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第2-7話 王城、そして騎士団

「おはようございます」


 もう王立魔術師学校アカデミーに向かうこともなく直接、王城にアイゼルはやってきた。


「おはよう。アイゼルっ!」


 そう言って飛び込んできたのはメイシュではない。


 ……サフィラだ。


「えっ、えええええ!? ちょ、ちょっと離れてください。と、年頃の二人が……そんなに近づくのは駄目です!!」


 エーファがそう言ってアイゼルとサフィラの間に入って二人を剥がしにかかる。

 

「良いじゃない。減る物じゃないんだし!」

「へっ、減るんです!」

「何が減るのよ」

「えー。みんな楽しそう。私も混ぜてよー!!」


 そう言って揉めてる三人にダイブしてきたのはメイシュ。


 まあ、これがひどいのなんの。

 もみくちゃにされる分にはアイゼルとしては役得なのだが、少しでもエロいことを考えた瞬間にグラゼビュートからの舌打ちが飛んでくるのだ。


 多分、そんなにおいしくない欲望なんだと思う。


 そうして、そんな四人を呆れたように見つめるリーナ。


 結局彼らは、サフィラの侍女が部屋に入ってくるまでその騒ぎを続けたのである。




「チェスですか?」

「うん。やりましょ」

「……僕は一応、貴女を警護しているんですよ?」

「でも、何も起きないじゃない」


 朝、あの騒ぎを終えサフィラは読書。

 王立魔術師学校アカデミー生の三人はそれぞれが部屋の決められた場所について警護していたのだが、暇を持て余したサフィラがそうアイゼルに持ちかけたのだ。


「まあ、それはそうですけど」

「なら、大丈夫でしょ?」

「分かりました。やりましょう」


 ああ、暇なんだ。この人。


 というわけで、アイゼルとサフィラはチェスを打つことになったのだが。


 誰にもバレないようにアイゼルは『知覚魔法』を発動すると、適度に負ける様な表示アシストを出させる。


 こんな所にまで、勝負にこだわるほど子供ではない。

 

 サフィラが求めているのは暇つぶし。

 適度に負けて気分を良くしても誰も嫌な気持ちはしない。


 アイゼルとサフィラの勝負は最初、アイゼルの優勢だったが中盤でアイゼルのミスが効き、後半にはサフィラの圧勝となった。


「いやあ、負けました」

「もう一度やりましょ。今度は手加(・・)減無(・・)()でね」


 ……気づいていたのか。


 アイゼルは『知覚魔法』をオフにすると、チェス盤へと向かいあった。


「……本気でいきますよ」

「ええ、かかってきなさい」


 アイゼルとサフィラの勝負はすぐに決着がついた。


 序盤劣勢のアイゼルは中盤で何とか巻き返すと、後半戦は嫌に彼女はあっさり手を引いたのだ。


「もう一度ね」


 そう言って、アイゼルとサフィラはしばらくチェス盤で向かい合い続けた。


 チェスの打ち方には人柄が出るという。

 5戦ほど戦った結果、アイゼルが見つけ出したのは、サフィラという少女はひどく諦め(・・)が速(・・)()

 

 彼女は中盤以降に劣勢に持ち込まれると、すぐに投了する。

 そこから巻き返そうとはしないのだ。


 それは、とても嫌になるほどにあっさりと彼女は手を引く。


「さて、こんな所で良いかしら?」


 サフィラとアイゼルの勝負は互いに三勝三敗。

 どっちつかずの結果となったが、アイゼルは確かに彼女の性格を見抜いた。


「ええ、まあ……」

「本当にすることも無くなったし、三人に王城の案内でもするわ」

「いいの!? 私見て回りたかったの!!」


 サフィラの言葉に真っ先に食いついたのがメイシュだった。


「私も、見たいです」

「貴重な体験になりそうだし、僕も見たいな」

「よし、ならさっそく行きましょう」


 そう言ってサフィラは三人を連れて、部屋から出た。


「こっちよ」


 そう言って彼女は歩き始めた。


「この王城は、みんなも知っているとは思うけど悪魔と語り合うためだけに作られたの。だから、ほら」


 サフィラが指を指したのは三階へと上がるための階段。

 その先にはとても重たい扉が構えられており、大きな魔術陣による封印が施されている。


「あそこには王家直属魔術師ロイヤル・ウィザードと『賢者』様の防御結界が施されているわ。だから、どんな魔術ですらも、魔法ですらもあの防御結界は突破出来ないの。この世界で一番安全な場所よ」

「へぇ……」


 アイゼルはこっそりと『知覚魔法』を発動。

 施されている魔術結界を読み取ろうとするが、神秘文字がこれでもかと敷き詰められほとんど黒色に近い。

 

