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第3-12話 ニャルン、そして制圧

「ふむふむ。なるほどなるほど」


 アイゼルが資料を見せた瞬間、ストールは一瞬だけだが確かに表情をひきつらせた。その隙を見逃すようなアイゼルではない。


 ……こいつ等は絶対に何かを知っている。


「へぇ。面白い研究だね」

「でしょう?」

「悪魔の多重契約ではなく、悪魔をその身に埋め込むことによって人工的に肉体の形質変化を行う。英雄を人工的に生み出そうって研究か」

『なるほど。あの内容はそういうことか』

「これ、この孤児たちはどこから集めたんだい?」

「それは内緒ということで」

「いや、しかし面白い研究だね。ウチの第七研究所と同じような研究だ」

「そんな偶然もあるもんなんですねえ。第七研究所っていうとあれですよね? 草原の地下にある研究所ですよね」

「……よく、知っていますね」


 流石にストールも表情を抑えることは難しくなったのか。顔の歪みを隠そうともせずに、アイゼルに向けてきた。


「……どこまで知っているのですか」

王立魔術研究所あんたらが僕を殺そうとしていることくらいかな」

「……はぁ。そこまで知っているんですね」


 そこまで言うと、ストールはがっくりと肩を落とした。


「無理無理、降伏ですよ。十五位なんて化け物は研究畑の私じゃ無理です。一体何が目的なんですか?」

「この研究に使われている孤児たちはどこから集めている。それが知りたい」

「はぇ? 孤児の行方ですか?」


 想定していた言葉と違う言葉が来たストールは思わず素っ頓狂な声を上げる。


「ああ、孤児たちはどこから連れて来られているんだ。流石に貧民街スラムから集めているにしては数が多すぎるだろう」

「ちょっと、待ってくださいよ。流石に僕もそこまでは知りません。ちょっと資料を取ってきます」


 そう言って立ち上がるストール。


「少し待っててください。すぐに戻ってくるんで」


 ストールが部屋の外に出る。


『アイゼル』

(分かってる)


 アイゼルはストールの真後ろに音もなくぴったり張り付くようにして外に出ると、そのまま身軽に動いて天井に張り付いた。


「やれやれ、困ったものだ」


 ストールはそう言って扉を閉めると、扉の隣に隠されていた魔術印に魔力を流した。その瞬間、部屋の中で『致死フェイル』属性を持った魔術が発動。中にいた生命全てが死ぬ限定魔術が発動する。


 その高威力故に妨害しやすく、範囲も極めて狭い魔術だが気を抜いた一瞬であれば問答無用で目標ターゲットを殺せるような魔術だ。だから、


「へぇ、よっぽどバレると困るんだ」


 そう言いながらストールに肉薄。


「……っ! どこから!?」


 その瞬間、アイゼルは剣を抜いた。ストールはわずかに逃げようとする素振りを見せるが、ノーマンに鍛えてもらった剣捌きはその程度の動きで避けれるようなものじゃない。煌めく刃がストールの首元につきつけられる。


