最終話 そして彼らの英雄譚
「入学式どうだった?」
「上手くできたと思ってるよ」
アイゼルがいるのは王城。サフィラの私室に居た。
「あんたの【知覚魔法】は便利よね。カンペ映せるんでしょ?」
「まあね」
「羨ましい。私にも欲しいわ」
「30分だけなら映せるよ」
「いや、あんた王国にいないじゃない」
「確かに」
アイゼルは先代『賢者』から全ての仕事を受け継いだ。その時、知ったのだが『賢者』は王国内に現れる危機に立ち向かうだけではなく、王国傘下にある国が小競り合いに巻き込まれた時に威圧する事や、神聖国との国境沿いで睨みあうということも必要だと知った。
「けど、ここ最近はそんなに仕事ないけどね」
「どこの国も復興優先だからね」
「あれから六年、か」
アイゼルもサフィラもどこか遠い目をしていた。『起源』を倒してから、行き場を無くした『星界からの侵略者』たちはこの世界にやってきた。その残党狩りに王国だけで一年。
先代『賢者』は、その後に王国傘下の国々に支援に行ったらしいが、詳しい話は聞いていていない。
「まだどっかで元気にしてるんだろうなぁ」
「まあ、してるでしょうね」
700年の時を生きる虚栄の悪魔はアイゼルに『賢者』を譲ると、「少し旅に出てくる」と言って笑いながら出ていった。
「そういえば、『大罪の悪魔』たちがボケ始めたって聞いたけど本当?」
「マジよ。まぁ『星界からの侵略者』たちを倒すことだけに700年生きてきた連中だからね。そうなるのも仕方ないというか」
「まったく、後人を育てないからそうなるのだ」
窓際で風に当たっていた貪食の悪魔が戻ってきてそういった。
「……僕はもう育ってると思うけど」
「馬鹿言え。まだまだだ」
「……顕現しておきたいだけだろ」
「何かいったか?」
「いんや」
『大罪の悪魔』たちがボケ始めたおかげかどうかは知らないが、貪食の悪魔は普通に魔劍から出入り出来る様になった。
多分、アイゼルも悲嘆の悪魔になろうとすればなれるのだろうが、6年前から一度も悪魔として顕現したことは無い。
もう、そんな必要は無いからだ。
「アイゼル様。皆がそろわれました」
その時、侍女が部屋に入ってきた。アイゼルは立ち上がると、貪食の悪魔に魔劍の中に戻るように促した。
「じゃあ、行ってくるよ」
「次はいつ来てくれるの?」
「暇なら明日にでも」
そう言った瞬間に、アイゼルの肩に手が回された。
「楽しそうな話をしているではないか。なぁ、あーくん」
「ソフィアか。部屋にいたんじゃないの?」
「少しだけあーくんを驚かせたくてな」
「シェリーの晴れ姿、見ればよかったのに」
「出来れば見たかったが、任務が終わったのが先ほどでな。急いで戻ってきたんだ」
サフィラに手を振りながら私室を後にする二人。
向かう先は、ただ一つだ。
「あれ、ソフィアさんもう来られてたんですね」
「この間、空間転移魔術を開発したと聞いたのだ」
そう言って合流したのは、王家直属魔術師部隊二番隊『桜花』隊長のエーファだ。もう夜でなくても自由に変身出来る様にはなったが、少女という歳でも無いだろうと思う。
もう魔女で良いんじゃないかと思ったが、それに関してアイゼルはノータッチを貫いた。
「まあ、まだ実用には足りんがな。六年前の帰りに使った転移魔法の応用さ」
「ううむ。凄いのだ」
そう言いながら書庫の前を通った時に、中からメリーが飛び出してきた。
「おおっ、タイミングぴったり!」
一人で拍手するメリーの後ろにいる大量の三角頭巾集団から声が上がる。
「隊長、待ってください!」
「隊長、制服着てくださいよ!」
「隊長、死刑囚の精神解剖はいつ許可されるんですか!」
「うるさいよ!! これから大事な仕事があるんだから!」
「「「ちょっと隊長~~」」」
あの変人集団である五番隊『秋水』の隊長を普通に努めているあたり、メリーもだいぶ変人なのだろう。常識人が一番おかしいって聞くし、案外メリーが最も四番隊に近い人間なのかも知れない。
『賢者』になった後、アイゼルは村の子供たちの居場所を探した。大多数の者は、賢者の実験体になっていたが、生き残った少数は鉱山などで奴隷として扱われていたのでアイゼルが直々に出向いて解放した。
今では生き残りたちが、村の跡地に新しく村を建設しようとしているらしい。アイゼルも『賢者』を引退したらそこに住もうと思っている。
「元気ですね……。皆さん」
「どうもケースさん。お久しぶりですね」
「ちょっと『賢者』様。貴方僕より年上なんですから敬語とか使うのやめてくださいよ」
「でも、王家直属魔術師部隊歴は僕より上ですし」
「調子狂うなぁ……」
三番隊『橘花』隊長は、引き続いてケース・ラドラッタが務めている。というか、アイゼルたちの代に王家直属魔術師部隊の隊長を務めたいという実力者がいなかったのだ。
「これで全員揃ったことですし、行きますか」
「そうだな」
アイゼル達が向かうのは『対話の間』の上にある一つの部屋。それは先代『賢者』が引退するときに残した置き土産。
アイゼル達は扉を開けて部屋の中に入る。窓一つない、完全に締め切られた真っ暗な部屋の中に浮かぶのは無数の星々。
「これが……」
その光景を始めてみるケースが声を漏らす。
それに目を奪われているのは、ケースだけではない。一度見たことあるアイゼル以外の全員がその光景に目を奪われていた。
『本当にやるんだな?』
(ああ。『起源』の脅威は終わってないからね)
『尻拭い、か』
あの時、行き場を無くした『星界からの侵略者』たちが逃げ込んだのは、アイゼルたちの世界だけではなかったのだ
(どっちかというと、僕たちにも原因はあるよ)
星に見えるのは一つの世界。
先代『賢者』が残したのは、異なる世界に容易くアクセスすることが出来る部屋だった。だから、彼らは人知れず『侵略者』たちを狩っていく。
「それじゃあ、助けに行きますか」
「「「「了解!」」」
そして、アイゼルたちは星の一つに飛び込んだ。
完!!!
後書きは活動報告にて