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第2-19話 修羅、そして置いてきぼり

 目の前には、炎があった。

 どこまでも燃えていく炎があった。


 空にあるのは満天の星。己の身体が小さくなっていることに気がついたのは、それから少ししてからだった。


「ここは……」


 目の前にいたのは若きローゼとイグザレア。

 両者はアイゼルに見向きもせずに戦っている。


 しばらくして、これがアイゼルの過去だということに気が付いた。


「どうして……?」


 ローゼの魔術がイグザレアの魔法とぶつかり合って爆発する。

 天が裂ける。地面が溶ける。


 幼いアイゼルはそれに巻き込まれるようにして、吹き飛ばされる。


「ぐっ……」


 何なんだ。何が起きているんだ。


『もういい。次に行こう』


 『嫉妬の悪魔(アヴァリタン)』の声。

 ひどく冷めきったその声が刺さる。場面がぐるぐると変わっていく。


『戦え』


 それは『傲慢の悪魔(ヴィアフェル)』の声。

 気が付くと、己の身体がもとの大きさに戻っており魔劍が手元にある。


 そして、無限に広がる地平線で目の前にいるのは。


「イグザレア……」


 最強の魔人が目の前にいた。


「はっ……」


 イグザレアはアイゼルを見るやいなや飛び込んできた。


「くそっ!!」


 理解も出来ない。納得も出来ない。

 ただ分かるのは、ここで闘わなければ殺されるということ。

 

 剣を抜いて向かいあう。イグザレアは問答無用で襲い掛かってくる。

 その手には『紅灼焔爆掌クリムゾン・マオ』。

 触れた相手を骨も残さず焼却する悪魔の拳。


 愚直なまでの直進するイグザレアの拳を躱した瞬間に、アイゼルはその場にしゃがみ込む。


 パッと消えたように見えたイグザレアの目に映ったのは、真後ろから首を断たれた己の姿だった。


『ほう。この程度の敵ならてこずらないか』

「まさか。二回目だからだよ」


 アイゼルが行ったのは、イグザレアの足と足の間を滑り抜けただけ。その瞬間に、真後ろに周り首を刎ねたのだ。


『では次だ』

「おいおい」


 場面が切り替わる。

 首の斬れたイグザレアの姿が霞になっていき、その代わりにアイゼルの周りには無数に森が生えていく。


 そして、その周辺に出てくるのは無数の魔物。


 これは、『狭間の森』の再現だろうか?


 アイゼルの周りにいる魔物はゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、サイクロプス、ギガント・サーペント、スライム、影貌、スケルトン、餓鬼。まだまだ数が増えていく。

 その種類も増えていく。


『見せてくれよー』


 聞こえてきたのは『怠惰の悪魔(ピグフェゴール)』の声。

 

 アイゼルは『知覚魔法』を発動。

 数百体を超える魔物を見ながらため息をつく。その目に表示ポップアップしているのは、三つの剣筋ルートだけ。


 アイゼルがするべきなのは、その剣筋ルートをどこまでも正確になぞるだけだ。


「行くぞ」


 アイゼルは加速。最も近い剣筋ルートを選択すると、手始めにゴブリンを狩った。

 そのまま流れるように近くにいたスケルトンの頭蓋を砕いて、近くにいたコボルトの頭を踏み砕く。


 まだ早くなる。まだ加速できる。


 スライムを断ち切り、オーガの腕を断ち切り、オークの攻撃でゴブリンを殺す。

 ギガント・サーペントを挑発し、飛び込んできたその巨体を利用してしたにいた有象無象を殺させる。


 その巨体がアイゼルに向いた瞬間に、脳に叩き込まれた黒剣が蛇の命を奪う。

 

 力がどんどんと無くなっていくその蛇から飛び降りると同時に飛んできた影貌の身体を縦に両断する。


 餓鬼がわらわらとアイゼルに向かってくる。

 それを剣のリーチを活かして、餓鬼の手に触れないまま身体を断ち、足を断ち、首を断つ。


 アイゼルは魔物の返り血に塗れながら片端から殺していく。

 それはまるで修羅の様。


『ほう。やるではないか』

『貪食は力を貸していないんだろう?』

『うむ。それは契約違反だ』

『あんなに面倒なことをよくこなせるよ』


 アイゼルが全ての魔物を狩りつくしたのは、30分ほど経ってからだった。


「はぁ……はぁ……」

『お疲れさん』


 その言葉とともに、アイゼルが狩った魔物が消えて行く。

 

『もう、これくらいで良いだろう』


 ここで、始めてグラゼビュートが口を開いた。


『ここ一年半でコイツは驚異的な成長を見せている。このまま成長していけば』

『間に合うと思っているのか?』

『間に合うだろう。この数百年、侵攻は無かったのだろう?』

『数百年無かったからこそとは思わないのか』

『だからと言って数年で攻めてくるなんてことがあるわけもあるまい』


 グラゼビュートとアヴァリタンが語り合う。

 そして、両者ともに黙り込んだ。


「何でも良いけど、僕をさっさと元の場所に戻してくれないか」

『貪食、よく聞け。私たちはもう二度と失敗するわけには行かないのだ』

『知っている。だからこそ俺が言うことはただ一つだ』


 一息。


『強欲に気を付けろ』


 瞬間、グラゼビュートが何か力を使った。


 その刹那、アイゼルの視界が酩酊した時のようにぐるぐると回り始め、気が付いた瞬間五つの像がある『対話の間』に戻っていた。


『こちらにはこちらのやり方でやらせてもらう。お前たちにどうこう言われる筋合いは無い』

『では戻ってこないということで良いな? まあ、貴様は契約に含まれていないからそれでも良いとは思うが』


 憤怒が口を開く。


『ああ、そうだ』

『では、来たるべきにそれぞれの成果を見せあおうではないか』


 憤怒がそう言うと、アイゼルの身体が真後ろに下がっていく。

 そのまま扉にまで移動させられると、勝手に身体が部屋の外に叩きだされていた。



 ……結局何だったんだよ。

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