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第3-8話 超人、そして改善

「ぐべぇっ」


 情けない声を上げながら地面を転がるのはアイゼル。

 だが、目の前の化け物は止まらない。


 アイゼルはそのまま転がると、左手が地面に着いた瞬間に反動で跳ね上がる。宙に浮いた瞬間、こちらにやってくるソフィアの姿が見えた。


「はぁっ!」


 アイゼルは捻りを加えた斬撃。模造剣を使っているとは言え、当たればただでは済まされないその一撃を容易く躱すと、その剣を踏みつけてアイゼルの首にソフィアの足が絡まった。


 彼女の太ももの柔らかさなど堪能する隙も与えられずにソフィアが全力でアイゼルを落としにかかる。


「ふんっ!」


 そのままバク宙気味にアイゼルが身体を動かして、ソフィアを地面に叩きつける。彼女は落ちる瞬間に身体をひねってアイゼルから離れる。無論、彼もそれは承知の上。


 アイゼルは右手を地面につくと、ヘリコプテイロ。最も人体で威力が乗るその攻撃をソフィアは両手をクロスしてガード。男一人の体重が乗ったその蹴りを簡単に受け流すと、空中に残るアイゼルの両足を掴んでそのまま力任せに放り投げる。


「……っ!」


 瞬間、アイゼルの両目に表示される攻撃予測線は愚直なまでの踵落とし。


 空中に浮いたままのアイゼルに、ソフィアの跳躍が間に合って、


「やられるかよッ!」


 空中で高々と上げたソフィアの脇腹を狙うような一撃。彼女はすぐに足を引くと、肘と膝で剣を挟んでアイゼルの一撃を食い止める。それを読んでいたアイゼルはそのまま力任せにソフィアを引くと、鳩尾を狙った一撃。だが、


「悪くはないぞ、あーくん」


 それより先にソフィアが抱き着いてきた。零距離故にアイゼルの拳は行き先を失って力は霧散する。そして、


「いったぁ……」


 アイゼルを下にして二人が着地した。


「抱き着いてきたら受け身が取れないだろ」

「何を言うか。か弱い女の子を下にして落とす気か?」

「どの口が言ってるんだよ……」


 二人して起き上がる。


 早朝、まだ日の光が昇り切る前から行われているこれは、アイゼルの実力テスト。彼が一体どこまでソフィアとどれだけ拮抗できかのテストである。


「良いかいあーくん。あーくんが序列最下位ラストワンから、十五位にまで上がれたのは魔導具のおかげかも知れないが、今後どういった理由で魔道具を失う(ロスト)するかも分からない。その時、魔導具に頼った戦いをしていると、死ぬような目にあうかも知れないのだ」

「……ああ、分かってるよ」

「だから、まず先にあーくんが鍛えるべきは身体。筋トレはしてるんだろう? 後はどうやって身体を動かすかを知るだけだ。そのためにはより多くの状況シチュエーションで、多くの敵と戦うことが必要だ」

「そうだな」

「安心しろ。こう見えても私は強い」

「……こう見えても?」

「あーくんが強くなるまで私が相手になろう。あーくんの全てを私にぶつけてくれ」

「……あー、少し休んでもいい?」

「ん? うん、そうだな。休もう。適度な休息は必須だからな」


 ソフィアの言葉を受けてアイゼルは井戸に向かう。そこで水を引き上げて汗を拭くと、一杯水を飲んだ。


「ふぅ、冷てぇ……」

『……化け物だな。あの女』


 背負っていた魔劍がグラゼビュートの言葉が流れ込んでくる。


(メイソン家の最高傑作だよ。魔術の母、体術の父。そしてその良いとこを併せ持ったのがソーニャ)


 先ほどのやり取り。ソフィアは一切の魔術を行使していない。それは、魔術を行使するほどの隙が無い激しい攻防と言うわけではなく。あの程度のことは彼女にとってわざわざ魔術を行使する必要が無いだけのことなのだ。


『いや、そこではない。いや、そうなのかも知れないが』

(……?)

『肉体の一部が形質変化している。人間というよりは悪魔に近い性質を持っているんだ』

(悪魔憑きってこと?)

『それに近いが……人間の中でも突然変異で生まれることは生まれるのだ』

(へぇ……)

『物語の中に出てくる英雄がいるだろう?』

(いるね)

『あれらのほとんどはそういう者たちだ。化け物退治、一騎当千、軍を勝利に導く。単独でそれだけの業績を上げるには、生まれ持っての英雄でなけばならないのだ』

(そりゃ、天才なわけだ)

『だが……あの体術、魔術行使の速さは彼女の努力の証だろう』

(まあ、そうだろうよ)

『お前もぼさっとしてないで、さっさと強くなれ。そして俺にもっと多くの欲を寄越せ』

(えぇ……。この流れで僕が怒られんの?)

『当たり前だ。お前の自己超越欲求は食べ飽きたんだっ!』


 などと雑談している間に身体も休んだので、ソフィアのもとに戻る。


「「アイゼルさん。おはよう!!」」


 戻ると、二人の少女に出迎えられた。


「おはよう!」

「ねえ、聞いて。私、『因果操作』の魔法、ちょっとずつ制御出来る様になってきたの」


 シェリーが笑いながらそういう。だから、アイゼルは自分と姿の似ている少女の頭を優しくなでてやる。


「本当に? がんばってるね」

「わ、私も、ソフィア姉さんに鍛えられて強くなってます!」

「うん、二人とも頑張ってるね」


 アイゼルはメアリの頭も撫でる。こうして、好かれるというのも悪い気持ちはしない。


 っていうか、ソフィアって自分のこと姉さんて呼ばせてるのかよ。まあ、昔から兄弟が欲しいって言ってたしな……。


「あーくん、続きやるぞ!」

「ああ、分かってるよ!」


 アイゼルはソフィアに返事を返して彼女のもとに向かう。


「なあ、あーくん。私はあーくんと戦ってみて課題が二つあるように思えた」

「二つ?」

「ああ、一つ目はその膨大な魔力量。【知覚魔法】は効率のいい魔術だろ? そんなに魔力があったら余るはずだ。知覚魔法の連続使用だと何時間持つんだ?」

「さん……いや、一か月くらいかなぁ………」

「いっ、一か月!?」


 後ろにいたメアリが驚いた声を上げる。


「そんなにあってどうするんですか?」


 普通の魔術の維持時間はもって三十秒。結界タイプだと長くて一週間持たせられる魔術師はいるが、一か月も持たせることが出来る人間なんて存在しているなんて信じられないのが常識だ。


「いや、何かに使うかなって」

「で、使ってるんですか?」

「一応、魔劍これで使ってることには使ってるんだよ」


 魔劍の権能解放では信じられないほど魔力を喰う。五大悪魔の力を、一部分とはいえこの世に顕現させる技なのだから当然なのだが。それでもアイゼルの魔力量が多いため、余ってしまう。


「戦闘において使わない物があるほどもったいない事はない。その魔力を上手く使うために方法を一緒に探そう」

「助かるよ」

「それともう一つ」

「うん?」

「その知覚魔法、余計な情報まで表示しているんじゃないのか?」

「……どゆこと?」

「迷っているんだ。あーくんは。多くを表示しているから、その中から取捨選択をする時間がどうしても戦闘中に生まれてしまう。それは、決定的な隙なんだ」

「……なるほど」

「だから、それを一緒に改善していこう。私にかかれば一瞬だよ」


 そう言って笑うソフィアに頼もしさと共に、恐怖を覚えながらアイゼルは訓練を再開した。

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