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第3-6話 実家、そしてソフィア

「あーくん、よく来たな!」


 ソフィアの家に着くと開口一番、そういって抱き着かれた。


「そちらにいるのは同じクラスの……」

「メイシュだよー」


 そういうメイシュだが、ひどく消耗している。


「うん。何か訳ありの様だな。是非うちで養生していくといい」

「ありがとう。ソフィア」

「なに、友の頼みとあれば断らんよ」


 そう言ってソフィアはにっこり笑った。


『ううむ。まるで別人だな』


 グラゼビュートが言っているのは多分、アイゼルの部屋に押しかけてきたときのことだろう。


(いやいや、ソフィアは元々こうだよ。優しいんだ)

『いや、それにしても……』


 未だ煮え切らないところがあるグラゼビュートだが、それを無視してアイゼルはソフィアの後ろを追いかけた。


「どうだい? あーくん、久しぶりの家は」

「何にも変わってないね。僕がいた時と全く同じだ」

「うん、そうだろう。あえて残しているんだから」

「へー」

『なあ、アイゼル。やっぱり、こいつ普通じゃないんじゃないか……』

(まあ、序列一位だもん。普通じゃないよ)

『いや、そういうことではなくてだな……』


 アイゼルは両親を失ったあと、ソフィアの家に預けられた。ソフィアの家は貴族であるため、両親は仕事でほとんど家にはいなかった。そのため、アイゼルはソフィアと共に育ってきたのだ。


「「アイゼルさん!」」


 部屋にはいると二人の少女に出迎えられた。

 片や犬耳を持った獣人の少女。

 片や因果を操る未来を見れる少女。


 どちらもアイゼルが助けた後、ソフィアが保護してくれた少女たちだ。


「メアリに、シェリーか。元気にしてたか?」

「うん!」

「アイゼルさん、その怪我は?」

「ちょっとね」

「あーくん、こっちだ」


 メイシュを抱えたままアイゼルはソフィアの後を追う。そのまま客室に通されるとアイゼルはメイシュをベッドに寝かせた。


「あとは頼む」

「承りました」


 ソフィアが侍女にそう言うと、一礼をした侍女はそのままメイシュの治療に取り掛かった。見た事ない人だから、新人さんだろうか?


「あーくん、食事はまだだろう?」

「うん」

「こういうこともあろうかと、用意してあるから食べていくと良い」

「ありがとう。ソーニャ」

「それで、何があったのかを教えてくれないか?」

「……それが、あんまり言いたくないんだ」

「どうして?」


 二人はダイニングに移動。相も変わらず大きなダイニングの席の一つを適当に選んで座るとその横にソフィアが座った。


「僕がよく分からないままでも、襲われたんだ。無関係のソーニャを巻き込みたくないんだよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、私とあーくんの中ではないか。それにメイシュさんにはおしえているのだろう?」

「いや、メイちゃんのは別件だよ。今日家に帰ったら血だらけで倒れてたんだ」


 そういうと、ソフィアの気配が変わった。


「ほう、どうして私には教えてもらっていない家をメイシュさんが知っているんだ」


 あれ……? ちょっと怒ってる?


