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第12話 依頼、そして闇市場

 「なっ、なんで、ここにソフィアが」

 

 アイゼルの言葉にローゼが笑った。


 「ほら、彼女って序列一位じゃない。それで、学校の計らいとして貴方たちの成績を上げるための起爆剤としてっていうのと、ソフィアさんにも『魔法使い(・・・・)』がどういう存在なのかを知ってもらったほうが良いかなって判断なのよ」

 「……そ、そうですか」

 「席は自由に座って良いからね、ソフィアさん」

 「はい。では、ここで」


 そう言って座ったのは、アイゼルの真横。


 「何でそこなんだよ。他にも椅子はいっぱいあるだろ……」

 「そういうなよ。冷たいじゃないか」

 「むう……」

 

 エーファはそう唸ると、自分の席をアイゼルの横に座った。


 「何でお前まで」

 「何でも……ない」

 「アイゼルには関係ないのだ」

 「ふふっ、仲が良いのは良いことよ。さ、朝のホームルームを始めるわ」


 ローゼはそれには何も言わずに普通に授業を始めた。いや、真横に座られると荷物が置きづらくて困るんだって……。


 Ⅵ組は人数のわりに、教室は他のクラスの広さと同じだ。そのため、アイゼルの周りに三人固まりそのほかの席はがらんどうという少し不思議なことが起きている。

 

 『両手に花ではないか』

 (……本気で言ってるのかよ)

 『片やお前の匂いをたどって家に来る少女と、片や『従一位ファースト・ワン』と契約して痛々しい変身をする少女じゃないか』

 (痛々しいって言うな)

 

 いくら顔が良くても癖が強すぎて勘弁してほしいところである。


 「さて、今日は課外授業の日よ」

 「課外授業? そんなの聞いてないですよ」

 「ええ、だってあなたたち狭間の森にいたじゃないの」

 「えぇ……」

 

 狭間の森にいるというなら、昨日帰るときに教えてくれればいいものを。とも思うが、それでは生徒たちのためにならないからと黙っていたのだろう。任務はいつ来るか分からない。そのため、魔術師になろうとおもうなら、とりわけ王家直属魔術師部隊ロイヤル・ウィザードに入らんとするならば、突然の任務などは楽にこなせなければいけない。それが、任務ではなく課外授業なら尚更だ。


 さて、ここで王立魔術師学校アカデミーの課外授業について説明しよう。通常の意味での課外授業はクラブ活動や、部活等のことを指すのであるがこと王立魔術師学校アカデミーにおいてはその意味が変わってくる。王立魔術師学校アカデミーが指す課外授業とは、王都もしくは王家が出した依頼を解決することだ。


 そして、今回はこの二年Ⅵ組に白羽の矢が立てられたというわけである。


 「もしかしてソフィアがここに来たのは、そのため……?」


 真理を悟るアイゼルをよそに、ソフィアがローゼに課外授業の中身について尋ねた。


 「先生。今回の課外授業は何をするんですか?」

 「最近、王都の闇市場ブラックマーケットで悪魔の力を売買する輩がいるらしいの。それを捕まえて来いって依頼だわ」

 「まためんどくさそうなのを……」

 「そう言わないの、アイゼル君。課外授業の出来次第では序列の順位も考えるって学長が仰ってたわ」

 「やらせていただきます!」

 「うん、その意気よし」

 『わっぱ、お前簡単に担がれているぞ』


 グラゼビュートのアドバイスも何のその。落第の危機が無くなると聞けばアイゼルにはもうその手段を選んでいられるだけの余裕など残っていないのである。


 「じゃ、今日はここまでだから。あとは各自で依頼を解決すること。頑張ってね」


 そう言ってローゼはホームルームを締めると教室から出て行った。


 「悪魔の力を売買するって言ってたけど、そんなのに引っかかる奴とかいるか?」

 「いるから今回王都からの依頼が持ち込まれたのではないか? というか、闇市場ブラックマーケットってどこにあるのだ?」

 「わっ、私も、教えて、欲しい……です」


 ああ、そうか。この二人は闇市場ブラックマーケットなんていかないものな……。


 「よし、もう行くか」


 依頼の制限時間が言われなかったということは、依頼の期限は今日中ということだ。無茶な依頼だとは思うが、逆に言えば王立魔術師学校アカデミーの学生でも出来るだけの簡単な依頼ともいえる。


