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第2-18話 仲間、そして資格

 サフィラの言葉に悪魔達が黙り込む。

 それは、考え込んでいるというよりも品定めしているという風に言ったほうが正しいだろう。


『そうだな』


 嫉妬が最初に口を開いた。


『それが正解だ』


 憤怒がそれに賛同し、


『簡単な問いだが』


 傲慢が吐き捨て、


『これが出来なければ話にならないよ』


 怠惰がそう言った。


「……ということは」

『合格だ。君を私たちの次の契約者と認めよう』


 先ほどと打って変わって柔らかくなった悪魔達の声を聴きながら、サフィラはほうっと深く息を吐いた。


『魔界の門を塞ぐのにそこまで力は必要じゃない』

『なら嫉妬がやってよー。契約者が一番多いんだから』

『ああ、それは構わない』


 そう言って、嫉妬が何かをする。


 その瞬間、扉の外からここまで聞こえてくるほどの大歓声が聞こえてきた。

 門が閉じたのだろう。


 あそこに残っていた紅竜もサイクロプスも、ソフィアが一人いれば問題なく倒せるだろう。

 そう言った意味でいえば、門を通って出てきた魔物たちは可哀そうと言わざるを得ない。


「ほ、他にも五つ門を開けると言っていたのですが」

『国境沿いにある『依り代』のことだろう?』


 嫉妬がサフィラにかぶせる様にして口を開いた。


「知っているのですか」

『勿論だ。それに関しては問題ない。今、王国内部で空間魔術が開かないようにしている。辺境任務に当たっている者に探させて壊せばいいだけの話だ』

『賢者が困ってしまうぜ』

『あやつのことなら何とかするだろう』


 そう言って、嫉妬は何かをした。


 そう、何かをしたことは分かったがそれが何かはアイゼルには認識できなかった。

 

 ……人間が理解できる範囲を超えた何かだ。


 ただ、それだけがアイゼルの頭で理解できたことだった。


『結界を張っただけだ。ただ、それがこの王国全土であるというだけの話よ』

(……王国が、どれだけの大きさがあるのか知ってんのかよ)

『勿論。正一位オリジンズに掛かればこの星全土に張ることだってできるのだぞ』

(……嘘くさい)

『まあ、代償の量にもよるがな』

(ふーん)

『おい、話途中で興味を失うな』


「ありがとうございます。感謝します」


 サフィラが頭を下げる。

 それに悪魔達は笑いで返した。


『何かをやるたびにそれを言っていたらキリがないだろう?』

『うむ。契約者と悪魔は対等なもの。どちらが目上か目下とかは無いのだ』

『僕はどっちでもいいけどね』

『いやァ? こういう態度も大事だと俺は思うぜ』


 各々が好き勝手なことをいうが、それでもサフィラに対する拒絶は感じない。

 彼女は、受け入れられたということだろう。


「それでも、感謝を述べたいのです」


 そう言って頭を下げ続けるサフィラを見て悪魔達は微笑んだ。


 それが、アイゼルには感じられた。


「それでは、私にはこれからやるべきことがあるのでここで失礼させていただきます」

『ああ。気を付けるのだぞ』

『健闘を祈る』

『面倒だから元気でやっててくれ』

『好きにしろ』


 サフィラは再び礼をすると、振り返って外の出口に向かう。

 それについてアイゼルが外に出ようとした瞬間に、刃が胸に突き立てられた。


「……ッ!?」


 少なくとも、そう錯覚させるほどの殺気がアイゼルに放たれた。


『まァ、待てよ。そこの女王は帰っても良いがお前は簡単に帰れると思うなよ』

『面倒だけど、傲慢の言う通りだ。君は少しここで待つべきだ』

『ああ、話したいことがある』

『これは契約外のことだがな、それでも傲慢の言う通りだ』

「ま、待ってください。この者は私が連れてきた者です。責任はありません」

「いや、大丈夫だよ。サフィラ。多分、そう言うことじゃない。そうだろ?」

 

