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第2-3話 貧民街、そして子供

 「んで、ここが貧民街。あんまり人をじろじろ見ないようにね」


 潜入捜査ではないので、王立魔術師学校アカデミーのマントを羽織って二人は貧民街スラムを歩いていく。

 ここは、王都の中でも一際に治安が悪い。騎士団も、自警団も、治安維持部隊もここまでは来ない。


 貧民街は、普通の王都から少しだけ飛び出したように作られた場所にある。

 本来は別の用途があったらしいのだが、今では身分の低い者。あるいは、金のないものが集まって生計を立てている。貧民街と市街には大きな壁と門があり、そこを騎士団が常駐して警備している。


 一応同じ王国民なので、市街と貧民街スラムを通るのに許可証も何も要らないが、貧民街スラムから市街に入るには厳しいチェックが入る。そうして、貧民街スラムに住む人間は貧民街スラムから出ることが出来ずに貧困階層はひたすらに再生産されていく。

 公然とそれがまかり通っているあたり、人間はやはり平等な世界など作ることが出来ないのだろうとも思う。


 「ちょっと、あんまりくっつかないでね」

 「何でー? いいじゃん、減る物じゃないし♪」

 「歩きづらいの」


 おっぱいが腕に当たっているのが気になって集中できないのである。


 貧民街スラムの中はひどく臭った。

 恐らく身体を洗う習慣が無いのだろう。いや、身体を洗う物もないのだろう。


 ここに住むものは悪魔との契約者もいるだろうが、そのほとんどが寵愛に恵まれなかった者。あるいは、そもそも契約出来ない者など、王国にとって不必要と切り捨てられた者たちだ。


 そんな貧民街スラムの人間たちは王立魔術師学校アカデミーの服を着ている二人を見ると立ちどころに姿を隠すか、あるいは露骨に敵意のある視線を向けてくる。


 「恨まれてるの?」

 「まぁ、恨まれるようなことを王都はしているからね。それもしょうがないよ」


 嫌なところを一か所に集める。


 『やっていることは亜人たちにしていることと同じだな』

 (まあ、殺さないだけ人道的・・・かもね)

 『さて、どうだかな』


 グラゼビュートは何か言いたげに、フンと鼻を鳴らした。


 「この人たちは王様に文句は言わないの?」

 「言ったところで握りつぶされるよ。ここにいる人たちが全員束になって王都に反旗を翻したって『王家直属魔術師ロイヤル・ウィザード』の一人にも勝てない」

 「そっか。何だか、悲しいね」


 そう言ってメイシュは沈んだ顔をした。


 

 アイゼルたちがここに訪れたのは、他国からの間者が潜り込んではいないか。何かしらの工作が行われていないかの調査である。『知覚魔法』のある彼がまっすぐ街を歩くのが何よりも優れた検知法となる。


 下手にここに住んでいる者に聞くよりも速いだろう。


 「ところでアイゼルは何をしているの?」

 「仕事」


 黄金の瞳をより、黄金に煌めかせながら街を歩いていく。今のアイゼルが表示ポップアップ出来るのは七つ。その全てを使って貧民街スラムの中を探知していく。


 「えっ、私も何か手伝ったほうが良い!?」

 「いや、メイちゃんは初めてだからどんな感じでやるかを見ておいて」

 「うん、分かった!」


 そう言って頷いたメイシュの胸が揺れた瞬間、


 【メイシュの3サイズを表示しますか? Yes/No】


 知覚魔法の表示アシスト


 余計な物表示しなくていいから元の作業に戻れ。


 アイゼルが念じると表示ポップアップが消えた。


 そういうのはもっと後で良いの。




 「特にそれらしいものは無いなぁ」


 貧民街スラムの中を半分ほど歩いたが、これといって何かがあったわけではなかった。


 その代わりにあったのは、どこまでも動かない人。人。人。働いている……といっても市街から出るゴミ漁りだがそれを行っているのはほとんどが子供だった。大人は働いていない。


 それが、働けないのか。それとも働きたくないのかはアイゼルの知るところではないが。


 子供たちのほとんどが十分な栄養が取れておらず骨と皮ばかりだ。ここでは、毎日のように栄養失調や感染症で人が死んでいく。そして何よりも体力のない子供はまっさきにそれらの餌食となるのだ。


 アイゼルはそんな子供たちを横目に見ながら進んでいく。


 『気になるのか』

 (まあね)

 

 アイゼルは不幸になっていい子供はいないと、心の底からそう思っている。だが、ここにいる子供たちに今のアイゼルは何が出来るだろう?


 せいぜいが十人に一食分の食事を提供できるくらいだろう。それをして何になるというのだ。同情はもっとつらい現実を突き付けてくるだけだ。


 「ここにいる子供たちって将来どうなるの?」

 「どうにもならないよ。半分は大人になるまでに死ぬ。残った半分はここで生きていくんだ」

 「そっか……。それでも子供は作るんだね」

 「それしかここには娯楽が無いからね」

 「…………そう」


 メイシュはひどく冷たい目で言い放った。


 「え?」

 「……何でもないよ」


 今、彼女はなんと言っただろう?


 アイゼルの聞き間違いでなければ『おいしそう』とは言わなかっただろうか?


 いや、気のせいだろう。

 多分、『可哀そう』。とかなんじゃないだろうか。


 「そういえばメイちゃんの魔法ってなんなの?」

 「魔法? 私の?」

 「うん。知っておいたほうが良いかなって。教えたくなかったら別に良いよ」

 「私の得意な魔法は『騙す』ことだよ」

 「?」


 精神干渉系とかだろうか?


 「ふふっ、また時が来たら教えてあげるよ。そういうアイゼルは?」

 「目だよ。色々見通す魔法」

 「へぇ……。それにしては、へんな『劍』持ってるんだね」

 『変とは何だ! この劍は俺の――』

 「ああ、これ? 鍛冶屋で安売りされてるから買ったんだ」


 そう言ってアイゼルは安いほうの剣を見せる。


 「え、あっ、そうなの……」


 あれ? そんなに反応が良くない。


 『……おい、アイゼル。多分『魔劍』の方だぞ…………』

 (…………)


 素で安売りの方かと思っちゃった。


 二人はそうして、一日かけて貧民街スラムを見回りした。


 結局、メイシュがアイゼルから離れることは無かった。

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