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第2-4話 師匠、そして特訓

 時刻は夕方。貧民街スラムを一日周って結局異常が無かったのでそれをローゼに報告してアイゼルの授業は終わりである。


 アイゼルは太陽の沈み具合を見て、まだ時間があることを確認すると校舎の端。道場に向かった。

 百位以下の弟子しかとらないと明言しているノーマンからすると序列十五位のアイゼルは卒業したも同然なのだが、時折アイゼルはふらりと道場を尋ねてノーマンと数回刃を交えている。


 そうして分かったことだが、ノーマンは強い。アイゼルが『魔劍』を抜いても勝てるかどうかは分からない。それが、アイゼルにとっては何よりもうれしい。


 何しろ、まだ超えるための目標が目の前にあるということなのだから。


 「お久しぶりです。先生」

 「やあ、久しぶりだね」


 道場に入ると見知った顔がいくつか見えた。ダイムにシェラにニーナだ。みんなアイゼルを見ると軽く挨拶してきた。合宿に参加したメンツはその活躍を評価され全員の序列が上がっている。


 それでも、ノーマンの指導が受けたくてここに来ているのだ。これだけでノーマンの人望が分かると言うもの。


 アイゼルを見た一年生と二年生が一斉にひそひそと喋り始める。

 まあ、それもそうだろう。

 かつての序列最下位ラストワンが、学校きっての落ちこぼれが急に序列十五位に、十位以内に手を伸ばせる範囲まで跳ね上がったのだから有名にもなるというものだ。


 「今日は先生と手合わせ願います」

 「うん。良いよ。互いに魔術無しの一本勝負だ」


 そう言ってノーマンは少しだけ練習中だった教え子たちを止めて道場の端に寄せた。


 「何もそこまでしなくても……」

 「君と僕が戦うんだ。これくらいは必要だろう?」

 「大げさですよ」


 そう言ってアイゼルは安物の剣を抜いた。


 「うん、審判は……ニーナ。君が務めて」

 「はいっ!」


 ニーナは良い返事を返すと、アイゼルとノーマンの間に立った。


 「では、始めっ!」


 合図を出した瞬間に互いに地を蹴った。中心でアイゼルの刃とノーマンの刃がぶつかり合うと、激しい衝撃波と重たい金属音。


 「ん、強くなったね」

 「まだまだこれからですよ」


 アイゼルはそのままノーマンの剣を滑らすように逸らすと、足払いを仕掛ける。ノーマンは剣が滑っていくの感じた瞬間に跳躍。アイゼルの足払いを回避する。


 当然、アイゼルはそれが上手くいくなど毛頭信じていない。地面から追撃の刃が直線状に上がっていく。全身の筋肉を駆動させた強い一撃は、しかし中空ですばやく一回転したノーマンの振り下ろしとぶつかり合う。


 「相変わらず軽業みたいな動きですね」

 「そうでもない。これくらいは誰でも出来るよ」


 一瞬の膠着。だが、下と上ではやはり上からの攻撃に分がある。ノーマンはそのまま着地すると同時に剣を弾き上げアイゼルの身体を吹き飛ばす。


 「……すげぇ」

 「今の動き見えたか?」

 「いや、全然」

 「ノーマン先生、容赦ねぇ……」


 道場の壁にぶつかる寸前で踏ん張ったアイゼルが見たのはこちらに向かって襲い掛かるノーマンの姿。その速度はアイゼルが吹っ飛んだ速度とほぼ同じ。魔術なしでそこまでの速力を出せることに呆れながらもアイゼルはその攻撃を真っ向から受けた。


 瞬間、アイゼルは『魔劍』を鞘ごと外すと二つ目の剣でノーマンの脇をそして右足で足を払うと同時に剣をぐるりと回す。


 「……うぉ」


 てこの原理を使ってノーマンの身体がぐるりと宙を舞う。アイゼルは素早く納刀。安物の剣をまっすぐ振り下ろす。だが、それより素早く地面を転がったノーマンには当たらずアイゼルは地面を穿った。


 素早く剣を引き抜くとノーマンと向き合った。


 「アイゼル先輩凄いね。ノーマン先生と普通に戦ってる……」

 「序列最下位ラストワンから十五位でしょ? 実力隠してたんじゃないの?」

 「先輩頑張ってー!」


 『ほう、結構人気があるではないか』

 (集中してるんだから黙っててくれ)

