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第2-2話 神聖国、そしてメイシュ

 「おは、おはよう。アイゼル君」

 「アイゼルでいいよ」

 「少し背が伸びたのだ?」

 「そうかな。自分じゃよく分からないけど」


 いつものように登校すると、既にエーファとリーナが登校していた。

 彼女は去年の後期序列試験により、序列五位にまであがっていた。何でも、夜ならば月が出ていなくても変身・・出来るようになったからだという。


 確かに変身さえできれば彼女は強い。五位という順位も納得だ。


 片やアイゼルはというと、魔劍に頼る戦闘法を辞めノーマンに三ヵ月みっちりしごかれることによって頼りない『知覚魔法』と普通の剣の戦い方を何とか身に付けつつある。そのため、三年生が始まった時点の序列は十五位。十位以内に入ることは出来なかったが、それでも三期連続で序列最下位ラストワンにいたとは思えないほどに順位を跳ね上げた。


 ソフィアは安定の一位。十五位になった時真っ先に褒めてきたイルムは序列4位にまであがっていた。イルムの動きはよく分からないが、きっと彼は無能が嫌いなだけなのだろうという結論を出して放っておくことにした。


 「そ、そういえば、辺境任務はどうでしたか?」

 「それが特に問題はなかったんだけど、よく分からない男たちに追いかけられていた貴族の女の人を助けたよ」

 「よく分からない男?」

 「うーん、なんか『石』を胸元にセットしようとしていたんだよね。知らない?」

 「それは神聖国の秘術ではないのだ?」

 「秘術?」


 神聖国とはかつてフェルメール王国の一部の地域であったが、王国が悪魔の力に手を出したことによって賛成派と反対派が決別。悪魔の力に頼らない方法で力を手にする方法を探しているらしい。


 「リーナ、知っているのか?」

 「多分エーファの方がよく知っているのだ」

 「そんなに、だよ……。私が知っているのは任務の途中で軽く耳にしただけだから」

 「後学のために教えてくれよ」

 『お前の脳みそで覚えられるのか?』

 (こう見えても学業は元から優秀なの)


 序列最下位ラストワンなのに首の皮がつながっていたのは冗談抜きで学業成績が良かったからだったりする。


 「『石』っていうのは、多分『呪皇塊ラグス』のことだと思う……」

 「『呪皇塊ラグス』?」

 「うん……。高濃度の指向性・・・を持った、魔力の塊だって言われてるの。例えば、身体強化の指向性を与えた『呪皇塊ラグス』なら装着した人の身体能力を上げる。魔術の指向性を与えた『呪皇塊ラグス』なら魔術が使える様になる」

 「へぇ……。めっちゃ便利だね。どうやって作るの?」

 「作り方は……一切が不明だけど」

 「だけど?」

 「噂によると、死に至る人間が望む『助かりたい』という意志が……魔力に指向性を与えるみたい」

 「……それは」

 「分からない。あくまでも、噂、だから……」

 『本当なら、悪魔よりもよっぽど悪魔らしいではないか』

 (天然・・物だけ使ってるって可能性もあるから、まだ断定はできないけど神聖国は王国を敵視していて常に軍備の拡大に力を入れている。だから)

 『なら、養殖の可能性もあるな』


 それは、人体実験だ。


 まあ、あくまでも噂だから本気で考える必要もない。もしかしたら、もっと複雑な工程を経て科学的に作られているのかも知れないし。敵国への憎悪ヘイトを煽るために対象国への良くない噂を国内に流すなどありふれた話だ。


 『おい、アイゼルッ! 逃げろっ!!』


 唐突にグラゼビュートが叫ぶ。突然のことに対応が追い付かず、アイゼルが固まった瞬間、ガタガタとドアが開けられる。


 「うーん? ここが私の教室?」


 そう言いながら、見た事のない少女が入ってきた。

 特筆すべきはまず、その大きな胸。アイゼルの知っている中で一番巨乳なのはローゼだが、それに勝るとも劣らない素晴らしいものをお持ちである。ちなみに一番の貧乳はソフィアである。

 次に特筆すべきなのは、そのお尻だ。これも大きい。安産型といわれる体形なのに、対するお腹は驚くほどに細い。


 まさに男の理想みたいな体形をした少女が、それらを見せびらかすような恰好で入ってきた。


 (エッチだ……!)

