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いよいよ獣人族のリーダーとのご対面。
ルルスにはお留守番してもらおうかとも思ったけれど、姉妹でやってきたのに1人だけで謁見するのも変かなと思ったので連れてきた。
余談だけれど、今のところルルスは獣人の集落に来て、僕以外の人物と会話していない。
そのことに特に意味はないらしいけれど、ショックを受けて僕以外と話せないという話が現実味を帯びたのでここから設定を派生させられないかと一人楽しんでいた。
リーダーさんは集落の中心にある最も大きな屋敷で待っているらしい。
最初に作られた建物だからか、リーダーが住む建物だからか、他のところに比べるとかなりしっかりしたつくりの建物だ。
端の方の小屋とか、下手したらドア開かないからね。
無理やり開けて中に入っていった人を何人も見かけた。
何ならドアがないところすらあった。なんかこう、雨風しのげれば後はなんだっていいという野性味に溢れている。
中も小奇麗にしていて、装飾もそれなり。
ワンルームなんてモノではなく、沢山の部屋を擁している。
昨日のクマさんに連れられて、ひときわ大きな扉を通り抜けたら、そこはなんだかだだっ広いところだった。
おそらく謁見の間なのだろうけれど、玉座のようなものはなく、とっても大きなテーブルが置かれている。
その周りに椅子がいくつもあって、作戦会議室と言った方が良い気がしてきた。
尋ねたいところだけれど、テーブルの向こうに大きな獣人がいかつい顔でこちらを見ているので、先にこちらをどうにかした方が良さそうだ。
この人がリーダーなのだろう。
気になる動物は、やっぱりと言うかライオンっぽい。
この世界にライオンは居るのか、と思いはしたけれどそう言えばグリュプスが居たね。
よく聞くのはグリフォンかもしれないけれど、要するに獅子の下半身持ちだ。
隣にはリーダーの子供と思しき男女もいる。
「来たか。情報を持ってきたって言うのは、お前で良いんだな?」
リーダーっぽい人が荒っぽい口調で尋ねてくる。
今までの王族とはまた別のタイプっぽいけれど、相手が獣人だと思うと不思議だとは思わない。
「その通りです。失礼だとは思いますが、貴方様がウィリディスの獣人の王でよろしいでしょうか?」
「リーダーと呼ばれてはいるが……そうだな。お前は?」
「わたくしの生家になりますのは、陛下の方ではすでにご存じかもしれませんが、この地を発って2~3日行った所、エルフの住処の1つでかつて密命を帯びた一族でございます。
今となってはわたし――フィーニスと、妹のルルスしか生き残っておりません」
「……そうか」
ちょっと外郎売っぽく話してみたけれど、ポカンとされてしまった。
聞き取れるような活舌だったと思うけれど、それでも早口だし、面を食らったのかもしれない。
それとも自動翻訳が悪さでもしたのだろうか。
言いたいことは伝わったはずなので、再起動してもらうのを待つとしよう。
「まだるっこしいのは苦手なんだ。情報ってのはなんだ?」
「重要なお話になりますが、このまま話しても構わないでしょうか?」
「ああ、構わん」
精霊の話をするつもりなんだけれど、良いんだ。
連れてきたクマさんはすでに退出されているようだし、リーダーとその子供っぽいのを除くと、参謀っぽい人しかいないけれど。
参謀さんはなんか草食動物っぽい角が生えてる。
大丈夫だろうか、リーダーに食べられないだろうか。なんて。
「わかりました。わたし達がお伝えするのは、ウィリディスに存在すると言われる精霊の話です」
「ほう? 精霊の名を出すってこたあ、適当を言いに来たわけじゃなさそうだな?」
リーダーの話し方的に、ここでも精霊は秘匿されていると見て良いだろう。
そして上層部は精霊について把握していると。
どこまで伝わっているのかはわからないけれど、それは話しているうちにわかってくるか。
「わたし達が持ってきたのは、精霊の樹に存在する精霊の場所に行く方法です。
あとエルフたちの状況についても、少しならお答えできるかと思います」
「まずはその方法を聞かせてもらおうか」
豪快な話し方とは裏腹に慎重にこちらを窺っている様子だ。
別にここで嘘をつくつもりはないので、正確な情報を伝えることにする。
「精霊のところへは、エルフの王の私室の鏡から行くことができます。
方法は王冠を被って、私室の中にある鏡に魔法陣を書くことです」
「魔法陣は?」
「こちらに書いております」
魔法陣を書いた紙をテーブルの上に置く。
あちらからはまるで見えないだろうけれど、後で確認してくれればいいと思う。
「またエルフ王の私室に行くためには、バリアを越えなければいけませんので、その対策も必要です」
「エルフの様子はどうだ?」
どうやら僕達のことをある程度は信用してもらえた、と思う。
もともと精霊の情報はある程度持っていて、僕の言葉と比較していたのだろう。
話をちゃんと聞いてくれる気になったのなら、第一関門は突破で良いだろう。
「わたし達と戦う準備をしていました。ですが、フラーウスとニゲルの戦争が始まるまでは攻めてくることはないようです」
「こっちと変わんねえな。まぁ……利用しない手はないか。他に何かあるか?」
「はい。精霊と言うか、この世界について気になる話を聞きました」
ではでは、これからウィリディスの命運をかけたお話を始めましょう。
いや、命運も何も精霊は持っていくんだけど。