 アイゼルは悪魔達に向き直ってそういう。


『ああ、よく分かっているじゃないか』

『別にこの部屋に入ったことに関しては咎めないよ。面倒だし』

『だがそうもいかねえ事情ってのがこっちにもあンだよ』

『そう言うことだ。さぁ、契約者は帰るが良い』


 憤怒の言葉にサフィラの足が勝手に動き始める。


「待ってください。なんの話か、私にも」


 バタン、と扉が開いて閉まる音が聞こえた。

 サフィラが外に追い出されたのだろう。

 続いて扉の外から聞こえてきたノックの音がそれを物語っている。


「話ってのは、これだろ?」


 アイゼルはそう言って魔劍を持ち上げる。


『そうだ』


 悪魔の誰かが答えた。


『ソイツは俺たちの仲間なんだよ』

『ここ数百年、連絡が無かったのだ』

『連れ戻してくれた感謝するぞ。少年』

『面倒だったとは思うけど、助かるよ』


 部屋の中に響き渡る悪魔達の声に、グラゼビュートは何かを言うべきか迷っているかのように無言を貫いた。


『どうした? 貪食』

『喋れないほど、鈍ってるのかァ?』

『それは面倒だ』

『契約が上手くいっていないのかも知れない』

『俺は……戻る気はない』


 グラゼビュートが初めて口を開いた。


『おいおい。コイツは困ったなァ』

『ああ、強欲、色欲に次いで貪食まで帰らないというか』

「えっ、色欲消えたの!?」

『あーあー。嫉妬は口が軽いんだから。これは面倒だぞ』

『……忘れてくれ』

「出来るか!」


 一息。


『俺には俺のやり方がある』


 グラゼビュートがそういって吐き捨てる。


『知っている。有象無象の1よりも、秀でた100を育てるというやり方だろう』

『だけど、それで前回・・はどうなった?』


 ……前回?


『俺たちは負けたよなァ』

『悲しいことだ。辛いことだ』

『ああ、だからお前たちは人間たちに力を分け与え始めたんだろう?』


 ……駄目だ、完全に話に置いていかれてる。

 ……悲しい。久々にボッチの気分だ。


『そうだ。質より量だ』

『弱い人間でも、1000人いれば優れた一人に勝てるだろうって魂胆さ』

『だいぶ面倒だけど、そっちのほうが楽だしね』

『俺は……そうは思わん。前回は、情報が無いのが悪かったのだ』

『だから前のやり方に固執するのか? まさか、仇討ちのつもりじゃないだろうな』

『まさか。俺には俺の考えがあるのさ』

『だから、それがお前の駒か』

『ああ、来たるべき時に俺が備えているわけだ』

『だが、侵食が激しいように思えるぜ』

『面倒なことが起きるよりさきに、君たちが面倒なことになっちまう』


 分からん。話が微塵も理解できない。


『そもそも、ソイツは資格を得ているのか?』

『ソイツは俺も気になっていた』

『まさか、貪食といえども契約を破るようなことはするまい』

『簡単な方法が一つだけある。確かめればいいんだ。それだけで面倒なことを回避できる』

『うむ。怠惰の言う通りだな』

『確かに。試すだけだ』

『ああ、そうだな。資格は自分でつかみ取るもの。それが契約者に相応しい』

『それでいいな』


 嫉妬がこちらに尋ねてくる。


『構わない』


 ノータイムで頷くグラゼビュート。


 ……これってさ、もしかして僕が主題になってんの?


『では、お前の価値を示して見せよ』


 そう言ってアイゼルの足元に穴が開く。


「おいおいおい、聞いてないぞ。こんなの!!」


 重力に引かれる様にして真下に落ちる。


『すまん』

「ふざけんなっ!!」


 僕の意志を無視するなッ!!



 という叫びは誰にも届かず、消えて行った。

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