 『馬鹿っ! 速く逃げろっ!!』

 (何をそんなに焦ってんだよ)

 「ねえねえ、そこの男の子。この教室って席決まってるの?」

 「いや、決まってないですよ。自由です」

 「そっか。ああ、初めましてだね。私の名前はメイシュ。気軽にメイちゃんって呼んでね」

 「ご丁寧にどうも。僕の名前はアイゼル・ブート。アイゼルって呼んで。そしてこっちにいるのが」

 「え、エーファです。エーファ・ラクトーニャです」

 「リーナなのだ」

 「ほええ、『召喚魔法』の使い手ですか!? 初めて見ました! 握手してください」

 「あ、ありがとうございます」


 ぶんぶんとメイシュがつないだエーファの腕を振るう。


 「それで、メイちゃんはどうしてここに?」

 「あ、そうそう。それなんだけど、私もともとⅥ組なんだよ。そろそろ出席しないと三年生からの試験ヤバいから出てきたんだ―」

 

 そういって彼女はカラカラと笑った。

 つまり彼女は、Ⅵ組に登校してこなかった三人のうちの一人だ。


 『見間違いか……?』


 笑うメイシュを見ながらグラゼビュートは首を傾げた。


 (見間違いでもなんでもいいけど、そう騒がないでくれよ)

 『すまない……』


 珍しくしおらしくなっているグラゼビュートを物珍しく見ているとローゼが教室に入ってきた。


 「あら、入学式以来かしら」

 「お久しぶりです。メイシュです。今日からしばらく登校しようかと思います」

 「そ。頑張ってね」


 二年ぶりに生徒が登校してきたというのに軽いものである。まあ、これも王立魔術師学校アカデミーの特色といえばそうなのだけれども。


 「さて、そろそろみんなあの時期だってことは分かっているわよね?」

 「何の時期ですか?」

 「国王の誕生祭よ」

 「あぁ……」


 王立魔術師学校アカデミーは、王立であるため国王の誕生祭には出席する。これもちゃんと登校扱いされるのだ。


 『国王とはあれか。五体の悪魔と会話できるというやつか』

 (そうだよ。年々やつれていってる人ね)

 

 アイゼルは二回しか見た事ないが、それでも一回目と二回目でひどく身体が細くなっていたのを覚えている。


 そうか、そろそろそんな時期なのか。


 「というわけで、祭典時を狙って国王暗殺や他国からの間者が来る可能性があるので、王立魔術師学校アカデミーとしては、警戒を強めていきたいの。だから、三年生にもなった君たちにも協力してもらうからね?」

 「はーい」

 「はいっ!」


 王立魔術師学校アカデミーは一年、二年と基礎を学ぶと三年次からは授業がほとんどなくなり、実践に回される。その一環がこれなのだろう。


 「はーい。というわけで班分けね。ソフィアちゃんが元のクラスに戻っちゃったから組み分けづらいわね」

 

 ローゼはそう言うと、アイゼルを見てメイシュを見た。


 「うん、じゃあアイゼル君とメイシュさんは一緒に組んで東側を回って。エーファちゃんとリーナは一緒に西側を回って頂戴」

 『…………』

 「はい。じゃあこれで今日のホームルームは終わり。終業時にはここに戻ってくることね」

 

 ローゼはそう言うと、Ⅵ組の教室から出ていった。

 「やったぁ! アイゼルと一緒だ!!」


 大きな胸を揺らしながらメイシュが喜ぶ。


 ……ええ、僕これからコイツと組むの……?

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