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第2-13話 三位、そして人影

「オークが出た!!」

「こっちはスライムだよ!」

「魔物の数が多すぎるのよ! なんでこんなに湧いているの!」


 会場のあちこちから悲鳴にも似た声が上がる。


 30メルの大きさを保った巨大な門は、大きな丸みを帯びながら無数に魔物を吐き出していた。

 倒しても、倒しても、魔物が排出される数の方が多い。


「……どうしたものかな」


 アイゼルがそう呟く。


『あの魔術、一人で作ったものとは思えん精度だな』

(いや、あれは依り代か何かを使って魔術保護をしてる)

『ならその依り代とやらを壊せばあの魔術は壊れるのか』

(うん、それはね。けど……)


 アイゼルは知覚魔法によって表示ポップアップされている情報を見てため息をつく。

 そこに映っているのはフェルメール王国の地図と、依り代の位置。

 

 依り代の数は全部で五つ。そのどれもが、この国を覆うように国境沿いに等間隔に設置してあるのだ。


(外との連絡も取れないし、辺境任務中の四年生たちが気が付いてくれればいいんだけど)

『だが、その可能性は』

(うん、著しく低いよ)


 依り代とは一見してそうとは見えないものに偽造するのが常である。

 特に連絡も言っていない四年生がぱっと見ただけでそれを壊せるとは考えにくい。


(でも、まあここは大丈夫かな)


 アイゼルは地獄の様を見せつつある会場の惨状を見ながらそう言った。


『む? 何故だ?』

(だって、ソーニャがいるんだもの)


 アイゼルがそう呟くと同時に、会場の中に大きな半透明のドームが生成された。


「うわぁ! ソフィア先輩の範囲魔術だ!!」

「喰らったら死ぬぞ!!」

「巻き込まれないように逃げろぉ!!」


 それを見て、下級生たちがドームから逃げ出そうとするが、三年生たちはそれを意にも介していない。

 何故なら、


「巻き込む?」


 ソフィアがそう呟く。


「そんなミス、するわけないだろう」


 そうして、構えた。


「さぁ、『大回廊』。零になるまでのカウントダウンだ」

『残り15秒です。マイマスター』


 ぶわりと風が巻き起こりドーム内にいた魔物たちは一斉に中心にいるソフィア目指して襲い掛かる。


 あぁ。かかった。


 あれは彼女が使う『魔物寄せの術』。

そして『大回廊』とは彼女が疑似的に作り出した『召喚物』。

正確に言えば、自らが作り出した無機物に『疑似人格』を搭載することで召喚物に見せかけている物である。


 そして、その『大回廊』にはソフィアが使う魔術、その全てが搭載されている。


『7、6、5』


 彼女は、単独で同時詠唱を可能とする。


 そして、


『0』


 大回廊のひどく人間離れした声とともに、半透明のドーム内にいた全ての魔物が一瞬で圧壊した。

 魔物の血が、臓物が、筋肉が、骨が、辺りに巻き散るなか彼女のドーム内で動いていた三年生たちには一切の傷がない。


(な、言っただろ?)

『…………』


 これには流石にグラゼビュートも閉口。

 何も言わずに惨劇をただ、見るだけ。


 領域系魔術『絶無壊放グルリア』は、ソフィアだけが可能とする魔術だ。

 中に入った物を崩壊させるために必要な時間を『大回廊』が計算し、ソフィアに通知。そしてカウントダウンがゼロになると同時に範囲内に入っていた物を任意で破壊していく。


「さて、これで一息つける」


 たった一人で七割以上の魔物を倒した『孤高の女王』は笑う。


「派手だなぁ。まったくもって彼女は派手だ」


 そう呟くのは今期の次席。エドワード・ヘルムート。

 陰気な影を全身にまとい、ひどく鬱屈そうな顔で周りを見ている。

 

「ああは成れない。なりたくもない」


 ひどく冷たく息を吐く。


 動かない彼をめがけて我先にと魔物が襲い掛かる。


 だが、届かない。


 彼の数メートル手前でどの魔物も一瞬にして影になる。


「もっと影に行きたい。俺は影……。日の当たらない影なんだ……」


 その魔術、原理、どれも一切合切が不明だが、ただ分かるのは彼は只者ではないということだ。


「どけッ! 俺の邪魔をするんじゃねッ!!」


 そう言って近くにいた一年生を押しのけながら目の前のオーガを倒しているのは、今期に三席にまで登りつめた努力家の『鋼鉄の格闘家(アイアン・ファイター)』。

 イルムは純粋に強化した己の肉体のみで魔物を殴り殺し、下級生を守っている。


「まあ、あの三人がいれば大丈夫か」

『ほう、あれが今期のトップ3か』

(まあ、上二つは四期連続で変わってないけどね)

『あの二人は群を抜いているな』

(正真正銘の化け物だよ)


 ゆっくりと、だが確実に形成がこちら側に傾いて来ているのを見てアイゼルは安堵。


 息を吐くと同時に目の前に黒髪の美少女が現れる。


「どうだい、あーくん。そっちの様子は」

「良いところにきた! ソーニャ、力を貸してくれ」

「勿論だ。あーくんの頼みなら何だってするよ」


 アイゼルはソフィアを連れてサフィラの元に向かう。

 ここから出られないように貼られている結界。


 その強度がどの程度の物なのか分からないが、ソフィアなら人一人通れるくらいの穴はあけることが出来るだろう。

 そう思ってソフィアを結界のところまで案内すると、なんてことは無い。


 たった一撃で、結界を半壊させてしまった。


「に、人間業じゃないのだ……」

「ありがとう。よく言われるよ」


 ある意味でソフィアは抜けているから皮肉が通じなかったりする。


 それとも、分かっててのってのかな。


「サフィラはいまのうちに」

「分かった」


 サフィラは頷くと、メイシュとともに結界から外に出る。

 その後ろをエーファとリーナが追いかけていった。


「ソーニャ、君が付いていってくれないか?」

「いや、これはあーくんの仕事だろう? なら、最後まであーくんがやるべきだ」

「ははっ、まあそうだな。ソーニャ、健闘を祈るよ」

「ああ、こっちは任せてくれ」


 ソフィアとはそう言って別れると、アイゼルは先に行っている三人の後を追いかけた。


 走っていると、すぐに追いついた。


「アイゼル、ここからどうすれば良い?」

「そうだな……。まずは安全な場所に逃げて、そこでいったん落ち着こう。サフィラ、良い場所を知らないか?」

「地下に入れば、安全だとは思うけど……」

「よし、なら地下に行こう」


 そう、アイゼルが決断した瞬間。


『フェルメール王国第2王女、サフィラに告ぐ』


『降伏し、姿を見せよ』


 と、ひどく重たい声が響き渡ったのだ。

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