 いや、王立魔術師学校アカデミーの学生ならばこれくらいは出来ないと困るというべきか。


 ともかく、一行は王立魔術師学校アカデミーの正門から出て、王城の端を回るようにして、ぐるりと反対側にやってくる。途中の市場で、王立魔術師学校アカデミーの学生だと分からないように、服を買ってそれを三人とも上から羽織った。


 「ど、どこまで……歩くの?」

 「そろそろ着く」


 そう言ってアイゼルが停まったのは、市場の路地裏の最奥にあるレンガの壁だった。


 「……壁だぞ? あーくん」

 「まあ、見てろって」


 そう言って、アイゼルが壁を三回ほど叩くとそのまま、壁に踏み込んで通り抜けた(・・・・・)


 「……視覚偽装か。私の目を欺くとは……凄いな」

 

 そう言ってソフィアはアイゼルの後を追いかけて壁に向かって足を踏み入れた。それに遅れまいとエーファも二人の後を追いかける。

 中に入ったアイゼルはまず、漂ってくる異臭に鼻をしかめた。それは後から入ってきた二人も同じだったようで。


 「……嫌なにおいだな」

 「そう言うな。すぐになれるさ」

 「アイゼルはどうしてこんな場所を知っているのだ……」

 『確かに、俺も気になるな』

 「まあ、いろいろあったんだよ」

 「色々で知れるような場所じゃないのだ」

 

 言えるわけがない。序列試験前に違法薬物でドーピングしようとしていたなんて。


 「あんまり、他の奴らと目を合わせるなよ」


 そう言ってアイゼルは真っ先に進み始めた。それを慌ててエーファが追いかけ、その後ろにソフィアがついた。


 闇市場ブラックマーケットは位置が隠されているだけあってその分、異常だった。アイゼルたちは、目深のフードを被って顔を分からなくしているが、ここではそれが普通スタンダード。むしろ、顔を出している人間を探す方が難しい。


 市場には、よく分からない干物を売っている人間。見ただけで普通じゃないと分かる薬物ドラッグ魔薬ポーションを売っている人間。違法改造を施された武器、呪物、そして何よりも、


 「奴隷……」

 「あんまり近づくな。厄介ごとに巻き込まれるぞ」

 『ほう、奴隷制は未だ健在か』

 (いいや。王国では奴隷の所持は違法だよ)

 『なるほど。これは闇市場ブラックマーケットならでは、というわけか』

 (ああ。そもそも労働力としての奴隷は必要ないんだ。何しろゴーレムほうが良い。不満も言わず、人間よりも力が強く、そして休まず働き、コストも低い。だから、労働力として奴隷が使われることはもうないんだ)

 『なら、この奴隷たちは……そういうことか』


 店の外から見えた奴隷たちは、全員女でなおかつ扇情的な服を着せられていた。


 (『色欲ラクシュメダイ』との繋がりを強くするためにはそういうこともいるっていう噂もある)

 『ふうむ。昔はそうだったかも知れないが、あやつとて契約者数もそれなりにいよう。今は必要とは思えぬがな』

 (ああ、買うときの言い訳みたいなものだと思ってる)


 そして、不気味なのは平日の午前中だというのに客層がそれなりにいるということだ。


 「あ、アイゼル君。あれは……なん、ですか?」


 そう言ってエーファが指さしたのは、冒険者ギルドにも似た形をした建物。


 「あれは暗殺者に依頼する場だな。あんまり指を指すなよ。睨まれるぞ」

 「ひっ……」


 こちらにはソフィアがいるからもめ事になっても大丈夫だとは思うが、一応睨まれないようにした。闇市場ブラックマーケットにいるのは、柄が悪いという人間ではない。表に出られないような人間がいる場所だ。そのため、めったなことでは声をかけられないが、それでも怖いものは怖いのだ。


 「あ、アイゼル、本当にここであっているのだ……? それっぽい人が見当たらないのだ……」

 「大丈夫だって……。もしかしたら、時間帯が悪かったのかも知れない。夕方とかに出直すか?」

 

 闇市場ブラックマーケットがもっとも活発になるのは、言うまでもなく夜だ。いまはまだ昼前ということで、まだ開いている店も少ない。人が少ないほうがトラブルにならないと思ってきたのだが、それが裏目に出たかも知れない。


 「……情報屋にでも行ってみるか」


 そう言って漏らしたアイゼルが目にとめたのは、一人の男。手には水晶、テントの傍らに立ちぼんやりとした顔であたりを見ていた。


 「どうした、あーくん」


 言語化できぬ閃き。


 「……見つけた」

 「は?」

 「あの男だ」

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