8
おそらくここまでが序章です。
◆◆◆◆◆◆
おはようございます。
目覚めはとてもとてもいいです。ここ数年の中でも、随一だといえるでしょう。
これが健康かと、新発見できるほどです。
ここ数年不健康だったと言われても納得できるほどです。
「どうやら、体は上手くなじんでいるね」
「そうですね。体調が良いのは、亜神なせいですよね?」
起き上がろうとしたときに普段感じないところに重さを感じて、普段存在を感じていた場所に何もないのは違和感だけれど、すぐに慣れるだろう。
しげしげと新しい体を見ると、なかなかスタイルが良い。
胸はそこそこ、腰はきゅっとくびれていて、すらっと長い脚が伸びている。
それでもって、白人かと思うくらい白い。
首を左右に振ってみると、頭の横当たりが変な感じがする。
手を当ててみると、なるほど耳が伸びている。
「エルフってやつですか?」
「体調の良さは亜神になったせいもあるだろう。
人間生きていると、どうしてもどこかに不調があるものだからね。
君の身体のもとになっているものは、エルフで合っているよ。正確にはエルフの中でもさらに古代種である、エンシェントエルフというものだね。
今後どう選択するかにもよるけれど、寿命も無くなったわけだから、誤魔化せる種族のほうが何かあった時にちょうどいいからね」
「本当のところは?」
「手元にそれしか余ってなかった。世界を造り始めた時の余り物って言ったらいいのかな」
僕の新しい体は余り物でした。
でも、余り物には福があると言わんばかりのスペックをしていそうだけれど。
先ほどから聞こえる自分の声は、高く澄んでいて、客観的に聞くことができれば思わず聞きほれてしまいそうなほどだ。
見た目はどうなんだろう……と思っていたら、目の前に姿見が現れた。
心を読まれるのにもだいぶ慣れたものだ。
ふむふむ。いかにもエルフって感じの美人顔。でも、幼い感じもする。
身長も死ぬ前と比べると二回りくらい小さくなっていそうだ。
「亜神って話でしたけど、人間との違いってなんですか?」
「睡眠と食事の必要がなくなるね。どちらも嗜好としては取ることができるから、人と行動して極端に違和感を覚えることはない。
あとは単純にステータスが高い。逆に言えば、亜神はまだステータスに縛られているよ」
「ステータスも神様が設定したものでしょうからね。
世界によってあったりなかったりするでしょうから、あの世界に縛られるってことですか?」
「察しが良いね。君は今から送られる世界においてのみ、最強の存在になる」
「それって、外から来た勇者には無力ってことじゃないですか?」
「世界を移動した時点であり方を作り替えられているから、ほぼその心配はない。
でも奇跡とか、バグとかで亜神に刃が届く可能性が無いとは言い切れない。その奇跡とかバグっていうのは、すでに君も見ているわけだけど一旦置いておこう。
届きうる可能性がある刃だけれど、君もまた外の世界の者だから、気にする必要はないよ」
気になるけれど、神様がさっきから名前を呼んでくれないのは、もしかして名前が変わるからだろうか。
「新しい名前は与えるけど、今気になるのがそことは、なかなかに神様してるね」
「それはありがとうございます」
「君の名前はひとまずフィーニスだ」
「ひとまずなんですね」
「神の名前はその在り方によるからね。君が仕事を終えた後の選択によっては、名前が変わることは十分にあり得る」
「それで僕が気にしなくていいって言うのは、外の世界から来たからってだけではないですよね?」
「ああ、とりあえず自分のステータスを確認すると良い」
それじゃあ、ステータスオープン。
フィーニス
年齢:0 性別:女
体力:1540
魔力:1762
筋力:1454
耐久:1293
知力:1450
抵抗:1431
敏捷:1618
称号:亜神
スキル:言語理解 契約 騎士 友情 勇者 光の使者
鍛冶 陰謀 設置 元気印 我武者羅 幻術 悪戯
弓術 指揮 錬金術 逃走 薙刀術 冷静
着飾 賢者 高速詠唱
扇動 雲隠れ 隠密 隠蔽 化粧 目奪
亜神の目 万能 鉄の身体 威圧
武器創造 魅了 詐称 速読
テイム 獣の耳 聖女 光の障壁
ムードメーカー 古使
「とても見辛いです」
「最初にそこなんだね」
「頭おかしいステータスしていますね。
推測するに、クラスメイトの能力全部足しましたね?