「いや、僕は別に教えてないよ」

「ならどうして知っているのだ」

「そういうソーニャだって、僕の家に来てたことあっただろう?」

「むっ、まあ、それは、そうだが……」


 二人で雑談をしていると料理が運ばれてきた。


 良いもの食べてるなぁ……。


「食事が終わったら風呂に入ると良い。今はあの二人が入っているよ」

「ああ、風呂か。懐かしいな」


 アイゼルがこの家にいた時は毎日入っていたが、一人で暮らし始めるようになった時からほとんど水浴びになってしまった。


「なあ、あーくん。本当に教えてくれないのか?」


 そう言ってアイゼルの目を覗き込んでくるソフィア。ひどく心配そうに見てくるその顔をみて、思わずアイゼルは口を開いた。


「分かったよ。でも、誰にも聞かれない場所でしゃべりたい」


 アイゼルがそう言った瞬間に、周囲の雑音が消え去った。


「これでいいか?」

「ああ、助かるよ」


 ソフィアがノータイムでつかったのは防音結界。本来は『依り代』を使って発動するような重たい魔術なのだが、彼女は詠唱無しで行使できる。


「うん、あれは昨日のことなんだ……」


 そして、アイゼルは事の顛末を全て語った。


「そうか。そんなことに……」

「僕はあそこまで実験を隠すことは、何か後ろめたいことをしているんだと思うんだよ」

「まあ、普通に考えればそうだろうな。手の込みようが異常だ」

「だから、もしかしたら村の子供たちもそこにいるんじゃないのかと思ってね」

「む、確かにそうだな」


 すっかり日が暮れて、夜の闇の中で蝋燭の灯りを頼りに食事を進める。


 結構、量が多いなこれ……。


『こんなこともあろうかと、とか言っていたがそれにしては量が多くないか』

(まあ、育ち盛りの子供がいるから余らしているんだろう)

『いや、でもこれは明らかに男一人分の食事を残しているような……』


「なあ、あーくん。この家に戻ってくる気はないのか?」

「戻る?」

「ああ、だって王立魔術師学校アカデミーに入る少し前に一人暮らしをすると言って出ていっただろう?」

「ああ、そうだったね。これ以上、お世話になると邪魔になると思ったんだよ」

「邪魔じゃないと言ったら戻ってくるのか?」

「急にどうしたの?」

「いや、ちょっと聞いてみたくなっただけさ」

「ふーん? まあ、今のところ一人暮らしは気に入ってるし戻るつもりはないよ」

「そうか……」


 ひどく落胆した顔を見せるソフィア。


 まあ、ソーニャは寂しがり屋だからな。

 昔はよくアイゼルの後ろをついて歩き回ったものである。うん、あの時のソフィアは可愛かった。


「お二人がお風呂から上がられましたよ」


 アイゼルが食事が終えた瞬間に、侍女が入ってきてそう言った。


「ちょうどいいな。あーくん、お風呂に行くと良い」

「片付けは?」

「こっちでやっておくよ」

「じゃあ、そうさせてもらうよ」


 うーん。一人暮らしだと考えられないな。


 アイゼルは剣を担いで風呂に向かう。ソフィアの家を出てから二年ほど経つが、何も変わっていない姿になつかしさがこみあげてくる。


 脱衣所の近くにおいてある剣置きに二つとも剣を立てかける。


『おい、危ないぞ』

(剣を風呂場に持ち込んだら錆びるでしょ)

『魔劍は錆びん』

(だとしても脱衣所に持ち込むのはおかしいでしょ)

『まあ、それはそうだが……』


 そう言いながらも少しだけ不服そうなグラゼビュート。

 

 ソーニャの家にいるんだから危ないなんてことないでしょーが。


 そう思いながらアイゼルは脱衣所に入り服を脱ぐ。先ほど刺された脇腹の傷は薄く包帯に血が滲んでいたが、それでもその傷はふさがりつつあった。


「…………」


 人間から、どんどん離れていっている。


 それもそうだ。今のアイゼルは15%が人間でないのだから。


「まあ、何とかなるか」


 そう言いながら風呂場に入る。大きな浴場をアイゼルは一人占めできる嬉しさにぱぱっと身体を流すと浴槽に飛び込んだ。


「ふー。あったまるなあ」

「どうだ。湯加減は」

「うん、ちょうど良い……はっ!?」

「どうした、あーくん?」

「な、な、なんで、ここにいるの!?」


 そこにいたのは全裸になったソフィアだった。

これからしばらく忙しくなるため二日に一話となります。


二週間ほどでまた通常のペースに戻ると思います。

よろしくお願いいたします。

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