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「できれば王様一人の方が良かったんですけどね」
「できるわけがなかろう」
騎士長がこちらを威嚇するように言うけれど、威圧感はまるでない。
むしろこちらに怯えているようにも見える。
大変だね。いつかのこと思い出したのかな?
でも仕事だから、来ないと駄目なんだよね。
王様と二人で話ができないかと持ち掛けると、普通に謁見の方式になった。
すなわち、護衛や上位貴族っぽい人もいる。
別にいいのだけれど。僕は全然困らないのだけれど。
精霊についての話だよ? 世間に広まっても知らないよ?
ここにいるレベルの人なら知っているのかもしれないけど。
国王が訝しげながらこちらを見る。
「して、何用だ?」
「あまりに待機時間が長いので、提案しに来ました」
「提案だと?」
「何を勝手な。行動するには時期を窺わなければならぬ。
そんなこともわからずに口を出す気か?」
一言話すと国王以外が口を挟んでくる。
止める気がなさそうな国王も国王だけれど、これだけでも王様だけが良かったって思うよね。うん。
それに今まで政治にかかわったことがないであろう小娘に、それを理解しろとか何を言っているのだろうね。
「呼び出しておいて放置しているんですから、勝手はそちらも同じことです。
せめていつ、何を、どのようにするかくらいは、教えてくれても良いんじゃないんですか?
なんだったら精霊の樹を出ていきますよ?」
「獣人どもに好き勝手させていいと思っているのか?」
「そもそも獣人をそんなに知りません。
わたしもエルフの一人ということで来ましたが、今の対応では協力しようという気も起きません。
ですから、せめてビジネスライクにいこうかと思いまして」
フフフと笑えば、全方位から殺気がやってくる。
たぶん並の使い手なら、それだけで意識を失いそうな威圧感があるけれど、僕には全く通じない。
何なら魔法が飛んできても通じないと思う。
まだ本格的に対立する気はないので、『威圧』を返すだけで許してあげましょう。
あ、数人震え出した。ご愁傷さまです。騎士長とか汗だらだらですが、大丈夫ですか? トイレとか行ったほうが良いんじゃないですか?
駄目ですか。お仕事頑張ってください。ボクもお仕事手伝いますね。『威圧』マシで行きます。
「で、どうしますか?」
「提案とやらを聞こうではないか。そこまで言うのだ、期待して良いのだろう?」
騎士たち以外には『威圧』をしていないので、国王が不遜な態度で返してくる。
この辺りは他の人とは違う感じがするよね。僕を利用してやろうみたいなことを考えているのがよくわかる。
それとも隣の騎士長の様子をうかがったのかな?
明らかに顔青いもんね。こちらの機嫌を損ねないようにしつつ、威厳を保とうとしているのだろうか。なんにしても、話を聞いてくれるなら僕はどうでもいいや。
「獣人族の首魁の首を取ってくるので、願いを1つ叶えてください」
「兵は出せんぞ?」
「元より一人で行くつもりですよ」
「何を無茶な。少々強いからと調子に乗るでないぞ」
やっぱり国王以外に『威圧』しておいた方が良かっただろうか。ギャラリーがうるさい。
誰さんか知らないけれど、周りが見えていないのだろうか。
君達を守る騎士で動けそうなのは2~3人しかいないけれど。その2~3人も既に顔を歪めているのだけれど。
国王が「良い」と窘めるので、これ以上は何も言われなかった。
やっぱり騎士長の様子をうかがっていたのかな。
「真に可能であるか?」
「可能か不可能かであれば、可能だと答えましょう。
もちろん首をここに持ってきますので、ご自身で確認すればいいかと思います」
「そこまで言うのであれば信じよう。だが失敗した場合、助けはないぞ?」
「構いませんよ? 首魁を倒すだけで足りなければ、その時にまた新たに契約を結びましょう」
「……して、願いと言うのはなんだ?」
「言わないと駄目ですか? 別に難しいことではないんですけど」
「話せ」
そんな睨みつけなくても、国王に死んでほしいとか、僕を国王にしろとかそういうことではないんだけど。でも、まあ……話さないと先には進まないんだろうな。
「わたしをこの樹にいる精霊のもとまで連れていってください」
「何が目的だ? そもそもなぜ知っている?」
「単なる興味です。なぜ知っているかと言えば、なぜこのタイミングでエルフの上位種が出てきたのか考えれば、わかるんじゃないですか?」
驚く国王に適当なことを返しつつ、周囲の様子を窺ってみるけれど、そこまでざわめきは大きくない。何人かが「精霊……?」と首をかしげている程度だ。
つまり上層部であれば、それなりに精霊の存在を知っていたということで良いだろう。
そういえば、精霊を解放するみたいな運動を前王が起こしたわけだから、それなりの年齢であれば知っていてもおかしくはないのか。
首をかしげているのは、この中でも比較的若い人っぽいし。若いと言っても、200~300歳。全然若いとは思えない。
「……うむ」
何を納得したのかわからないけれど、納得したのならそれでいい。
とりあえずやることをやってしまおう。
「では、わたしが獣人族のトップの首を持ってきたら、この国にいる精霊のところまで連れていってもらうということで、契約してくれますね?」
「良かろう」
「それではわたしは準備をして明日にでも出立しますので、御前を失礼いたします」
ということで、穏便にいくのは難しそうなので、国王に案内してもらう方向で行こうと思う。
あくまでルートの1つだけれど。
もう1つのルートに行くかどうか、考えるためにも獣人族のところに行ってみよう。そして獣人の擬態をしたルルスの耳を堪能しよう。そうしよう。
でも、その前にフラーウスの様子でも見に行こうかな。
空を全力で行けば、すぐに着くだろう。