「いい加減にしろよ」

「ひぃっ……」

「余計なことを一つもするな。さっさと僕のところに子供たちの資料を持ってこい」

「うぅ…………」


 アイゼルは剣を少しだけ強く首元に食い込ませると、皮膚が切れうっすらとストールの血が溢れてきた。


「ううぅ…………」


 ストールは唸ったまま動こうとしない。


「速く動けッ!」

「うわああああああああああああああっ!!!」


 その瞬間、ストールが発動したのは目くらまし用の発光魔術。一瞬、辺りが激しい光に包まれるが知覚魔法による遮光機能によってアイゼルの目が潰される状況は避けられる。


「標的は資料室前にいる! 検体DE-02を解放しろ!!」


 ストールがそう言いながら研究所の中を走って逃げる。


「誰が逃がすかよッ!!」


 アイゼルは声の聞こえた方向へと走り出すが、その瞬間に周囲の強化ガラスが一瞬にして砕け散る。


「いやぁ。こんなことで再戦することになるとはねぇ」


 そう言いながら、強化ガラスを破った触手たちが踊る。


「前回は君の対策が出来てなくて、良いようにやられちゃったからねぇ」

「……ニャルン」

「前と同じと思って欲しくはないね。こう見えても、前より強くはなってるのさ」

「イグザレアよりもか?」

「…………あっ」


 そうまで言ってニャルンの中で何か思い当たる節があったらしい。


「……そういえば隊長斬ったの君だっけ」

「ああ」

「そっか……。そっか……。……見逃してくれない?」

「出来るわけないよね」


 アイゼルはそう言って、その場を跳躍。

 刹那、遅れて響くは空気の破裂音。音よりも速く動く触手がアイゼルめがけて射出。しかしそれは攻撃予測線を見れば容易く動ける。


「前やった時は十一本の触手まとめて斬られちゃったよねぇ!!」


 懐かしそうにそういうニャルンは、三本の触手をまとめてアイゼルに放った。二本の触手を容易く躱すと、残る一本を真っ二つに斬り裂いた。


「痛いなァ!!」


 その瞬間、斬られた触手が二本になって復活。


「何ッ!?」


 零距離で音速を超える突きが放たれる。流石のアイゼルもこれには身体の反応が追い付かない。せいぜいが受け身を取るので精一杯だ。


 ドドンッ!!!


 ほぼ重なって響く衝撃が研究所内に重く響いた。地面が二つ、大きくへこんだ中からアイゼルが起き上がってくる。


 パリン、と手に持っていた銀色の剣が砕けた。


「これで今月何本目……?」

『安いのを買うからだ。もっと良いものを買え』

(金が無いんだよ)

『嘘をつけ。前回の報酬でたんまり貰っているだろう』

(そういえばそんなものもあったな)


 アイゼルとグラゼビュートはそんな会話をしながら起き上がった。


「剣も砕かれて、どうするっていうのさぁ!」


 嗤うニャルン。六本の凶弾が同時に斉射。

 

「なあ、ニャルン」


 六本の触手が全て断ち切られた後、声が響いた。


「お前を制圧した時の剣の色を覚えているか?」

「あぁ!? 色……?」


 ニャルンはその瞬間に、意識を分離すると少しだけ回想。忘れるわけがない。あんな屈辱的な敗北は。序列最下位ラストワンに良い様にやられたあの様を忘れるわけがない。だから、


「黒……色…………?」


 先ほど壊した剣は何色だったッ!?


 ニャルンがその思考に至った瞬間、


「おせえよ。お前」


 闇より黒い魔劍がニャルンの身体を両断していた。


「……また、負けるのかよ……クソが……」


 そう言ってニャルンが眠りにつく。このクラスの魔人になると中々死ねない。放っておけば一年後くらいに身体も元通りになるだろう。


「んで、どうしてくれんの。この傷」

「ひぃっ……」


 流石にアイゼルが生き残るとは思っていなかったのか、ストールはひどく縮こまって返答した。


「んで、あの孤児たちはどっから集めてんの」

「し、知らないんだっ!」

「腕と足とどっちが要らない?」

「話を聞いてくれ!! あの孤児たちは『賢者』様が集めてくるんだ」

「賢者?」

「ああ、どうやって集めてるのか私たちでも知らないんだよ!!」

「んで、賢者はどこにいるんだ」

「あのお方は転移魔術が使えるから、好きな時に好きなところに行かれる。僕ら研究員でも居場所は知らないんだ……」

「使えねえなぁ……」


 ぼやきながらアイゼルは納刀。


 さて、賢者の居場所を知っている人間はどこにいるだろうとしばらく考え。


「ああ、サフィラなら多分知ってるか」


 現王女が頭に思い浮かんだ。

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