閑話 作戦結果報告
「報告を聞こうかしら?」
「はっ! トルークとワスターの全滅を確認。無事作戦は終了しました」
わたくしに――というよりも、王族のために――用意された執務室で、今回の作戦の指揮官から話を聞く。
彼は特に王家への忠誠が強い、この作戦についての詳細な理由を知っている側。
非道な作戦に起用するには惜しい人だが、信頼できる人物をつけたかったので仕方がない。
幸い彼も作戦の重要さを理解してくれているので、歯がゆい思いを飲み込んでくれている。
「作戦に関係なく、何か気になることはあったかしら?」
「勇者達の消耗が激しいです。ほとんどの者は精神的なものですが、ヒカリに関しては魔力の枯渇が酷く回復に数日を要するでしょう。
また勇者間の雰囲気も良いものとは言えません」
「ヒカリは役に立ったみたいね?」
「あの魔法の威力はすでに国一と言っていいでしょう。
相手に碌な魔法使いがいなければ、彼女1人で戦況が変わります」
この世界に来て季節が一回りもしていないとは言え、勇者の従者としての能力はさすがだということだ。
全幅の信頼を置くわけにはいかないけれど、失うと惜しい人材には違いない。
本来なら『勇者』がそうあるべきところだとは思うが、今のタカトシはただステータスが高いだけの存在。それだけでも駒としては十分だけれど、戦況を変えられるほどではないと聞いている。
今は短期間で成長したヒカリを褒めておくべきか。
「ひとまずニゲルに攻め込む大義名分が、得られたというわけね」
「現在各国に使者を派遣していますが、そのあたりは問題ないかと存じます」
各国の反応はサキに集めさせるとして、今日や明日攻め込むわけでもない。
遠くはないその日が来るまで、勇者達には休みを与えても良いだろう。
戦争になった時に、役立たずでは意味がないから。
「使用した武器や防具はちゃんと揃っていたかしら?」
「そちらも滞りなく揃っていることを確認できております。
しかし1本だけ全く汚れのなかったものがございました」
「今回の作戦、汚れないということはあるのかしら?」
「魔法で攻撃をしてしまえば、汚れないということもありえます。
今回汚れていなかったのは、タカトシが使っていたものですからその可能性もあります」
『勇者』は『賢者』程魔法が堪能ではないけれど、十分に魔法使いとしてやっていけるだけのステータスはしている。
だから報告通り魔法しか使わなかった可能性は否定できない。
だけれど、彼自身がそうだとは思っていなさそうだ。
「気になることがあるわね? とりあえず報告してくれないかしら?」
「彼の剣ですが、使わなかったと断言することができませんでした。
まずタカトシが剣を使っているところを私も目撃しております。加えて汚れてはいないものの、刃こぼれなど確かに使用した形跡も残っていました」
「タカトシが自ら剣を綺麗にした可能性はあるかしら?」
「無いとは言えません」
「わかったわ。下がって頂戴」
報告を終え彼が執務室を出ていく。
なぜか1本だけ汚れていない剣。
気にはなるが、数は揃っている。そもそも王都で普通に売られている剣を使わせたので、何かあったとして足が付くことはない。
数が足りずに途中で買ったということもないだろう。
それならきちんと報告する者をつけたのだから。
今はそれを考えるよりも、今から起こる戦争について考えなければ。
とはいっても、わたくしにできることは多くない。
戦争を始めるか決めるのは国王の役目。
戦争に勝てる案を出すのは軍師の役目。
戦うのは兵士の役目。
わたくしにできることと言えば、戦争が始まった時に起こるであろう国内の混乱を収める方法を考えることくらい。
それについても、あまり危惧はしていない。
戦争をする相手はニゲル国。その理由は魔族に町と村を壊滅させられたから。
しかもニゲルを倒す存在として、勇者の紹介も終えている。
ここまですれば民たちも納得してくれるだろう。
むしろ仇敵とも言えるニゲルとの戦争であれば、多くの民が支持してくれるはず。
後は各国との調整だろうか。
何にしてもわたくしができることは少ない。
「わたくしに何ができるかしら?」
頭を整理するためにも、ソテルに話しかける。
執務の邪魔にならないところに立っていたソテルは「恐れながら」と応え始めた。
「最近の殿下は働きすぎのように思います。
ニゲルとの一戦が始まってから体調を崩されても困りますし、状況が動くまでお休みなさってはいかがでしょうか」
「確かにここの所、休みはなかったわね。
勇者たちが休んでいる間、緊急時以外はわたくしも休んでおきましょうか。
その前に目の前の書類を片付けないといけないけれど。お茶を入れてくれるかしら?」
「畏まりました」
何かしなければと躍起になっていたけれど、今のところは滞りなく進んでいる。
何かしら大きなイレギュラーがない限りは、ニゲルとの戦争が始まるだろう。
そして考え得る最大のイレギュラーはすでに朽ち果てたか、そうでなくても勇者を投入する戦争を妨害することはないはずだ。
むしろこれを邪魔するものと敵対する可能性すらある。
それよりも気にすべきは、身内のほうか。
反王族派が戦争反対を訴えようとしている情報がある。
こちらは世論が戦争に傾いているので、大ごとにはならないだろうけれど、監視はしておくべきか。
すでに国王が監視をしているとは思うけれど、わたくしの息のかかった者もつけておきたい。
手配をしたら、予期せぬ事態が起こらない限り、私室で待機しておこう。
久しぶりに体を動かすのも良いかもしれない。それから時間があるなら、剣を見ておこう。
◇
後日確認した剣は素人目にはおかしいところはなかった。





