第2-20話 終戦、そして始まり
「なあ、あれ……」
「ソフィア先輩だよな……」
「あれ、魔物何体もってんだ……」
ソフィアを見ながらドン引きした様子を見せる一年生。
「ソフィア先輩は規格外なんだから、見てないで身体を動かしなよ」
そして、それをたしなめるように規格外に適応した二年生。
件のソフィアと言えば、王立魔術師学校の学生が倒した魔物を数十体ほどを山のようにして綺麗に持ち上げると、そのままエドワードが展開している影の中に放り込んだ。
「あとどれくらい入る?」
「分からん。俺はそんなにすごくない。あとは紅竜の魔術容積しだいだ」
「そうか。無理そうなら言ってくれ。私が自分で運ぶ」
「流石だ」
第三位のイルムはソフィアに負けじと身体強化魔術を全身にかけて魔物を持ち上げるが、せいぜいがソフィアと同程度。自分がもっとも得意としている身体強化魔術ですらその程度という現状に歯噛みする。
「クソ……。まだ、追いつけないのかよ……」
誰にも聞こえないように悪態をつく。イルムはエドワードの影にではなく、魔術師たちが必死に炊いている炎の中に投げ込んだ。魔物が燃える嫌な臭いをこらえながら、イルムは拳を強く握りしめた。
「此度の戦い、誠に大義であった」
国王の凛とした声が部屋に響き渡る。
「もったいないお言葉にございます」
そこにいるのはアイゼル。
アイゼルが部屋から叩きだされた直後、部屋の外でずっと待っていたサフィラはアイゼルを捕まえると、彼を離そうとはしなかった。そして、王城内に侵入した魔物を狩ろうとやってきた騎士団がそれを見つけ、二人は無事に保護されたということである。
そして、事の顛末をサフィラが全て国王に話した。それがここまでの顛末である。
「王立魔術師学校も、中々優秀な生徒を育てているようだな」
『おい、アイゼル。優秀だってよ。良かったな』
(馬鹿にしてんの?)
まあ、確かに優秀なんて口がさけても言えないが。
『さて、な』
国王はサフィラの方に向き直って口を開いた。
「サフィラ。式は中断したが、お前は立派な女王だ」
国王はそう言って自らの席を立った。その顔はとても優しい。どこにでもいる普通の人間で、どこにでもいる普通の親の顔がそこにあった。もう、悪魔の支配は解かれているのだろう。それとも、役目を終えたことに安堵しているのだろうか。
「これから大変なこともあるだろう。辛いこともあるだろう。これまで女性の王というものは零ではない。だが、ほとんどいないのだ。国民は、お前の振舞いをお前が思っている以上に良く見る。くれぐれも、気を付けるのだ」
「はい。国王様」
「今はただの父としてお前に忠告しているのだよ」
「は、お父様」
国王……いや、元国王はそう言うと大きく伸びをした。
「いや、これで肩の荷が下りた下りた。これで隠居生活が送れるよ」
そのフランクさにみな、笑ってしまう。
「悪魔達は……一癖も二癖もあるが皆、心根は良い奴らだ。良くしてやってくれ」
「分かりました。お父様」
「アイゼル君。君もありがとう。これは差し出がましいお願いかも知れないが、これから、娘が困るようなことがあればその時もまた力を貸してくれないだろうか?」
「はい。私なんかでよければ」
そう言ってアイゼルは頭を下げ続ける。
「うん、後人が育っているようで何よりだよ」
そう言って国王は微笑んだ。周りにいる大臣たちも、国王の言葉を聞きながらニコニコとしている。
「ああ、そうそうサフィラ」
「何でしょうか?」
「家庭を持ちたかったら、持っても良いんだよ?」
「……何のことでしょうか?」
「またまた、とぼけなくっても……」
その瞬間、サフィラのグーパンが飛んだ。
……国王と言えども、やっぱり年頃の娘との関わり方は分からないのかな?
王城の地下。国王ですら正しく把握していない地下通路がある。それは王都に攻め込まれた時、王家が逃げるために作られた迷路のようになっている秘密通路だ。だが、長い年月が経ちそのほとんどは整備されることなく、ただ朽ちていくのみだ
「はぁ、良いなぁ」
そこを歩くのは一人の少女。その後ろには無数の魔物が屍と化している。そう、文字通り無数の魔物が。魔物たちの身体からあふれた血液が川のようになって零れていく。どこまでも、どこまでも王都の地下を誰にも知られずに流れていく。
その先にあったのは二メートルほどの小さな魔界への門。そこからあふれ出す無数の魔物をたった一人で殺し続け、そして……。
「お姫様は、幸せになれるんだから」
ひどく退屈そうに、暗闇の中で少女は呟く。彼女は自分が殺し続けた魔物たちの上に座り込んでため息をついた。王立魔術師学校の誰よりも、五大悪魔よりも先に、彼女はこの地下に『依り代』があることを見抜いていた。
だからこそ、破壊しようとここに来たわけである。そして『嫉妬の悪魔』が『依り代』を破壊するよりも先に彼女が壊した。何故なら、
「私はいつになれば幸せになれるの?」
彼女は亡者のようにそう呟く。だが、心の底にいるもう一人の自分が。『賢者』によって埋め込まれた悪魔がささやくのだ。
『無理に決まっているでしょう?』
と。
『貴女は外に出るのに、どれだけの犠牲を払ったの? どれだけの物を捨ててきたの?』
「だって、あれは……仕方なかったもの」
『そうやって、貴方は割り切れるかもね? でも、さ。彼はそうでもないんじゃない?』
その言葉に彼女の身体が震え始める。
「だい、じょうぶ。大丈夫。絶対に助けにきてくれるもん。まだ、気がついてないだけだもん……」
『子供のように拗ねたって仕方ないでしょう? まだ、分からないの? 貴女は忘れられてるのよ』
「違う! アイゼルは探し続けてるもん! 私のことを探し出してくれるもん!!」
そう、誰もいない地下の中でメイシュは叫び続ける。
メイシュ。それは『色欲の悪魔』の悪魔を埋め込まれた『悪魔憑き』であり。
元の名を、メリーと言った。
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