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 獣人族の集落はエルフ族と同じように、自然と調和した……とはいえない。あちらが調和させた建物であるなら、獣人族のそれは掘っ建て小屋だ。

 木の板を組み合わせて、何となく家の形にしました。と言わんばかり。

 技術力の差もあるだろうけれど、急遽こうやって作ったからと言う事情もあるらしい。


 エルフと同じく戦力を集めているわけだ。


 今の僕たちは獣人に擬態しているけれど、この集落に入れてもらうまでに一手間掛かった。





 獣人の集落は森の奥まったところにある。それこそ、そこそこ強い魔物が潜んでいるような場所だ。

 ざっと周囲を窺ってみた感じ、C級が中心。B級もちらほら。

 さらに深いところに行けば、なんとA級の魔物も見ることが出来る。


 この森にいたのは神狼(ルプスデイ)。簡単に言えばとても大きくて、毛皮ふわふわな狼。

 ラノベとかだとフェンリルとか言われているであろう、ああいうやつ。

 フェンリルも作品によって能力が違うし、何なら女の子になることもあるけれど、この世界の神狼は普通に魔物。頭が良いから頑張れば意思疎通ができる。


 と言うか、僕は神狼の声が聞こえる。『獣の耳』とかあったね。うん。


 まぁスキルは使わなかったけれど。

 断末魔とか聞こえるし。


 それからどうでもいいけれど、神ではない。神ほど強いわけでもない。

 たぶんデコピンで倒せる。風竜よりは強いけれど、ステータス差は10倍ほどあるので、僕にしてみればどんぐりの背比べでしかないのだ。


 ともかくしばし神狼を眺めていて、鼻をクンクンさせているのを見てふと気が付いた。

 獣人は鼻が良いのではないだろうか。

 全員がとは言わないけれど、鼻が良い種類? は居るだろう。


 獣人が数種類居るのは確定だし、以前見たネコ科っぽい獣人しかいないということもあるまい。


「獣人ってどれくらい種類がいるんですか?」

『世代によっても異なるので、今どれくらいかと言われてもわかりませんが、昔は数十種類いるとも言われていましたね』


 確認は大事。

 ルルスの知識は古い事もあるけれど、それでも僕よりも使える知識が多いので助かる。


「今は減っているかもしれないし、増えているかもしれないんですね」

『そうなります』

「獣人の特徴は耳と尻尾で良いんですか?」

『はい。あとは個体によって耳が良いとか、目が良いとか、鼻が良いとかの違いがありますね』


 なんとそれは良い情報であり、そして悪い情報だ。


「つまり耳と尻尾があれば、初めて見るような種類でも受け入れてもらえるわけですね」

『今の獣人の種類を知らない以上、安心ではありますね』

「そして匂いには気をつけないといけないわけですね?」

『そうですね。『隠密』は有効みたいでしたから、ずっと隠れていれば大丈夫だと思いますが』

「それはパスです。まあ、適当な言い訳でも考えておきましょう」


『隠密』でスッとリーダーの首を狩ってくることもできるだろうけれど、それではあんな『契約』をした意味がない。


 結果が変わらなかったとしても、過程は大事にしたいよね。

 結果だけで言えば、この世界は崩壊するのが最終的な結果になるわけだから、過程を大事にしないとそれはもう何もないという結果だけが残るもの。


 と、自分自身に言い訳しつつ、匂いで獣人ではないとバレそうになった時の設定でも考えることにしたのだ。





 そんなこんなでやってきました獣人たちの集落。

 壁がないから安全性なんて放り出しているようだけれど、その分見張りが多い。

 獣人1人1人がそれなりに戦えるからこその作りなのだろう。


「獣人1人1人が」と言うよりも、「ここにいる獣人は」と言った方が正しいようにも思う。

 見張りがいっぱいいるので、見つけてもらって案内してもらうことにする。

 ここからが演技のしどころだ。


 見張りを見つけると、何かから逃げるように走ってその見張りのほうへ行く。

 驚いた見張りが「何事だ」とこちらに殺気を向けてくるけれど、僕たちの姿を見て警戒を緩めた。

 見張りは何だか犬っぽい耳をしている。


 僕もルルスもたれ耳兎のコスプレをしている。なぜ兎かと言えば、単純にウサギが好きだから。

 ロップイヤーのヘニョンとしている様が、脱力感があって好きなのだ。

 ルルスをロップイヤーにしたら、僕もしておいた方が2人の関係性を説明するのが楽になるから、僕もそう見せかけている。


「何があった?」

「えっと、わたし達エルフに紛れて暮らしていたんですけど、最近危なそうだったんで逃げてきたんです」

「そうか。だから匂いが無いのか。でも、どうしてあんな奴らに紛れていたんだ?」

「匂いは万が一に備えて日ごろから消すようにしていました。匂い消しは簡単に作れますし……。

 エルフに紛れていたのは、わたし達の一族がそう命じられたからだと……」


 勝手に匂い問題を解釈してくれたので、喜んでそれに乗っかる。

 エルフの匂い的な何かがすると思っていたのだけれど、僕たち無臭なのね。

 まあ、ルルスは精霊だし、僕は亜神だし、無臭と言われても、そうだろうなとは思うけど。


 匂い消しについては、本当に簡単に作れる。

 たぶんその辺に生えている草を引っこ抜いてくるだけで材料がそろう。

 何だったら『創造』を使って、今すぐ作ることもできる。


 で、今回の設定はかつて獣人族の王様にエルフに紛れて情報を集めるように密命を受けていた、一族の末裔。

 尻尾が小さく、耳が垂れていて髪に隠せるためその命を受けたとか、安い理由付けもある。

 その王が亡くなった後も、獣人族のため密かに活動していた、そんな同族愛溢れる一族なのだ。


 何て白々しいんだろう。それに少し前までは、エルフと獣人で争うことなんてなかったみたいなので、紛れて生活していても何の危険もない。


 まあ、ここまでが一般に話せるところ。

 今回はエルフを倒したとしても、精霊の居場所がわからなければ打倒しても意味がないということを伝えるためにやってきた、という裏設定付き。


「そうだな。とりあえずリーダーに話を通しておく。

 それまでは、詰め所で待っていてもらおう」

「はい。わたし達も早く王様に会って伝えないといけませんから」


 こうやって、僕とルルスは獣人の集落に足を踏み入れた。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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