 ……こりゃ、凄い。


 突破も出来ない訳である。

 流石にどこにどの文字があるのか分からないほどに文字で埋められた結界など見たことも無い。


『……人の身で『従一位ファースト・ワン』に匹敵するほど防御術式とは』

(いや、お前イグザレアの攻撃防げて無かったじゃんか)

『あれはお前の欲が少ないのが悪い』


「ここに入れるのは悪魔と喋れる“才”がある人間だけよ。それ以外の人が入らないような結界も貼られているの」

「へぇ……。厳重結界だな」

「まあ、この国で一番重要な施設だし。さて、次に行くわよ」


 サフィラは『悪魔の間』を忌避するようにさっさとそれに見切りをつける。


 次に案内されたのは図書館だった。


王立魔術師学校アカデミーに勝るとも劣らないね。ここは……」


 わざわざフロアの半分を使って本を置いている。

 そして、それら全てが魔術、魔法に関する本だ。


「すっ、凄い本の数です……」

「ここにある本の八割は禁術や封印されている術式を記した本よ」

「へぇ……。だから、王の許可がないとここの本は読むことも出来ないの」

「じゃあ、この本読んじゃダメなの!?」


 もうすでに目を通し始めていたメイシュが慌てて本をしまう。


 何をやってんの……。

 だが、目を通したのは一瞬だけだったし、あれくらいならソーニャでも読み取れないから大丈夫だろう。


「ほどほどにしておかないと、脳が焼けるわよ」

「えぇ……」

「一応禁忌指定されている本とかは簡単に読まれないようにそういう『呪い』をかけておくものよ」

「そういえばそんな話もあったな……」


 言われて思い出すのは王立魔術師学校アカデミーの授業。

 本を授業中に読むのだが、解呪しながら読まないと失明してしまうという奴だ。


 うぅ……あの目を針で突かれる痛みを思い出すゥ……。


 エーファも同じことを思い出していたらしく、ひどく苦い顔をしていた。


「次に行きましょう」


 図書館の隣は大きながらんどうの空間があった。

 あったが、そこの地面には巨大な魔術陣が書かれていた。


「これは?」

「ここは『召喚の間』。悪魔との契約以前に使われていたところよ」

「『召喚』?」

「そ。別の世界の物をこっちに取り寄せるの」

「へー」


 いまいち上手く想像が出来ない。

 別世界の物を引き寄せるとはどういうことなのだろうか。


「でも、今は世界を渡るような『召喚魔法』を使える人がいないから使えないのよ」

「へぇ……」


 後ろの方でリーナとエーファが苦い顔をしている。


 エーファはともかくとしてリーナは世界を渡る悪魔だ。

 彼女ならば、この『召喚の間』を使うことも出来るのではないだろうか。


 まあ、罪がどうのとか言っていたし使いたくないのだろうけど。


「見せるものと言えばこんなものくらいかしらね。戻りましょう」


 サフィラはそう言って階を降りる。

 それに続いていたアイゼルたちだったが、前から歩いてきた騎士団の男たちとぶつかった。


「悪いね」


 とりあえず、アイゼルが謝罪しておく。

 今のは明らかに騎士団の方からぶつかってきたが、まあ事を荒立てる必要はないだろう。


「誰かと思えば王立魔術師学校アカデミーの学生たちか」

「しっかり前見て歩けよ」

「今のは騎士団のほうから……むぐぅ」

「メイちゃん。ここは謝っておこうよ」


 そうしておけば静かに終わるのだ。


「まったく、どうやって姫様に取り入ったのか」

「聞けばあの『落ちこぼれ』のⅥ組だそうじゃないか」

「俺たち騎士団を差し置いて、姫様は一体どうされたのか」

「たらし込まれたんじゃないのか」

「貴方たちっ!」


 サフィラの叱責が騎士団に飛ぶ。

 だが、それを騎士団の男は飄々と流した。


「姫様。貴方のやっていることはそういう誹りを受けるということですよ」

「何が言いたいの」

「簡単ですよ。そこにいる者たちが私たちより凄いと思わせれば良い」

「ええ。そこの『落ちこぼれ』たちが我々より強いと分かるのなら先ほどの言葉を撤回しましょう」

「何を……」

「簡単なことですよ。そこの男で良い。私たちの誰かと戦って勝てば私たちが謝罪しましょう。しかし、負けたなら我々騎士団が護衛を務めさせていただきますよ」

「言ったわね。後悔するわよ貴方たち。アイゼルはとても強いんだから!」


 いや、まあ騎士団の言うことも分かるんだけどさ。


「では、決闘場で戦いましょう」

「ええ、望むところよ。アイゼル、ぼっこぼこにしてあげて!」


 僕の意志は関係ないのね……。

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