スキルも彼らが持っていたものを、適当に選別してツッコんだだけです。
ただその時に、上位のスキルに入れ替えたのもありますね。『万能』は『器用貧乏』からでしょうし」
「その通り。邪魔になりそうなマイナスのスキルは、適当に省いておいたよ」
正直すべてを把握するのは無理だと思う。
いや亜神の頭ならいけるのだろうか。でも、理解しようとする気持ちがわいてこないから、便利そうなものだけ確認しておこう。
……なんだこれ。
「聖女のスキルの効果に『正しき聖女は神に守られる』ってあるんですけど、神様は山辺を守っていたんですか?」
「今現在において、聖女として認めているのは君だけだよ」
「つまり山辺の聖女は回復魔法がすごいだけなんですね」
「君が望むなら守るけど」
「どっちでもいいです。神様的に有効そうな方を選んでください」
まあ、僕が勇者たちの能力を足したものだというのであれば、どんな奇跡が起こっても勇者たちに負けることはないだろう。
それにしても『勇者』とか本気でズルっぽい。時間制限があるとはいえ、ステータスを上昇させることができるらしい。今の市成だと3分間1.5倍にできそうだ。
さてステータスを見るうえで、桁がおかしいのは僕が世界最強だからということで納得しよう。
もしかしなくても、この世界って各ステータスの最大値999だったりするのだろうか。
現状の疑問としては魔力値。もともと僕が持っていた契約があるのに、減ってない。良いことなんだけど、理由が気になる。
「それはフィー君のそのスキルが、バグに当たるものだったからだよ」
「僕がバグっていたんですね」
「バグと言うか、強すぎたんだね。偏ったステータスはこの世界に来る時に、スキルに引っ張られたから。スキルに合わせて君の在り方が変えられたんだ。
人にしては膨大な魔力を持っていても、強すぎる力を使うためには代償が必要だったんだよ」
「スキルが契約と翻訳だけだったのも」
「君のスペック的に余裕がなかったからだね。
スキルって言っても、だれ構わず使えるものじゃないんだよ。君にも経験があるだろう?」
「あー、『魅惑』が効きませんでしたね」
「そう。普通はステータスをベースにした抵抗が行われる。
でもフィー君の『契約』は問答無用で履行させる。しかもそのスキルは亜神レベルにも通用する」
「亜神って人より存在のレベルが上じゃなかったでしたっけ?」
「上だよ。でも効果があるの」
「バグってますね」
「ステータスも制限されるよね」
もっとちょうどいい感じに効果を発揮してくれたらよかったのに。
今となってはどうでもいいけど。
「さて、そろそろ世界に戻ってもらおうかな。
一応こっちとは連絡とれるし。こういう時に聖女は便利だよね」
「んー、とりあえず何したら行動しやすいとかありますか?」
「人に紛れるなら、冒険者が無難だと思うけど、正直常識を聞かれても答えられないよ。今の世界の常識とか興味ないし」
「服装ってこれですか? あとお金ください」
「服装は君の判断に任せるよ。送るときにどんな服装が良いか考えていてくれたら、自動的にそれにするから。お金は……まあ、いいか」
「ありがとうございます」
「世界的にみると壊れるまでもうすぐだけど、適当に世界を見て回るくらいの時間はあるから、のんびり働いてくれたらいいよ」
「そうします。とりあえず王国の様子は知りたいですし」
とりあえず、第一目標はクラスメイトがどうなったのかの確認かな。
それから、王国の精霊の場所も調べておきたい。
調べた後どうするかは、クラスメイト達の扱い次第だろう。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
手を振る神様に見送られて、再び僕は世界に降り立った。
スキル等は気が付いたら代わっているかもしれません。適当に放り込んだだけなので……。