 

 黄色い声援はうれしいが、今はいらない。


 今考えるべきはどうやってノーマンから一本奪うかということ。


 「うん、アイゼル君。君なら良いだろう」

 「何がですか」

 「いや、何そろそろみんなにも見せておかないと思ってね」


 そう言ってノーマンが笑う。


 ……絶対何か仕掛けてくる気だ。


 「アイゼル君。剣士と魔術師、どっちが強い?」

 「近距離なら剣士、遠距離なら魔術師です」

 「それは一体どうして?」

 「剣士は近距離なら魔術師の詠唱よりも速く剣を振るうことが出来ますが、遠距離になると魔術師に対する攻撃手段が無いからです」


 これには一般的な(・・・・)という枕詞が付くが。


 例えばアイゼルと戦ったイグザレア・アラートなどはこれには該当しない。彼には近距離でも剣士と渡り合えるだけの速度を持った魔術を持っている。


 「そう。アイゼル君の言う通りだ。しかし、裏を返せば遠距離の攻撃手段さえ持っていれば剣士は魔術師に勝てるということになる」

 「ええ、ですから僕たちは魔術を学ぶんですよね?」

 「しかし、限定的に魔術が使えない状況が来るかもしれないだろう? そんな時にどうしたら良い?」


 そう言ってノーマンは構えた。


 ……やばいッ!!


 アイゼルの第六感がそう告げた。


 「こうすればいい」


 そう言ってノーマンは15メルは離れたところで剣を振るった。アイゼルは全力で身体をひねって跳躍。

 ノーマンから放たれた(・・・・)斬撃を回避して着地。その刹那、破壊音とともにアイゼルの真後ろの壁が大きく切り刻まれた。


「さて、これは剣術の一種の境地のようなものだ。君たちもいつかこの階位レベルにこれるように努力するように」

「あの、先生。魔術は禁止ですよ?」


 そう言って審判のニーナが尋ねる。

 

 だが、アイゼルはそれを静止した。


 「今のは、魔術ではないんですね?」

 「ああ、技術だよ」

 「……そうですか」

 「しらけっちゃたし、終わりにしよう。引き分けっていうことでどうかな?」

 「ええ、そうしましょう」


 二人がそう言って握手を交わした瞬間に、張り詰めた糸がほどけたようにノーマンの弟子たちが好き勝手なことを言い始めた。


 「ノーマン先生がアレ(・・)撃った後の隙でアイゼル先輩が攻撃してたら勝ってたよ」

 「いいや、ノーマン先生があらかじめ撃つって言ったからアイゼル先輩は避けられたんだ」

 「アイゼル先輩の方が強いよ!」

 「ノーマン先生の方が強い!!」


 言い争っている二人を後目にアイゼルはノーマンに礼を告げ道場を後にした。


 『いい感じに引き締められたか?』

 (ああ、いい気分転換になったよ。これくらいしないと、やっぱり衰えちゃうからね)


 アイゼルがイグザレアと戦ったときに張り詰められた神経は戦うことによってたびたび思い返している。そうしないと、あの時の感覚を忘れてしまうからだ。


 「あれ、アイゼルどうしたの?」

 「メイちゃん? どうしたの、こんな時間まで」

 「うーん、ちょっとね。これから帰るの?」

 「うん。下校しようかなって」

 「なら一緒に帰ろうよ!!」


 そう言ってメイシュがアイゼルに抱き着いてくる。


 それ自体はうれしいのだけど、この子は少しは普通に出来ないのだろうか。


 「ほう。楽しそうだな、あーくん」

 「そ、ソフィア……」

 「これから下校なら私と一緒にも帰ろうではないか。何、気にすることはない。両手に華だ」

 「ありゃ、あなたが首席さん? 私メイシュ、よろしく!」

 「あぁ、よろしく(・・・・)


 そう言って二人はがっちり握手を交わす。


 ひぃ……ソフィアの目が笑ってない……。


 目以外は綺麗な笑顔でソフィアがアイゼルの隣に来るとガッチリ腕をホールドして有無を言わさずアイゼルを動かす。


 「あー、待ってよー」


 そう言ってメイシュが追い付いてくるが、アイゼルはひどく生きた心地がしなかった。

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