60 VS骨董品
閑話と言うか単なる別視点でしょうか?
ホラーっぽいかもしれません。
儂の名はロゴハス・ギィス・トストロミーク。
神聖なるエルフの国、ウィリディス王国において王より騎士長の位を賜っている。
騎士長とはいえ、ウィリディスを守る騎士の中で最も強いというわけではない。
ステータスだけで見れば、儂を大きく上回る者もいるのが現実だ。
だが儂もA級程度の実力は有している。
家柄まで考慮すれば、儂以外に選択肢がないのも頷ける。
ギィス氏族は長年にわたって、王家を守護してきた一族。
王から騎士長を賜るのも、やぶさかではないのだ。
儂が騎士長となり、しばらくは平和な世が続いていた。
しかし時間が進むにつれ、精霊の樹の外に住む同胞達から、森の力が弱まったと報告があった。
実際に兵を派遣してみれば、確かに活力を失いつつあり、森の恵みも少なくなっているようだと結論づいた。
上位氏族を含めた上層部にしか伝えられてないことだが、精霊の樹には実際に精霊が存在する。
その精霊を使い賢き民である、我らエルフが森をウィリディス国を管理してきた。
此度の報告は、精霊の力の減少が考えられ、王がまず危惧したことが獣人どものとの関係だった。
元より盟約により我らが精霊の力を管理する代わりに、その恩恵を多く受けている。
だがこのまま精霊の衰弱が進めば、獣人どもが出しゃばってくる恐れがあった。
だから王は、来る対獣人戦に備えて戦力を集めるために、末端の騎士を各地へと派遣したのだ。
◇
恵みの減少に気が付いた獣人どもとエルフの対立が始まり、広まってきたころ。
上位種のエルフが見つかったという報告が入った。
上位種と言えば、ステータスで言えばかつて人族の間で生まれた勇者と同等と言われるほどの力を持つと言われている。
引き入れることができれば、当然戦力としては申し分ない。
それに上位種が現れたということで、こちら側の士気を上げることもできるだろう。
コレギウム・ヴェナトを通じそのエルフの力を測り、確かに上位種しかもエンシェントエルフだろうという結果を得たため、頃合いを見て精霊の樹に招くことになった。
やがて現れた娘は、傲岸不遜な輩だった。
王の前に跪かず、王と同格なのだと喚く。
事前の通達でありはしたが、儂を含め納得のいっていないものも多いだろう。
ポッと出の分際で、王と同格などと馬鹿げている。
そもそもこんな小娘が本当に強いのか?
上位種なんて嘘なのではないか?
獣人との戦いになれば、背中を預けるかもしれない。だが、誰が骨董品を嘯く小娘に背中を預けられようか。
民の扇動には使えるだろうが、前線などもってのほかだ。
まかり間違えて生き残りでもしたら、手柄を横取りされてしまうかもしれない。
だからどちらが上かはっきりさせるつもりだった……のだが、この場では王に止められてしまった。
だから謁見後、自称骨董品がいる部屋に出向く。
王が許可することはないとは言ったが、騎士長の権限さえあれば許可は必要ない。
強いて言えば、儂自身の許可が必要になるわけだ。
奴が宛がわれた部屋に入り、こちらを見るより先に近づき、背後からその胸を短剣で突き刺す。
エンシェントエルフを名乗る以上、これくらいの不意打ちに対応できてしかるべきなのだ。
それが出来なかったというだけで、エンシェントエルフと言うのはこやつの狂言になる。
欲に目がくらみ王を騙したエルフが1人消えるだけ。
そして今現在。自称骨董品の心臓には儂のナイフが突き刺さっている。
つまりこやつはエンシェントエルフなどではなく、ただの小娘だったわけだ。
「エルフの時代に骨董品などと自称するからよ」
――そう思っていた。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
だが、儂が安心したところで、狂ったような笑い声が聞こえてきた。
目の前の大量の血を流す死体から。
グルンと首が回り、顔だけがこちらを見る。
生気のない瞳は儂の心の内を見据えているようで気持ちが悪く、笑顔に歪んだ口元はその目と相まって不気味でしかない。
「ハハハハ、ソッチからヤッタンデスカラ、殺されても文句ナイデスヨネ?
なかなかニ美味しそうなお肉デスネ」
そんな声が聞こえてきたかと思うと、儂の首に食いついてきた。
まるで獣のような顎は、皮を、肉を、骨までもかみ砕く。
振り払おうと、逃げようとしたが、しびれ薬でも飲まされたかのようにまるで体が動かない。
首から流れる血が、温かければ温かいほど、体の方が冷えていくような感覚に陥る。
エルフなんてとんでもない、こいつは魔物の一種に違いない。
魔物であれば勝てぬはずがない、と自らを鼓舞してみても、情けないか細い声が「あ……あ……」と漏れるだけ。
儂が動けない間に、魔物が右腕にかみつく。
生きたまま喰われる感覚も、何もかも恐怖で何もわからない。
左腕、左足、右足。
四肢を失った儂を見下ろす魔物は大きく口を開け、その顔が近づいてきたかと思うと、儂の視界が真っ暗になった。
◇
気が付いたら、廊下にいた。
慌てて両手を見るとちゃんとある。
両足も問題ない。首にも傷一つなかった。
こんなところで眠ってしまったのか。
そう胸をなでおろした瞬間。目の前の扉から「ハハハハハハ」と狂った笑い声が聞こえてきた。
生きたまま食べられる感覚が明確に蘇る。
そうして儂は逃げるように立ち去った。





