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 前王を見つけた日の夜。僕もルルスも寝なくて良いので、もう一度探索をしてみたけれど、特に何か新しいものを見つけることはできなかった。

 フラーウスの続報とか知りたかったけれど、そんなにすぐに入ってくるものでもないのだろう。

 さっそく精霊の樹でやりたいことがなくなってしまった。


 これが他の町だったら、適当に狩りをしてお金を稼ぐところなのだけれど、僕が堂々とハンター活動をするのを国が許してくれるのかわからない。

 だからと言って、国王に呼ばれるわけでもない。


 退屈なので適当に人を捕まえて、精霊の樹を歩いていいか聞いたら、誰かと一緒であれば構わないという答えを得られた。

 僕が逃げ出さないようにするための措置だろう。

 部屋の中に押し込められていても仕方がないので、その申し出を受けて堂々と精霊の樹を巡ることにする。


 あと、ついでに国王に謁見できないか尋ねておいた。

 答えは後日来るらしい。さすがに1国のトップともなれば、会うだけでも一苦労だ。


 というわけで、エルフがいっぱい――とは言っても、他の場所に比べればだけれど――の精霊の樹の下層に来てみたわけですが。


「どうしてお目付け役が王子なんですかね?」

「さあな。何をする気だ?」

「ただの観光ですよ。連絡が来るまで待機とか、暇で暇で仕方がありませんし」

「じゃあ好きに歩け。オレ()は付いて行く」


 はい。「達」なんです。王子が1人付いてくるだけで、護衛が5人付いてきます。

 お得ですね。


 さすがにお忍びの格好をしているのが、救いだろうか。

 人が集まってきて足止めとかは勘弁してほしいし。


 それはともかく好きに歩けと言われたので、好きに歩きます。

 お目付け役だと分かっているので『隠密』使って全力で隠れたり、ついてこられないような速度で走ったりはしないけれど、王子を連れているなんて気にせずに食べ歩きます。


 鳥っぽいのの串焼きとか、兎の香草焼きとか、野菜スティックとか、結構いろいろなものを売っている。

 全体を見ると動物のお肉が多めに感じるのは、エルフだからこそだろう。

 野菜が少ないのは、そこまで農業をしていないから。

 エルフはお肉を食べないという作品もしばしばみるけれど、そうなると森の中で食べられるものってかなり限られてくる。


 畑とかやっていたらそれでもいいのだろうけれど、そうじゃない作品のエルフさん達は冬に何を食べているのだろうか。

 そもそも冬という季節がないのかもしれない。


 そんな風にどうでもいいことを考えながら食べ歩くこと、7軒目。

 屋台のように外で買ってそのまま食べられるようなところメインだったけれど、一度腰を落ち着けようとカフェみたいなところに入った。

 果実水・酒のお店らしく、強ちカフェで間違ってなさそうだ。


 注文をして2人用の席に座ると、当然のように王子が向かいに座ってきた。

 護衛は大人数で座れるところに集まって、こちらを観察している。

 我が物顔で座ってきた王子は、なんだかとても機嫌が悪そうだ。


 言われたとおり、本当に気にせずに食べ歩いていたのに、なぜ不機嫌なのか。

 言われたとおりしたからか。新人にそこまで求めるのは、酷ではないのか。


「上位種というのはそんなに食べるのか?」

「むしろあまり食べなくていいと思いますよ。わたしは食べるのが好きなので、食べられるときには食べているだけです」


 不機嫌なりに話しかけてきたので、適当に応じる。

 本当は食べなくていいのだけれど、それではさすがに不自然と言うか、説得力がないだろうし。


 会話が止まる。頼んだ果実水が運ばれてくる。

 一口飲んでみる。柑橘系の酸味と桃の甘みが合わさったような、なかなか美味しい果実だ。

 甘いものは好きだけれど、同じ甘味でも砂糖のようなそれが食べたいときと、果物のような甘味が欲しい時って違うと思う。


「単刀直入に聞こう。このままだと世界は崩壊するんだな?」


 不機嫌だった王子がなんだか真面目に話しかけてくる。

 前回のやり取りで思うところがあったのだろう。前王が言っていたやってきた1人というのは、この第六王子様だろう。

 強いて話すこともないけれど、嘘をつく意味も思いつかない。


 だとしたら面白そうな方を選ぶということで、頷いた。

 ついでに周りに声が聞こえないようにしておく。


「崩壊しますよ。どれくらいかは知らないですが」

「それは精霊を解放しなかったせいか?」

「精霊について話していいんですか?」

「お前はおそらく知っているだろう?」


 なぜそんなに自信たっぷりなのかはわからないけれど、話が早いから良いか。


「ここでの話は王子の中に止めておいてください。約束ですよ?」

「分かっている」

「精霊は大きな理由の1つですね」

「では精霊を解放すれば、世界は崩壊しないのか?」

「試してみてはどうですか?」

「オレは精霊の場所を知らん。それに精霊が失われれば、精霊の樹にどんな影響が出るか定かではない」


 あー、精霊のお陰でどうにかなっているんだっけ?

 精霊を回収した瞬間、世界よりも早く崩壊が始まる可能性があるのか。


「だとしたら、何か兆候が起き始めた時に、すぐに民を逃がせるようにしておいたほうが良いかもしれませんね」

「お前……何かする気なのか?」

「精霊の力が弱まってきているから、獣人族と対立をしているんですよね?

 精霊の力がなくなるのだって、そう遠くないかもしれませんよ? 下手したら明日とか言われてもわたしは驚きません」


 そこまで言って立ち上がる。王子様、もう少し相手の言葉を疑うことを覚えたほうが良いと思う。

 疑ったうえで、話を聞くことに集中したのかもしれないけれど。


 何はともあれ精霊を回収するのは変わらないし、精霊の樹に何かがあった時、王子が何をできるのかでエルフの生存数が変わりそうだ。

 僕は前王だけは逃がしておくとしよう。鍵があると便利そうだし。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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