ。
「月に替わって成敗ですっ!!」
ひどく久方ぶりに見るその姿にアイゼルは感嘆の声を上げた。
「エーファ!」
「アイゼル君もいるのね♪」
うん、魔術少女姿なら普通に喋れるようだ。
「ほう。そちらばかりに気を取られると少し嫉妬するな」
そう言って飛び込んできた少女は、『アルゲニブ』が左腕で掲げ振り下ろした鉈を右手で優しく受け止めた。ズン、と重たい音と衝撃波が中庭を埋め尽くす。
「可哀そうに」
ひどく優しいその声は、絶対強者の一声。流石の『アルゲニブ』も目の前の化け物に恐れをなして思わず後ずさった。だが、そう動くのは見えていた。
「助かるよ。二人とも」
「私もいるよー!」
そういうメイシュの声にアイゼルは笑って、そのまま斬りぬけた。
一瞬にして『アルゲニブ』の動きが停まった。そしてゆっくりと、けれど確実に首がゆっくりと動き始めるとそのまま頭が真下に落ちた。
ズドーン!! 重たい音が響く。
「んで、こいつ等は何なんだ?」
「こいつ等は……」
アイゼルが口を開いた瞬間に、ふっと月の光が陰った。全員が嫌な予感と共に顔を上げると、月の輝く夜空がゆっくりとねじ曲がっていた。
「……あれは」
一度だけ見た事あるから何が起きるのかを、アイゼルは知っていた。世界がねじ曲がり続け、そして弾けるようにして一人の男が出てきた。
「……あれ? もう倒されてるの?」
中から出てきたのは黒いローブを全身にまとい、その周りに七つの宝玉を浮かべる男。
「何でぇ、せっかく早く戻ってきたってのによぉ」
そう言ってふてぶてしく、最強の男はそう吐き捨てたのだ。
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